見出し画像

『それをAI(あい)と呼ぶのは無理がある』を読んで

こんにちは、ことろです。
今回は『それをAI(あい)と呼ぶのは無理がある』について感想を書いていきたいと思います。

『それをAI(あい)と呼ぶのは無理がある』は、支倉凍砂(はせくら いすな)さんの著作です。『狼と香辛料』を書いた方、といえばわかるでしょうか。
表紙もさらっと登場人物が描かれていて爽やかでおしゃれです。

この本は第一話から第五話までの構成となっていて、それぞれ主役が違うのですが、皆同じエリアに住んでいるらしく、違う話のサブキャラとして絡んできます。それも、こことここが繋がってるのか!と面白みがあります。


この世界では、キューブ状や平べったい黒曜石のような形のAIを発生させる装置があり、小さな頃から皆それを持って育ってきている、いわゆるデジタル(AI)ネイティブな人たちが多い世界。
一人一台AIを持っており、『場』を発生させる装置があるところでは、自分のAIを発生させ会話をしたりします。
もっとも自分のAIと人前で親しげに話すのは子供だけで、二十歳を過ぎると恥ずかしくなるのだとか。とはいえ、家の中や部屋の中ならばおそらく大人も自分のAIと親しげに話しているのではないかと思われます。

登場人物は、6人。
木下浩太、高岡藤次、沢村さくら、青柳裕彦、高階かなで、裕彦の姉の小春。
学校の中や家庭の中、バイト先の人などモブキャラもたくさん出てきますが、一応のメンバーはその6人。ただし、ここにそれぞれのAIが入ってくるので(裕彦は除外するとしても)倍近い人数の賑やかさはあります。

第一話は、浩太の話。
クラスメイトで幼馴染の藤次(とうじ)と一緒に、文化祭の出し物を担当しています。二人は文芸部員で、AIが発達したこのご時世でも紙の本を読むのが好きなようです。
そして、浩太は高階(たかしな)さんのことが気になっていて告白しようと頑張ります。
この告白がうまくいったのかは、読んでからのお楽しみ。

第二話は、さくらの話。
幼馴染の裕彦(ひろひこ)(愛称:ひーちゃん)のことが好きで、裕彦もさくらのことが気になっています。
さくらは高校二年生。不登校です。
とはいえ、ひきこもるのも嫌な性格で、学校には行かないものの、早寝早起き、毎日5キロのジョギングと筋トレをしており、ネットにある無料講義などで勉強もしているので、健康的でかつ頭はかなり良いほうです。
これで学校さえ行ければなぁと親も裕彦も思っているのですが、頑として行かないさくら。
しかし、裕彦への想いもあり、少しずつ気が変わり、学校へ行くようになります。三日間だけで疲れ果ててはいますが。

第三話は、かなでの話。
かなでは、自分のAIが世界一可愛いと信じて疑わない女の子。
しかし、AIコンテストでボロボロに負けて以降、目が覚めたかと思いきや、あの頃は泣いたと言いながら新しいAIはさらに可愛さや人間らしさが際立ったものに仕上げているかなで。
可愛いとは何なのか、どうやったらそんなAIが生まれるのか考えに考えて行動したかなでは、ある法則を見つけます。

第四話は、またさくらの話。
ここではいかにして学校に行かなくてもよくなるか、代わりに自分のコピーであるAIに学校に行かせればいいと思ってからの、AI観察の日々です。
しばらくお店を閉めていたという漬物屋さんの「しのだ屋」には、ものすごい精巧なAI、しかも物理実体を持ったAIがお店番をするようになりました。いわゆるアンドロイドでしょうか。それが、さくらにとっては良い研究対象になり、知り合いがメンテナンスをしているというので立ち合わせてもらったりして、どんな仕組みで動いているのかを探ります。
このときの、AIとは何なのか、人間ととてもよく似ているのに同じではない、不気味な感覚がやはり拭えない、ある限定された環境下であれば完全コピーも叶うかもしれないが、果たして現実とは本物とは何なのか、ということを感じていきます。そして、それが自分の好きな裕彦にも当てはまっていき、学校という現実の現実たる所以(実際に通った方がいいよと言われる理由)もわかる気がしたのでした。

第五話は、裕彦の姉の小春の話。
小春は社会人。神主だった祖父の仕事を受け継ぐために巫女になる修行(もとい学校)にも行ったものの、雷で神社は焼け落ち、祖父も他界して頼れるものが無くなった今、越後屋トータルサービスという何でも屋さんに就職しました。
巫女装束を着て、壊れた家電製品などの再起動を祝詞をあげている間にAIにしてもらうという仕事なのですが、なぜ祝詞がいるのかというと家電製品にも喋るAIがついていて、やはり壊れるとなるとちょっと不気味な現象も起きるらしく、それがたたりのように見えるのでお祓いをしてもらうという流れになっているようです。
大抵は機械音痴な人たちのためのサービスなのですが、それでも繁盛しているらしく、小春は巫女装束の姿もあってか、少し有名人です。

小春はとある依頼でモーション・キャプチャーのスタジオにお祓いに行くことになりました。
デジタルの世界でも幽霊がいることに驚きますが、仕組みはわかっているそうで、しかし不気味なことには変わりないのでお祓いにも力が入る小春。
そこには演者というアーティストの執念のようなものが関係しているみたいでした。

浩太の友人、藤次も五話に出てきて、とある夢を目指すようになります。


AIとの付き合い方は皆それぞれですが、6人の登場人物たちはおおむね良い付き合い方をしているようです。
中には距離が近すぎる人もいますが、大切にしている感じはよく伝わってきます。

そう遠くはない未来で、AIとのこんな生活が待っているかもしれないと思うと、とてもわくわくしました。
自分だけの相棒がいる、それが頼もしく思えました。
家の中や公共の場など、とにかく何でもAIで動いているのはどうかと思いますが、それも避けられない状況なのかもしれません。
シンギュラリティはさておき、アナログな部分も残しつつ、でもこんな風にデジタルと楽しく共存できるのであれば、良い世界かもしれないなと思います。

『それをAI(あい)と呼ぶのは無理がある』は学生たちが主人公のお話です。
青春真っ只中の人たちがAIとどんな風に接しているのか、共に生活しているのか、リアルな描写で楽しめると思います。
ぜひ自分だったらどんなアバターの、どんな喋り言葉の相棒に育てるか考えながら読んでみてください。
この世界にどっぷりハマれると思います!
個人的には五話と言わず、もっと見ていたい世界でした。


いかがでしたでしょうか?
それでは、また次の本でお会いしましょう~!


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?