神崎琴音

「琴線に触れる」の琴です 俳優、歌い手、歌唱指導、詩、エッセイ、インターネット、アルコール、情緒、愛

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    自分との約束を思い出すとき

    ときどき、夢見るように自分の手をかざして見つめることがある。 この手が、みんなみたいにきれいだったら。 白くて、傷一つなくて、大写しになっても写真に耐えうるような手だったら。 きっと、結婚指輪がよく似合うんだろう。 わたしは物心ついて以来一度も、両手からアトピーの傷がなくなったことがない。正確には違うのかもしれないけれど、わたしの手が汚くなかった時のことを、わたしは思い出すことができない。 自我が芽生えてからずっと、自分の手は汚いと思っていた。入れ替わり立ち替わり現れるひ

      • いつまでもわたし

        「いろんな人やものにすごく気を遣って生きてきたんだね」 と言われて、涙が出た。 もう、自分の幸せだけしか考えなくていいとしたら、何がしたい? 死ぬまで歌い続けたい。 光って、光って、光って、死にたい。 わたしは特別な女の子。 あなたにとって、特別。 でも、一番は、わたしにとって、特別。 美しくなりたい。 なってもなっても足りない。 セックスのある世界に生まれてよかった。 セックスを通して見えるあなたが好きだ。 セックスしても見えないあなたが好きだ。 わたしにだけは全部

        • 女性性の詩

          ほがらかなあなたを見ていられるというそのことが、わたしの祝福でした、きれいな色しか使わずに描いた絵に触れられないのはうつくしくも尊くもない過去があるからだなんて、簡単に言えるきみはかわいい。

          • 男性性の詩

            たとえば、と言うそのときに、たとえられなかった無数のものたちを感じるから、僕は永遠に存在から離れられず、永遠に僕のままだった、きみのみちたりている顔を見る、そのときにだけ純粋でいられたなら。 ぱちん、と日常が弾ける音がして、その隙間から光が差す、刺すときにこそ存在があり、生きているがあって、だからかみさまは存在しない、ぼくだけを見て、とまぶしくはちきれそうなわがままを言えたなら。 そこにいないことがきみの存在を引き立たせていて、ぼくはそれをいつまでも覚えていられるくらい賢

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            春のまどろみの詩

            いつも同じ注文ね、と笑われるのがほんとうは嬉しかったから、ぼくは涼しい顔でちいさなフルーツパフェを食べていた、あの日はそう、暖かく乾いた風が吹いていて、不安なんてないみたいだったね、ぼくは巡礼するように、今日も死なずに生きているのです。 完璧な希望について、そんなものはないよときみが寂しそうにほほえむとき、東京は雨が降っていて、生きるための明日を部屋の隅に置き忘れてきたみたいだった、一生味方でいてね、叶わなくても願ってしまう。 ほがらかな夜、その中心には恋をする花が一輪あ

            そばにいることの詩

            明かりもつけずに窓辺で本を読むきみの、ぼくなんて必要ないみたいな瞳の輝きを、永遠におぼえていたかった、おぼえているということはあいしているということで、愛は振り解けないから、滴のように滴り続ける。 離れる、と、離ればなれになる、どちらかを選ばなけれはならないとしたら、僕のこころをきみが選んでほしい、明日も雨が降るみたい、後悔しないと誓ってみたかった、どこにも行けないのはきみの愛が部屋に散らばっているから。 最初の一歩ですべてが変わる、そう思っていたからぼくはきみの側をすり

            東京の点、線、面

            大学1年生のときに入り浸っていた、池袋の「いつものラブホ」。彼はスタンプカードを貯めていて、5個で休憩無料、10個で宿泊無料になるから、わたしたちは大分その恩恵に預かっていた。 「いつものラブホ」はホテル名なんて覚えていなくて、西口を出てあの繁華街を抜けて、あのコンビニを曲がって、あのいつも賑やかな飲み屋さんの角を左、次に右。毎度それだけで十分だった。 のちにその賑やかな飲み屋さんは中野と新宿に支店があることを知り、数年後に別の恋人と行ったペンギンカフェはその斜め向かいだ

            わたしが東京にいる理由 #ALT図書館

            『#ALT図書館』というTwitter企画に参加させていただきました。 写真: 水憂@wasureru22 企画: はしこ。@hasiko_、無限@chan_mugen わたしが東京にいる理由 「演劇がしたいならここにいちゃだめ。ここには何もない。」 体感としてはもうこちらにいる人生のほうが長いような気がしていたが、まだ地元にいた年数のほうが断然長いのだった。物心ついてからをカウントすることにすれば、やっと半々くらいか。とはいえ、現在のわたしの自我が芽生えたのは25

