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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(33)私の出発点

 ―― To.L13
    06171600
    INU(IZUMO)
    S L13

    Mr.KAITO 50
    ・・・・・・・

    OK or NOT  ――

 予定日五日前に届いたNS《ネス》からの通知。OKを出した。

 6月17日16時、出雲の伊努《いぬ》神社。

 この神社で何人もの闇喰《やみく》を行なってきた。未だに懐かしく、思い出深い地。
 私にとっての出発点とも言える場所だから。
 18歳の時にここで、私が祓毘師《はらえびし》であることを知った。


*******

 平成16年4月17日――

 1泊2日、出雲への一人旅。
 ダークオレンジのニットセーターにブルーデニムパンツ姿。曇り空だが大き目の黒縁サングラス、ショートカットの黒髪に安物のキャップ帽。中古の小型デジカメを首にかけ、グレーのリュックを背負う。
 指示通りに、観光客を装っていた。
 勿論、愉快に観光する気など毛頭ない。ただ自身の立てたプランをこなしていくだけだ。

 午後1時半過ぎには、境内をゆったりと歩いていた。初めての場所だが、好奇心もって観たり祈ったりする気分になれない。何度も腕時計をちら見する私がいた。予定の時間が迫ってくる。増してくる緊張感が鼓動を強めるのが、分かった。

(どんな人なのだろうか?)

 男か女かもわからない。年齢さえもわからないのだから、気が気ではなかった。
 針が2時に近づいた頃だ。

「お嬢さん、申し訳ないのですが、写真を撮って頂けないでしょうか?」

(それどころではない)と思いつつ、その声の主に顔を向けた。
 白髪の男と、斜め後ろに中年の男がいた。(親子で観光だろうか?)などと思う心境ではなく、(さっさと撮ろう)と思った。無表情のまま。

「いいですよ」

ぶっきらぼうに。

「ありがとうございます」

 笑顔の白髪男は、両手に持つ一眼レフカメラを差し出してきた。
 連れの男と並んだ二人を、拝殿バックで二度シャッターを押した。
 無言でカメラを返す私に、白髪男は丁寧にお礼を言いながら握手を求めてきた。
 躊躇《ためら》いつつも失礼かと思い、手を出した。(さっさとどっかへ行って)という思いもあった。
 そんな手を両手で大事そうに優しく握り、笑顔で伝えてきた。

「4時、伊努《いぬ》神社に来てください。三浦耶都希さん」

「ぇ!? 」

 名前を言った覚えもなし、名が分かるような物も身に付けていない。

(知ってる……ということは、この人、が? )

 何も応えられず、その男をじっと見ていた。

「本当にありがとう。では、良い旅を」

 意表をつかれ、放心状態の私から離れていく二人組。

 硬直したように茫然と立ち尽くしていたが我に返り、伊努《いぬ》神社を出雲大社周辺マップで調べた。出雲大社前駅から四つ先の川跡駅近くにあった。
 電車時刻を調べ、大社を後にした。

 一日青空を見せることなく、灰色の雲が空一面を覆う。目的の神社周辺は田園地帯で穏やか。
 道に迷いながら、着いた。
 時間的に遅いからだろう。二人の中年夫婦が参拝しているだけ。
 静けさと寂しさが漂う由緒ある神社。拝殿でお参りし、観光客の振りをする私は、チョロチョロと見渡しながら、彼らを待っていた。

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