神崎琴音

「琴線に触れる」の琴です 俳優、歌い手、歌唱指導、詩、エッセイ、インターネット、アルコ…

神崎琴音

「琴線に触れる」の琴です 俳優、歌い手、歌唱指導、詩、エッセイ、インターネット、アルコール、情緒、愛

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固定された記事

自分との約束を思い出すとき

ときどき、夢見るように自分の手をかざして見つめることがある。 この手が、みんなみたいにきれいだったら。 白くて、傷一つなくて、大写しになっても写真に耐えうるような…

神崎琴音
6年前
40

膨張する多面体

この人生はあの人には秘密だ。 そう思うのは多面的な人生のたった一面だと思っていたけれど、いつのまにか、複雑なレーザー光線で閉ざされた機密情報の入った宝箱のように…

神崎琴音
3週間前
3

孤独と距離の詩

さざなみの届かない場所まで、きみがぼくの手をとって走った、希望も、欲望も、絶望も、きみの前ではただの白紙で、何もないことがぼくの特別、どうか一度だけの瞳をぼくに…

神崎琴音
3か月前
1

触れることの詩

生きるための呼吸に必要な星のひかりのひとすじ、繊細ということばに軽々しく頼らずに触れる地面のつめたさ、愛は安寧ではないもののはずだった、一生分の身体をあげるから…

神崎琴音
3か月前
1

睫毛がはげても

マスカラで上手く上がったわたしの睫毛を友人がふざけて引っ張るので、「抜けちゃうよ、はげる、笑」と言ったら、 「睫毛がはげても変わらず一緒にいてあげる」 と返ってき…

神崎琴音
4か月前
1

31歳という地点から振り返る景色

去年生前葬をして、20代のきらめきを存分に成仏させてから、少女性というものへの苦しい執着がすこしだけ、いや、かなり、手を離れたような気がしています。ほのかに寂しい…

神崎琴音
5か月前
2

理科室の詩

生きていますか、という問いはとても残酷で、きみのかじるりんごの夕焼け色がひりついて痛かった、味方でいてね、離れないでね、今日に至るまでの臆病を綴ったカルテ、いつ…

神崎琴音
6か月前
2

さわれる思い出と電子書籍

最愛の恋人からの初めての誕生日プレゼントは何?と共通の知人によく聞かれたが、彼がくれたのはKindle端末だった。 その思ったよりずっと実用的な贈り物との距離感は、最…

神崎琴音
8か月前
6

いつまでもわたし

「いろんな人やものにすごく気を遣って生きてきたんだね」 と言われて、涙が出た。 もう、自分の幸せだけしか考えなくていいとしたら、何がしたい? 死ぬまで歌い続けた…

神崎琴音
1年前
6

女性性の詩

ほがらかなあなたを見ていられるというそのことが、わたしの祝福でした、きれいな色しか使わずに描いた絵に触れられないのはうつくしくも尊くもない過去があるからだなんて…

神崎琴音
1年前
1

男性性の詩

たとえば、と言うそのときに、たとえられなかった無数のものたちを感じるから、僕は永遠に存在から離れられず、永遠に僕のままだった、きみのみちたりている顔を見る、その…

神崎琴音
1年前

春のまどろみの詩

いつも同じ注文ね、と笑われるのがほんとうは嬉しかったから、ぼくは涼しい顔でちいさなフルーツパフェを食べていた、あの日はそう、暖かく乾いた風が吹いていて、不安なん…

神崎琴音
1年前
1

そばにいることの詩

明かりもつけずに窓辺で本を読むきみの、ぼくなんて必要ないみたいな瞳の輝きを、永遠におぼえていたかった、おぼえているということはあいしているということで、愛は振り…

神崎琴音
1年前

東京の点、線、面

大学1年生のときに入り浸っていた、池袋の「いつものラブホ」。彼はスタンプカードを貯めていて、5個で休憩無料、10個で宿泊無料になるから、わたしたちは大分その恩恵に預…

