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母と父の香り

ゲランのミツコ。これは私の母親が使っていた香水の名前だ。

少しだけこの香水のお話をさせて欲しい。ミツコのボトルの形はハートを反対にしたような形。スペードと言ったほうがわかりやすいかもしれない。色は黄色。香りは大まかに言うとシプレー調なのだけれど、その中にはベルガモット、ジャスミン、ローズ、ベチパーの4つがキーノートになっていると言われている。ネットには色々な口コミがあるが、私にとっては母の香り以外のなんでもない。

私の母はとにかくファッションにうるさかった。ネイビーとかブラックとかそういう暗い服の時もあれば、全身真っ白のワンピースを着ることもあった。そこにネックレスやピアスをうまい具合に合わせるのが母のファッションだ。

一方で、私の父は少し変わっていた。ディオールのソヴァージュ。これは私の父親が使っていた香水の名前だ。

この香水は青と黒のグラデーションの効いた円柱型のボトルだ。香りは爽やかで男らしい香り。優しい男と言うよりも、寡黙で紳士的な男性の雰囲気がする人によく似合いそうな香り。

父はいつもネイビーのジャケットを着ていた。どんな時もジャケットに白いシャツを合わせて着ている。母とは対照的でファッションに興味がないのかと思い父に聞いたことがある。

「どうしていつも同じ服しか着ないの?」

父はいつものように低くてハリのある声で答えた。

「男のファッションは常に控えめであるべきなんだよ。女性と一緒に歩くときに、男の方が目立ってはいけないんだ。女性は好きな格好をして、男はシンプルかつ、上品なファッションを心がけなくてはいけない。」

当時の私は「なんて堅苦しいことを言っているんだろう。好きなときに好きな服を着たらいいのに」とくらいにしか思っていなかった。でも今はそんな上品な男の良さがわかる。

こんな父のように上品な人と結婚するためには、母のようにファッションにも香りにも気をつけないといけないのかと思うと気が遠くなる。いつか私も母のように洗練された女性になって、父のような男をゲットしたい。そんな妄想をしているのは何回目だろうか。