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素人だけれど、たまには【本】をなめまわしてみようと思う

新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、先日、こんなニュースを見かけた。

新型コロナウイルスで書店の売り上げが上昇しているという。ピックアップされているのは子ども用学術書(漢字ドリル的な)だが、記事内にもある通り、本屋さん自体も売れ行きが急増しているそうだ。

言われてみれば納得である。休みがあればゲームや本など娯楽を楽しみたいのは当然のこと。でもふだん、休みがないからゲームを持っていない。ケータイ代はカツカツだからタブレットも持ってないし、PCを部屋のくつろげる場所まで持ち運ぶわけにもいかない。というか目疲れるし。だから、書店に行って本を買う。

しかし紹介したニュースは3月中旬のことだ。その時期に小説を買った方は、外出自粛要請もあって、そろそろ読み終わるころ。

今週末がどうなるかはわからないが、少なくとも外出自粛要請のあった先週の金曜日から感染者数は爆発的に増えている。次の土日も外出しない方がよさそうだ。

となると、だ

「一冊読み終わったし、もう一冊本を買いに来たい。」

その気持ちがわいてくる。

しかし。書店員さんもおなじコロナウイルスの危機にさらされているわけである。高頻度の来店は店員さんにも、自分にも、さらには他のお客さんにもよくない。

「それでは楽しむものがない」

大丈夫、そんなことない。あなたがいま持っている本、それはまだまだ楽しむことができる。いつも何気なく読んでいるけれど、「本」というものは、本文以外にも、たくさんの工夫が施されているのだ。

素人ではあるけれど、本について知っている知識を紹介していきたい。

(思いついてすぐ部屋で書いたため、写真のクオリティはご容赦ください…)

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【表紙】をなめまわす

本の雰囲気や、タイトルロゴに絶妙にマッチした、表紙デザイン。本の顔といっても過言ではない。

表紙のデザインは?テーマカラーは?背表紙は丸背?角背?厚くする?薄くする?

写真を使ったり、イラストを使ったり、タイトルをタイポグラフィにしてみたり、帯をとったときに表紙に変化が現れたりと、工夫はいろいろ。

けれど目的はただ一つ。お客さんの目に留まるかどうか。ここらへん、WEB記事でいう、SEOの工夫に似ていると思う。まあWEB記事のほうが後に生まれたのだけれど。

例えば江国香織さんの単行本「彼女たちの場合は」では、表紙に金箔があしらわれている。かたい表紙に、落ち着いた茶色。西洋家具のようなディティールも合わさり、それだけでゴシック雑貨のような雰囲気を醸し出している。可愛すぎてやばい。

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記事を書くうえで、次に並べたいのは逆に派手なモノ。

何かあったかな……と捜して見つかったのが、加藤シゲアキさんの単行本「チュベローズで待ってる」を発見。

見るからに妖しい、黒を基調としたデザインに、横たわるチュベローズの花。見ているだけでハラハラと急き立てられる。表紙は凹凸処理され、手に持った瞬間から違和感を発揮。なぜか記憶に残ってしまう。クレジットを見るに、江森丈晃さんという方が装丁を担当したようだ。

あなたの部屋にもいくつかある本。それらの表紙には、どのような工夫がなされているだろうか??

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さて本にはもう一つ、文庫本、という種類がある。文庫本とは読書の習慣を広めるために作られた、単行本の普及版。

そのため、A6規格・横105mm×縦148mmを基準にしているが、あえて各出版社がそれぞれ数ミリずつアレンジを加えている。出版社それぞれ、本の内容以外の部分でも好きになってもらおうと、個性を作っているのだ。

文庫本にも、文庫本ならではの特徴がある。カバーをめくって書かれている模様。じつはこれも各社ごとに微妙な違いがある。例えば岩波文庫なら、表は四角くのびたツタ、裏はツボ。新潮文庫なら、四角い罫線にブドウのマーク。光文社文庫は……おそらく四角い罫線に河童のマーク……だろうか。ほかにも出版社それぞれ独自のデザインを施している。