神崎琴音
1年前
3

わたしが東京にいる理由 #ALT図書館

『#ALT図書館』というTwitter企画に参加させていただきました。 写真: 水憂@wasureru22 企画: はしこ。@hasiko_、無限@chan_mugen わたしが東京にいる理由 「演劇が…

神崎琴音
1年前
3

詩/また同じ

汚い、汚い、汚い、 性を綺麗に言い換えただけの愛、そこには含まれずにこぼれてしまう愛、 自分の引き出しの乏しさと、子宮口の微かな痛み、混乱の中にもたち現れるのは…

神崎琴音
1年前
3
自分との約束を思い出すとき

自分との約束を思い出すとき

ときどき、夢見るように自分の手をかざして見つめることがある。
この手が、みんなみたいにきれいだったら。
白くて、傷一つなくて、大写しになっても写真に耐えうるような手だったら。
きっと、結婚指輪がよく似合うんだろう。

わたしは物心ついて以来一度も、両手からアトピーの傷がなくなったことがない。正確には違うのかもしれないけれど、わたしの手が汚くなかった時のことを、わたしは思い出すことができない。

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膨張する多面体

膨張する多面体

この人生はあの人には秘密だ。

そう思うのは多面的な人生のたった一面だと思っていたけれど、いつのまにか、複雑なレーザー光線で閉ざされた機密情報の入った宝箱のように、わたしの本当の人生のすべてを知る人はごくわずかになった。

大人とはみんなそういうものなのだろうか。
膨張し、複雑化した多面体は、俯瞰してみればなんだか、もうわたしの手に負えないもののような気がしてくる。

暇なバーのお店番をしながら、

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孤独と距離の詩

さざなみの届かない場所まで、きみがぼくの手をとって走った、希望も、欲望も、絶望も、きみの前ではただの白紙で、何もないことがぼくの特別、どうか一度だけの瞳をぼくに差し向けて。

触れることの詩

生きるための呼吸に必要な星のひかりのひとすじ、繊細ということばに軽々しく頼らずに触れる地面のつめたさ、愛は安寧ではないもののはずだった、一生分の身体をあげるから、夜明けの色に支配されたい。

睫毛がはげても

マスカラで上手く上がったわたしの睫毛を友人がふざけて引っ張るので、「抜けちゃうよ、はげる、笑」と言ったら、
「睫毛がはげても変わらず一緒にいてあげる」
と返ってきた。

「睫毛がはげても変わらず一緒にいてあげる」

こういうのって、詩だよなあ、と思う。

変わらず一緒にいてあげる、
自分の存在があるということがわたしにとって喜ばしいことなのだと、淀みなく身軽に確信しているのが良い。

ふと日常から

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31歳という地点から振り返る景色

31歳という地点から振り返る景色

去年生前葬をして、20代のきらめきを存分に成仏させてから、少女性というものへの苦しい執着がすこしだけ、いや、かなり、手を離れたような気がしています。ほのかに寂しい気持ちはたしかにありますが、それよりはるかに、やっと視界が開けたような清々しさがそばにいてくれるようになりました。

今年は面白いことがどんどんやってきて、わたしのそばにいて、通り過ぎていきました。わたし(の内面)もおそらく驚くほど変わり

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理科室の詩

生きていますか、という問いはとても残酷で、きみのかじるりんごの夕焼け色がひりついて痛かった、味方でいてね、離れないでね、今日に至るまでの臆病を綴ったカルテ、いつまでも輝きとは無縁の僕でいたかった。何度、あと何度、この世界に生まれていないみたいに笑えるでしょう。

さわれる思い出と電子書籍

さわれる思い出と電子書籍

最愛の恋人からの初めての誕生日プレゼントは何?と共通の知人によく聞かれたが、彼がくれたのはKindle端末だった。

その思ったよりずっと実用的な贈り物との距離感は、最初こそ戸惑ったものだが、アマゾンプライムスチューデントに加入しているわたしとは相性が良く、殊に風邪を引いた暇な病床で横になったまま次々と作品を購入しては読めるというのが良かった。

7年が経った。

今年で31歳になるわたしだが、こ

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いつまでもわたし

「いろんな人やものにすごく気を遣って生きてきたんだね」
と言われて、涙が出た。

もう、自分の幸せだけしか考えなくていいとしたら、何がしたい?

