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地方で出版社をつくる【其の四】書店営業のこと

今回は書店営業のことを書いてみたい。前回書いたように、書店に置いてもらうからには、きちんと書店に営業せねばならない。(書店営業以外も含めて)かなり頑張らねば、こんな小さな版元が出す少部数の本なぞ、そう簡単に書店に置いてもらえるわけがないのである。

本の刊行が決まったら、各書店から注文をもらうために「注文書」というものを版元が作る必要がある。見たことある方も多いと思う。わたしは取次から参考例を見せていただき、それをもとに、他社さんのも参考にしたりして作成した。
こんな感じのものだ。

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書店営業は、この注文書を持って書店にいき、人文書であれば人文書担当の方を探して、本のプレゼンをして、その場で発注してもらう(注文は買い切りでなく返品あり)。そして、注文冊数と番線印(書店のコードみたいなもの)を押してもらって、これを取次会社に送る。すると取次から書店に本が届くわけである(流通に詳しくないのだが、おそらくこんな流れ)。

虹霓社で初めて作った本が、『杉並区長日記ー地方自治の先駆者・新居格』という戦後初めて公選(一般市民による選挙)で杉並区長となった新居格(にい・いたる)の復刻版だったため、できるだけ多くの杉並区の書店に置いてほしいと意気込んだ。静岡から上京して書店に直接営業しようと決めた。が、もちろん書店営業なんて初めてのこと。そもそも何をしてよいかわからなかった。だから、里山社・清田麻衣子さんによる「〈本を出すまで〉第6回 夏葉社の営業に同行する」はとてもとても参考になった(この連載はこの回以外もとてもよい)。営業した2017年当時、営業の具体的な風景(自分の動き)がイメージできる文章は他にはなかった(わたしが探せなかった可能性も大いにあるが)。

1軒目は某大型書店。バックヤードから本をワゴンに乗せようとしている書店員を見つけると、島田さんはカバンからスッとリリースを取り出し、静かに声を掛けた。20代とおぼしき女性書店員は、複数の著者が並ぶエッセイ集のリリースを見て、「たくさんの人が集まってる本って、この人の原稿だけを読みたいっていう人があまりいないから弱いんですよね」と、まずは消極的なリアクション。しかし島田さんと少し歓談した後、その場で10冊の注文が決まった。
*「〈本を出すまで〉第6回 夏葉社の営業に同行する」より

営業当日は、高円寺、西荻、荻窪、(杉並区ではないが)吉祥寺などの書店を回った。仕事で営業経験は少しだけあったものの、元来が人見知りだけに声をかける瞬間はやはり緊張した。だが、少なくない書店員さんが忙しいなかで営業がよく分かってない人間の突然の訪問にもかかわらず、きちんと話を聞いて下さり、とても感激した。おかげで、必ず置いてもらいたいと思っていた荻窪のTitleさんや西荻の今野書店さんなど、その場ですぐ発注していただいたときのことは今でも覚えている。その日のわたしは、「今日、5冊以上発注してくださった書店さんにはもれなく「虹霓社製つげ義春公認ねじ式手ぬぐい」プレゼントキャンペーン」を勝手に開催していて(笑)、西荻の今井書店さんの担当の方にはその差し上げたねじ式手ぬぐいが珍しがられて、手ぬぐいの委託販売まで決まったという、おまけ付きだった。

もちろん順調に行かない書店もあった。まず人文担当者がお休みのところ。明日は居ます、と言われても、「では明日また来ます」というわけにはいかない。ここが田舎暮らしのデメリットであろうか。かと言って実績もない版元にアポがとれるとも思えない(電話口で「注文書をFAXで送ってください」で終わるだろうなと←新規営業経験者)。こればかりは今回は縁がなかったと諦めるしかない。「この本は誰が読むの?」とストレートに言われた書店もあり(ターゲットを確認するのは当たり前)、わたしなりに説明はしたものの、伝わってない感はありありだった。もちろんその場での発注はなかった。

また、せっかくならと杉並区ではない地域まで足を伸ばし、前から気になっていたカフェ併設のオシャレだけれども、人文系もしっかり選書してある某書店にも行ったのだが、あからさまに居留守を使われて悔しい思いもした。好感を持っていた書店の想定外の対応が辛かったが、それを後に引きずるほどもう若くはないので(その対応は忘れまい)、むしろその前に訪問した書店の温かさを際立せるための演出だと決めた(そう。歳を取るのも悪くない)。

以上だが、このような動きはあくまで都市部にある出版メインの版元による営業スタイルだとは思う。「地方」には「地方」の、かつ年に何冊も新刊を出す出版社ではない規模・スタイルにあった販売の仕方があるはずで、これからも模索していきたいと思う。

*前回もご紹介した『本を贈る』の一編「出版社の営業職であること」(橋本亮二/朝日出版社営業)は版元がどんな営業をしているかがとても勉強になった(それ以上に文章が沁みてくる)。


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