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ものがたり

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#短編小説

05

05

 雑踏に嫌気がさして少しだけ厭世的な気分になったら、ここに来る。決めていたわけじゃないけれどいつの間にか、ある種のルーティンやおまじないのように、僕は「05」と書かれた小汚いビルの屋上に足を運ぶようになっていた。5という数字は好きだ。ぴかぴかのビルじゃない辺りもまた、僕にとっては都合が良く思えた。美人が苦手なのと一緒で、綺麗すぎるビルなんてものもあまり得意じゃない。パーカーやスニーカーが似合うくら

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loop and,

loop and,

眩い朝だった。

或は、それは夜だったのかもしれない。

薄っすらと目を開けた僕の視界に、大きな影が揺れた。頬を撫でる風は確かに自然な不安定さを保ち、ここが外であるということを僕に知らせる。

淡い桃色の、綿菓子のような空が見えた。

確か、僕は一人で学校からの帰り道を歩いていたんだ。

いつも通りの見慣れた景色。すれ違う友人は、僕が住むアパートの4ヶ月分くらいの値段もするロードバイクにまたがって

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fire star

fire star

 毎年、夏になるとサークルの仲間五人と一緒に海沿いのコテージへ行ってバーベキューをする。夜には花火を楽しんで、お酒片手に星空を見上げるのが毎年の楽しみ。今年でついに四回目、サークルのみんなと過ごせる最後の夏だ。来年にはきっと、みんながそれぞれの環境で新しいコミュニティに身を置いている。

「うっそ、雨?」

 バーベキューの終盤、加奈子の声がして、空を仰いだ。曇天。朝の天気予報では晴れのち曇り、だ

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