死ぬまで歌い続けたい。
光って、光って、光って、死にたい。
わたしは特別な女の子。
あなたにとって、特別。
でも、一番は、わたしにとって、特別。

美しくなりたい。
なってもなっても足りない。

セックスのある世界に生まれてよかった。
セックスを通して見

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女性性の詩

ほがらかなあなたを見ていられるというそのことが、わたしの祝福でした、きれいな色しか使わずに描いた絵に触れられないのはうつくしくも尊くもない過去があるからだなんて、簡単に言えるきみはかわいい。

男性性の詩

たとえば、と言うそのときに、たとえられなかった無数のものたちを感じるから、僕は永遠に存在から離れられず、永遠に僕のままだった、きみのみちたりている顔を見る、そのときにだけ純粋でいられたなら。

ぱちん、と日常が弾ける音がして、その隙間から光が差す、刺すときにこそ存在があり、生きているがあって、だからかみさまは存在しない、ぼくだけを見て、とまぶしくはちきれそうなわがままを言えたなら。

そこにいない

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春のまどろみの詩

いつも同じ注文ね、と笑われるのがほんとうは嬉しかったから、ぼくは涼しい顔でちいさなフルーツパフェを食べていた、あの日はそう、暖かく乾いた風が吹いていて、不安なんてないみたいだったね、ぼくは巡礼するように、今日も死なずに生きているのです。

完璧な希望について、そんなものはないよときみが寂しそうにほほえむとき、東京は雨が降っていて、生きるための明日を部屋の隅に置き忘れてきたみたいだった、一生味方でい

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そばにいることの詩

明かりもつけずに窓辺で本を読むきみの、ぼくなんて必要ないみたいな瞳の輝きを、永遠におぼえていたかった、おぼえているということはあいしているということで、愛は振り解けないから、滴のように滴り続ける。

離れる、と、離ればなれになる、どちらかを選ばなけれはならないとしたら、僕のこころをきみが選んでほしい、明日も雨が降るみたい、後悔しないと誓ってみたかった、どこにも行けないのはきみの愛が部屋に散らばって

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東京の点、線、面

大学1年生のときに入り浸っていた、池袋の「いつものラブホ」。彼はスタンプカードを貯めていて、5個で休憩無料、10個で宿泊無料になるから、わたしたちは大分その恩恵に預かっていた。

「いつものラブホ」はホテル名なんて覚えていなくて、西口を出てあの繁華街を抜けて、あのコンビニを曲がって、あのいつも賑やかな飲み屋さんの角を左、次に右。毎度それだけで十分だった。

のちにその賑やかな飲み屋さんは中野と新宿

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わたしが東京にいる理由 #ALT図書館

『#ALT図書館』というTwitter企画に参加させていただきました。

写真:
水憂@wasureru22

企画:
はしこ。@hasiko_、無限@chan_mugen

わたしが東京にいる理由

「演劇がしたいならここにいちゃだめ。ここには何もない。」

体感としてはもうこちらにいる人生のほうが長いような気がしていたが、まだ地元にいた年数のほうが断然長いのだった。物心ついてからをカウントする

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詩/また同じ

汚い、汚い、汚い、
性を綺麗に言い換えただけの愛、そこには含まれずにこぼれてしまう愛、

自分の引き出しの乏しさと、子宮口の微かな痛み、混乱の中にもたち現れるのは自分の愚かさ、また恋愛、薄ぺらい、

毎度毎度懲りずに同じ理由ばかりで泣いている、愚かしい、通り一遍の、繰り返し、繰り返し、

全てなんて吐き出せないけれど、魂の抜けたような気だるい身体でそれでも思うのは歌うこと、歌うことなんだよ、シンプ

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