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殺戮のBB

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荒廃した遠未来。第三次世界大戦の爪あとの残る旧日本、リンクレンツ共和国・犯罪都市デッドシティで、荒事を専門として生計をたてるビアンカとバートは、BBという通り名で仕事を請け負って…
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2020年7月の記事一覧

56 殺戮のBB

「ようBB、ご活躍だったらしいじゃねぇか。いつからハウンドに入ったんだ?」 「うるせぇ! 入ってねぇよ! バートの馬鹿が沢本とポーカーやって負けたんだよ。そのせいでギャラをむしり取られたんだ」  デッドエンドで飲んでいると、馴染みのチンピラに絡まれた。これまでは三大勢力に支配されていたデッドシティは、一夜にして二大勢力に書き換えられた。  しかしながらフリーの悪党はどこにでもいる。ビアンカたちもその位置にいる。 「あー、ポーカーが馬鹿強いって話しだったもんな。で、その相方は?

55 殺戮のBB

 タイラーが消えれば、沢本とニーナがこの街の支配者だ。いつか新しい勢力が顔を出す時、また戦争もどきの騒ぎがこの街に起こるだろう。  しかし、今すぐ手勢を増やさなければと焦る時でもないように思えた。 「嫌ですよ。BBとしてなら依頼を受けましょう」 「まぁ、それでもいいが。薬をやらないってだけで、この街では案外貴重だ。薬をやる奴にはろくな奴がいねぇ。そのうえおまえらは生き残った。だから気にいった」  言うだけ言ったらもう興味はないとばかりに、沢本は窓から姿を消した。  ビアンカと

54 殺戮のBB

 このナイフ一本で幾度も修羅場を潜り抜けた。今度もまた潜り抜けてやると思いつつ身をかがめる。 「無視されては困りますね!」  同じように駆けてきたバートが発砲する。バートが放つ銃弾から逃れようと、踵を返すがビアンカは狙いを定めた肉食獣のように迫っていた。 「まずはさっきの礼だ!」  背を向けた男の大腿部にナイフを突き刺した。 「うあっ!」  しかしビアンカに再び銃口を向けようとする。だがナイフから手を放していたビアンカは、両手で男の手を掴んだ。  力んだ指がトリガーを引き、空

53 殺戮のBB

 いったいこいつらはなんのためにこれだけの手榴弾をため込んでいたんだ? 戦争でもするつもりだったのか? 一体誰と? 「……」  デッドシティは大まかに三人のトップが君臨している。  沢本率いるハウンド。カジノ・銃器の密売・売春宿。飲食店の他にも宿など手広くやっているが、薬にだけは手を出させない。  ニーナ率いる高級売春宿・睡蓮華。しかしその選りすぐりの女たちは、単なる性サービス嬢ではない。金と権力を持つ男たち、マフィアや犯罪者のトップはもちろん、財政界にもパイプを持つ。そんな

52 殺戮のBB

「バート、おい、バート!」 「少しは相棒を労わろうという気はないのですか?」  バートは床に座ったまま起き上がっていた。ひどく億劫そうだ。 「その台詞は先に爆弾でぶっ飛ばされたあたしを労わってから言いな。見ろよ、地下だ」  デッドシティの建物の多くは大戦前のものだ。経年劣化してきてはいるが、まだまだ十分に使える。ここもそうした建物だ。  視線だけをバートに向けると、バートは膝に手をついて立ち上がったところだった。 「行くぞ」  壁に突き刺さったナイフを引き抜く。そしてバートに

51 殺戮のBB

 ドアの入り口にたどり着く。埃っぽい煙が充満していた。沢本が壁に背を付けて中を覗き込む。アサルトライフルを構え、一瞬だけ後ろのビアンカに視線を送った後、無言で中に入って行く。  中も相当ひどい有様だ。壁は穴があき、ガラスが散乱している。天井が壊れ、中を通る配管がむき出しになっていた。一度は出火したのだろうが、壊れた配管から流れ落ちる水が結果的にスプリンクラーの役目を果たし、火が消えたようだ。 「建物周囲に散開しろ。隣りの建物から屋上へも展開。誰一人逃がすな」  インカムを押さ

50 殺戮のBB

「くそったれ」  火をつけて間もない煙草を投げ捨て、通りの外に出ようとしたところで誰かが姿を現した。 「ビア!」  一瞬だけ視界の片隅にバートを捕らえたが、立ち止まることなく駆け抜ける。 「あいつだ、バート!」 「え?」 「手錠男を追え!」  一拍遅れたが、バートもビアンカに続いて走り出した。 「特殊なプレイが好きなんですね!」 「マゾなんだろ!」  本当のことを説明する暇がない。男は表通りに抜けると道路を駆け抜け、そのまま反対側の裏通りへと駆け抜ける。  痛みと疲労に力が入

49 殺戮のBB

 この女を殺すには一人じゃ無理だ。だが交渉できる人種か? 相手はクライシスマニアのバウンティーハンター。金が欲しくて賞金稼ぎをしているんじゃない。生死の境目が楽しくてしょうがない変態だ。  交渉材料があるとすれば、沢本か? だが沢本は場合によっては殺せというくらいに、三嶋に非情だ。だがニーナは昔からの知り合いで、手を組んだ事もあると言っていた。 「……」  昔からで思い出す。確かあの能天気な口調の女が言っていたではないか…… 「三嶋」 「なぁに?」 「西郷悠里って女を知ってい