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【連載】第4次本州紀行~苫小牧→仙台→上野→大洗→苫小牧~ 第6話(最終回)「不夜」(北海道帰還編)※ホテル禁止

4.北海道帰還編「不夜」

大洗出航。まずは夜景を観る。太平洋沿岸の工業都市がずっと続き、眠らない都市の様相を呈している。まさに不夜城といったところか。
船内はかなり広く、食堂もなかなか粋な作りだ。もっとも、夕食は購入したもので済ませる予定なので、利用するのは朝だけになりそうだが…。

深夜時間帯になり、人が減ってきた。混雑が緩和されたので浴室へ向かう。
風呂場にはサウナがついている。前回の帰りと今回の行きで利用した太平洋フェリーでは閉鎖されていたので、ありがたい。温度も熱すぎず、丁度よい。

雑魚寝部屋にはテレビも用意されていたし、公共スペースには新聞もある。別にテレビも新聞も大した情報は載っていないが、退屈しのぎには良いだろう。もっとも、そこまでして退屈を紛らわす必要があるのか?という問いは続けねばなるまい。
船旅には退屈がつきまとう。それに耐えかねてスマホを使う人はかなりいる。何を隠そう、私もその一人だ。
しかし、よくよく考えてみれば、せっかくの旅先ですら手放せないというのはいかにも情けない話であり、旅情を大きく損なう愚劣な行為だとも言える。
こういうときこそ、無限に続くかに見える海を眺めたり、明けゆく空の光景を空想したり、そうした光景を見て詩を編んだり、随筆を書いたり、絵を描いたり、いくらでも文化的・芸術的なことはできるはずなのだ。
スマホをいくらいじっても文化的・芸術的行為にはならない。それらに必要な決定的条件、すなわち「身体感覚」が伴わないからだ。
したがって、長い船旅を、「退屈ごまかし装置」であるスマホなしに乗り切ることができたとき、その人は真の船旅熟練者となった、ということができるだろう。私はまだその域に達していないようだ。

船はそこそこ揺れたのであまり眠れないかなと思ったが、意外と眠ることができ、起床は7:00だった。毎朝3:30には起きている日常からすればかなりぐっすり眠った部類だ。よほど疲れていたのだろう。旅先の思い出もやがては夢となり、消えていく。
だが、今回最後に触れることができた人の優しさは、いつまでも私の心に留まり、時の流れによって多少色褪せても、事あるごとに蘇るはずだ。そして、希望を失った私を何度でも励ましてくれることだろう。

食堂へ行く。食事はバイキング形式だ。貧乏人の私はなるべく多くのメニューをまんべんなく摂取し、エネルギーを補給したいので、朝食はやや多めに食べる。13:30苫小牧着なので昼食も用意されているが、朝これだけの量を食べておけば心配いらない。このエネルギーだけで家路につくのに充分足りるはずだ。
11:00頃函館の恵山岬付近を通過し、13:30、定刻通り苫小牧西港フェリーターミナルに到着する。
後は岩見沢を経由して江別に帰るだけだ。
今回は岩苫線の途中下車はせず、真っ直ぐ帰ろう。
その前にドン・キホーテに寄って本でも読んでこようか。
次に旅立つ日に持っていく書物を探すために…
(完)


5.おわりに

第4次本州紀行、これにて終了です。
仙台・上野における喧騒と冷たさ、そして大洗での素朴な優しさの対比が特徴的な旅でした。
特に大洗の印象は想像より遥かに良かったです。『ぼくなつ2』の雰囲気を感じられるような温かさがありました。
スケジュールミスで新幹線を使ってしまったのが悔やまれますが、東京上陸ができたのでよしとしましょう。
次回は第5次本州紀行をお届けします。
ご精読ありがとうございました。
皆さん、よい旅を。


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