            詩/また同じ

            汚い、汚い、汚い、 性を綺麗に言い換えただけの愛、そこには含まれずにこぼれてしまう愛、 自分の引き出しの乏しさと、子宮口の微かな痛み、混乱の中にもたち現れるのは自分の愚かさ、また恋愛、薄ぺらい、 毎度毎度懲りずに同じ理由ばかりで泣いている、愚かしい、通り一遍の、繰り返し、繰り返し、 全てなんて吐き出せないけれど、魂の抜けたような気だるい身体でそれでも思うのは歌うこと、歌うことなんだよ、シンプルな脳みそに生まれついたことに感謝だね、 興奮の水面が収まっていく、また、「わ

            世界のすべてを愛したかった

            泣きながら「好きだ」と言った記憶がある人は世界にどのくらいいるだろう。きっと掃いて捨てるほどいるだろう。わたしもその、「掃いて捨てるほど」を経験した、ありふれた人間のひとりだ。 ポリアモリー、なんて言葉がわたしの人生に輸入されたのはごくごく最近、30歳も視界に入ってきたここ数か月の話で、肩こりの概念がなかった昔の日本には肩こりがなかったというが、言葉がなければ概念は存在しないのだった。 「月が綺麗ですね」。 今となってはあまりに擦り切れさせられてしまった愛の言葉だが。

            詩/存在の詩

            癒してあげる、 とわたしが言う、 そのとき損なわれるわたしの部分を、 あなたはいとおしいその名でよぶ、 さびしいと言えてしまうほど愚鈍で平凡な、 あなたを見ていられないの、 どうしてかみさまはわたしに、 愛することのできる身体を与えたの。 しんでいいよ、とだれもゆるしてくれない。 きれいだね、かわいいね、 きみのこころはうつくしいね、 花が咲いたら見違えるようでしょう、 美しい言葉に耐えられぬ世界は醜いですか、 こちらでは夜空に可憐な星が散っています、 すべての形容詞を拒

            詩/クリスマスの詩

            ケーキの入っている冷蔵庫を開けると漂う生クリームの、パーティーを待つ匂い、これからきみはあの人の元へと走るだろう、シャンパングラスなんてなくても、あなたを思うことはできるよ、手放さないもの、手放すもの、すべてが今夜だけは、きみのいのちを祝福しますように、祈るぼくをどうか照らして。

            返信不要です

            Kくん Sくんから訃報を聞きました。お疲れ様。Kくんとは、学生時代のある日にカフェで何時間も喋っても飽きなくて、最後は戸山公園を散歩しながら話していたらおしりを出した変質者がいて、二人で無言で逃げ出してその場を離れてから、大笑いしたことをよく覚えています。その時、ああ、この人とは一生友達でいるんだろうなと思いました。 素晴らしく美しい時間をくれて、確かにわたしの人生に明かりを灯してくれてありがとう。ゆっくり眠ってね。また来世であいましょう。 琴音より

            詩/無限と琴線の詩

            恋することができるなら、きみは花びらと同じだけ価値があるよ。見たことないほど鋭利な星の美しさの、その真ん中に位置するのがきみの使命、そう告げることをためらわないほど、うつくしく偏った人間になりたかった。わたしの声は穏やかですか、当たり障りがないですか、この声で切実な音楽とことばを発することを、どうか、人間のいのちであるとみとめてくれやしないだろうか。存在は、影のある実存は、手の届くところにあると思っているうちが花だって、言われなくても知っている。

            詩をプレゼントした(6)

            聞こえています、ずっと聞こえています、綺麗じゃない音なんか存在しない、声をかけさえすれば味方になってくれる無数の他人、生まれ変わってもきっと、僕は満たされないもののありかに歌を差し出している。 RUTOさん @ruto_wa_rudo 見ていてね、確かさとは触れられることではないのです、わたしの宝石箱の中でいちばんきれいな指輪を、きみにあげると約束するよ。 マナマナさん @mana0v0mana 正しさは、過ぎ去っていく電車のような乾いた質感で、ぼくには見えるはず

            セックスフレンドがいた 後編-2

            「結婚しよう」と、生まれて初めて言ったのだった。 ニはわたしを好きになった。わたしもニを好きになってしまっていた。どちらが先かわからない。わたしたちは一緒に行ったカラオケボックスで気がついた。「好きになっちゃったね」。 ニの社員寮は女子禁制フロアだった。が、そんなの恋する二人にはスパイスでしかなく、ニの一人暮らし8畳1Kのお城に迎え入れてもらえることが、心底嬉しかった。 狭いキッチンについでに並ぶ化粧水もコーヒーサーバーも、ことごとくセンスが良く、わたしはつくづくニが好