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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2022年3月の記事一覧

【短編】もう恋なんてできないと思ってた。

とても好きだった人と別れてしまった。 おかげで、私はどこか壊れてしまった。 アプリなり、ネットなり、リアルなり、私は交際目的で知り合った男性と、すぐに身体を重ねてしまうようになってしまった。 とにかく、今の寂しさを捨ててしまいたかった。 とにかく、自分は誰かにとって必要な存在であると感じていたかった。 そんな自分本位の考えは、直ぐに相手には伝わってしまって、そんな関係は会って数回で終わっていく。 誰もそんな自分を諫めたり、責めたり、咎めたりはしなかった。そうする前に相手は

【短編】アイデンティティ

瞼の縁に、白いできものができた。 放っておけば、その内取れるかと思ったが、それはある程度の大きさ(胡麻粒くらい?)になった後、その場に居座り続けた。 さすがに目を開くと、視界に僅かにかかるようになってきて、お母さんに言われ、来週習い事がない日の放課後に、皮膚科に行くことになった。 「え、取っちゃうの?」 なぜか、友達に話したら、不思議そうに言われる。 だって、これは自分の身体の一部とかでもない。どこかを見るのにも邪魔だし。 「それ、小川のアイデンティティだし。」 アイデン

【連作短編】いつ見ても、綺麗だね。翔琉1

片手に乳白色のごみ袋を持ち、部屋に置いていった彼女のものを入れていく。泊まっていった日の翌日に使った化粧品の類、よい香りのする石鹸、彼女が使っていた歯ブラシ、パジャマ代わりにしていた室内着・・。 思っていたより数はなかった。 「あぁ、しんどい。」 ごみ袋を放り投げると、床に敷いてあるラグの上に寝転ぶ。毛足が長く、そのまま寝そべっていると、また寝てしまいそうだ。 普段はまだ寝ている時間なのに、何故か早くに目が覚めてしまった。以前、休みの日は大抵彼女と過ごしていたから、その癖で

【短編】花見をしよう。

人混みの中を進んでいる間に、会社の他の同僚と離れてしまった。 軽く息を吐きつつも、心が少し高揚しているのを感じる。 そんな俺の気持ちに気づかないまま、彼女は周りの桜にスマホのカメラを向けている。 職場の近くに、桜で有名な名所がある。 そこは毎年、多くの人でにぎわう。 夜はライトアップされて、それはそれで綺麗なのだが、ここ数年は、打ち合わせついでに、花見をすることが多かった。 それは純粋な花見だ。順路に沿って、数多くの人がぞろぞろと列をなして歩いていく。その両脇には、数多くの

【短編】素顔での出会い

私は、仕事帰りに、友達と待ち合わせをして、一緒に夕食を食べていた。 「と、いうことで、これから男の人紹介するから。」 「え、これから?」 私は、思わず問い返した。 今日は、久しぶりに会おうと話が来て、彼女と会うことになった。 彼女は同じ大学に通った同級生で、今は職場同士が近かった。 それでも会ったのは、大学卒業以来だ。まったく、大学の時と彼女は変わっていなかったが。 大学を卒業してからのお互いの仕事のこととか、住んでいる場所とか、いろいろな近況報告を終えた後、今お互い彼氏

【短編】ホワイトデー

俺の勤務先では、バレンタインデーとホワイトデーのやり取りが、自然と行われていた。一度は消滅したのだが、結局イベント毎が好きな女性社員が、バレンタインデーに男性社員にチョコレートを渡すのを再開してしまったため、それに伴うホワイトデーのお返しも再燃してしまった。 そんな中、男性社員の中に、とてもセンスのいいお返しを探してくる人がいた。結果、毎年のホワイトデーのお返しを準備するのは、彼になった。 「一体、どうやって見つけてくるんだ?」 「ネットとかでいろいろ。」 コンビニで買

【短編】心細い気持ち

会社に入った新人が、突然体調を崩した。 聞いたところ、今日起きたときから体調は優れなかったらしい。 それなのに無理をおして、出社してきたそうだ。 体調が悪いときは、素直に休んでほしかった。そんな状態で来てもらっても、仕事が行えるわけがない。 問題は、一人で帰宅できる状態になかったということだ。女子更衣室の空いているスペースに寝ているそうだが、熱が高いのか、身体を動かすのもつらいらしい。 本当に、なぜそんな状態で会社に来たのだろう? 結局、その後予定のなかった私が、彼女を

【短編】観覧車

今まで自分たちのいたところが、どんどん小さくなり、代わりに淡い水色の空が近づいてくる。 外の景色に見入っている彼女の横顔を見ながら、自分は思ったより緊張していることを感じた。 もう、そうしない内に、僕たちは高校を卒業する。 僕は家から通える範囲の都心の大学に、彼女は地方の大学に進学する。 卒業したら、もう会うことはない関係だった。今の僕たちは、同じ高校の同級生でしかないからだ。 卒業前に、一緒に遊びに行きたいと言い出したのは、彼女の方だった。 土日に特に予定の入っていない

【短編】告白

今日こそ、告白する。 そう、決めてきたはずだった。 バイトが終わり、正社員の人が店内の明かりを消し、裏口の鍵を閉める。 皆、自転車に乗って、店の前で別れる。 いつもの、「暗いから気をつけて帰ってね。」の言葉掛けと共に。 俺は自分の学生寮に戻るように見せかけて、彼女が走らせる自転車の後を追いかけた。 夜中のせいか、彼女はかなり速い勢いで自転車を漕いでいる。 追いかけるのも一苦労だ。信号待ちしているところで何とか捕まえて、声を掛けた。 「前嶋さん!」 「あれ、富岡さん?どう

【短編】真実の耳飾り

私とこうちゃんは、ゲーム友達である。 会って、一緒にゲームをすることもあるし、スカイプ通話しながら、パソコンのオンラインゲームをすることもある。 元々は、同じ大学の同級生だった。その時にお互いゲームが好きであることを知って、度々ゲームして2人で過ごすようになった。 そして、2人は大学を卒業し、共に東京の企業に就職し、私は神奈川に、こうちゃんは埼玉に住んでいる。 お互いが社会人になってからも、休みの日や、仕事が終わって自宅に帰った後、ゲームをして過ごしている。 もちろん、休

【連作短編】彼のかけら ヒロエ2

私はベッドの上で大きく伸びをする。 今日、午前中は大学の研究室に顔を出して、夕方から夜にかけてはバイトだ。大学は今年分の必要単位はほぼクリアしているから、それほど頻繁に行かなくてもいい。バイトもさすがに3年目となると、特に気になることもない。 私はベッドの横のラグを引いている空間を、じっと見つめた。 もちろんそこには何もない。 何となく、彼がそこに座って私を見ているような気がした。 そんなことあるはずもないのだが。 私が彼氏と会わなくなって、既に2ヶ月が過ぎようとしている

【連作短編】笑顔にしたかったはずなのに。ヒロエ1

彼女の体の上から、隣のベッドの空いたところに移動して、天井を見ていると、彼女が心配そうに顔を覗き込んできた。 「大丈夫?」 「何が?」 「心、ここにあらず、って感じ。」 まだ、ヒロエちゃんに言ってないの?と、彼女が言葉を続けた。 「うるさい。お前には関係ない。」 先ほどの行為で、荒くなった息を抑えながら、絞り出すように言葉を発した。 彼女は、俺の言いように不服そうに頬を膨らませた。 でも、それだけでは、気がおさまらなかったのか、さらに言葉を続けた。 「このままじゃ、かわ