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お手持ちの本、それぞれに施された工夫――表紙のデザインや、タイトル、手触り――を味わってみたり、各社のカバーをくらべてみたり。

一回読んだ今だからこそ、あたらしい気づきがあるかもしれない。

【素材】をなめまわす

一般的に文庫本・単行本の内容に使われる紙は、「上質紙」か「書籍用紙」。上質紙は、白色の紙で印字がはっきりと見え、強度が高い。一方の書籍用紙は、淡いクリーム色で裏の文字が透けづらく、手に吸い付きやすい。

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(上が、書籍用紙。下が上質紙。)

多くの小説に使われるのは書籍用紙だが、ときおり上質紙で構成された小説も見かける。もし手元にあったなら、あえて上質紙を使った意図を探ってみてはいかがだろうか?

【フォント】をなめまわす

単行本・文庫かかわらず、本は基本的に見出しがゴシック体、本文が明朝体で構成される。見出しにはゴシック体を使用する目的は視認性が高く、インパクトがあるため。本文が明朝体を使うのは、可読性が高く、長く読んでも疲れないため。高級感も同時に感じらることができる。

WEBの文章の場合、モニター上での解像度や表示のしやすさから、特に気を使わない限りゴシック体で表示される。なのでこの記事もゴシック体。

フォント 違い (2)

(上が”游明朝”。下が”游ゴシック”。一口に明朝体・ゴシック体、といっても様々な種類がある)

フォントはこの明朝体・ゴシック体から、それぞれ無数に枝分かれし、無数ともいえるほどの字体が存在する。こちらも出版社ごと、作家や編集者、デザイナー、装丁家ごとに好みがあるため、注目してみるのおもしろいだろう。あまりの奥深さに、いわゆる"フォント沼"にハマってしまうかもしれない。

【断ち方】をなめまわす

[本」はむかし、一枚の紙をおり、断裁することで作成していた。そのためページは16の倍数が基準となっている。(今はその限りではないようだ)

さて断裁には2通りの方法がある。一つは「二方断ち」。”小口”と呼ばれる、本来綴じない側と”地”と呼ばれる下の面になる側を切る方法。2回ハサミを入れるためこう呼ばれる。もう一つは、「三方断ち」。”天”と呼ばれる部分の折り目の際によって生じた誤差を切り落とすもので、”化粧断ち”とも呼ばれる。ほとんどの文庫はこの方式だ。

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(2方面断ちの文庫本。天面がギザギザしていることがわかる)

2つの方法の違いは、しおり(’スピン)を入れるかどうか。三方断ちの場合、スピンを入れても、上面を切り離すときに一緒に切ってしまうため、スピンを挟むことができない。違いの確認は、本の像面を見てもらうと分かりやすい。上面がギザギザの場合、二方断ち。綺麗な断面の場合、は三方断ちとなる。

文庫本は元来、読書週間の普及のために生まれたもの。文庫本を入り口に出版社を好きになってもらい、単行本を買ってもらうことが最終目標だ。そのためスピンを入れずに、代わりに広告媒体として、紙のしおりを入れるというわけだ。夏のフェアだったり、単に書店や出版社のロゴだったり、内容は様々。こんな場所にまで広告媒体を作る出版業界の努力に、思わず感心してしまう。

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(初期の頃は多くの出版社の本にスピンがついていたようだ。たしかにスピンは便利だが、同時に費用が嵩む問題を孕む。スピンをなくす事は、それだけでコストカットもでき、広告にもできる。出版社にとって、一石二鳥の施策だったのだろう。)

また文庫本に徹底してスピンがついているのは新潮社のみである。調べてみたところ独自の想いがあるようだ。

ちなみに単行本の場合はその限りではないため、3方断ちを施したうえで、スピンがついていることが多い。わお、ゴージャス。


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ぼくの知識はこのくらいだ。

しかし、一冊の【本】というものは、たくさんの人が関わって、「そんなところにまで!?」という場所までこだわり作られている。

いわば、本は”神は細部に宿る”を地でいく(いい意味で)狂気の代物だ。今度の週末は新しい本を買うのではなく、持っている本を細部まで楽しむ、と過ごすのもいいかもしれない。

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