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心がしんどい人が治るために

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現代社会は、以前に比べ物質面では豊かになりましたが、以前は考えられなかったストレスを生み出しました。学校、家庭、職場でさまざまな悩みを抱えている人がおられます。心がしんどい人が回… もっと読む
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なんにんかで話すことの貴重さ

なんにんかで話すことの貴重さ

 心理面接というのは、原則的には一対一で行うものだと学んでいます。そして、実際そういう例が多いです。けれど、私の心理相談室では、ケースによっては、ご本人のほかに誰かが同席されている場合もあります。
はじめは、本人だけでは緊張するから……とか、本人の受診意欲がおおくないので、私についてきて、と家族が上手に誘ってこられた、とか、そういう形でした。

 そして、教科書の原則通りではないこのやり方が、その

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充実を感じる生というのは

充実を感じる生というのは

カウンセリングをしていて、最高のうれしい時間は、そのことばを聞けるときです。
――生活のなかで、充実を感じるようになりましたーー
学校に行ってなくても、給料を稼いでなくても、つまり、世間並みの多数派的な視点から見ると、「成功者」の成績があげられていなくても、日々、充実した生を感じられるようになりますね、ということば。
それが、「どうですか?今は」という質問に対して、ぼそぼそと、むしろ無表情にかえさ

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思いこみ、のふしぎ

思いこみ、のふしぎ

 うつの傾向のある人は、心理学の言葉を使えば、認知が歪んでしまうことが多々あります。認知、とは、物事の受け止め方のことです。

 こんなパターンのエピソードです。

 その男性は一人暮らし。古い一軒家を借りて住んでいます。日中働いているので、庭の草刈りがなかなかできません。それを気にしていました。春が来て、梅雨になって、雑草が伸びる。近所の目がある。

 ある休日に、草刈りをしておりました。

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サラリーマンたちの追い詰められ方がすごいのです。

サラリーマンたちの追い詰められ方がすごいのです。



そう私は感じています。心理カウンセラーとして接する方だけではなく、プライベートの知人として知り合う身近な方の中にも、追い詰められて心理面で調子を崩す方が少なくないのです。



学校を休職して、回復に専念している教員の方。一年たってもまだ外出ができない。休職を終わり、普通科進学校の教室から職場を特別支援学校に異動させてもらったけれど、その異動先で職場の先輩からいじめにあっている、とつぶやく

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人が助けてもらえない国で生きていて

人が助けてもらえない国で生きていて

 

30か国の幅広い年齢層に対して行われた国際社会調査プログラム(ISSP)2017年の公開データにある質問項目を見ていきますと、「他人と接するときには、相手の人を信頼してよいと思いますか」というのがあります。

日本は30か国中24位。かなり下位です。「信頼してよい」という回答者の率が低いのです。

そのうち「いつでも信頼してよい」は0.8パーセント。最下位です。

全般的に、人に対する信頼が

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70年前、日本人は家に鍵をかけてなかった、というはなし。

70年前、日本人は家に鍵をかけてなかった、というはなし。

 私の母は、1939年生まれ、日本海側の雪深い農村の出です。小学生の頃、かやぶきの大きな屋根の農家にはお金などなかったよ、と言います。1940年代の終わりごろ、村で現金を家に持っている家なんてほぼなかったよ、と。じゃそこが特別貧困な村だったのか?そういうことでもなさそうです。母は「戦後の混乱」っていうのを、あんまり知らない、と言います。聞かれてもあんまりその手の話はないなあ、と。食べるものがなかっ

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「私のこれは治りそうにない」んだろうか?

「私のこれは治りそうにない」んだろうか?

心理カウンセリングを日々行う中で、ゆっくりと患者さんが回復していくのを日々、目撃しています。

そして、多くの場合、「今まで体験したことがない初めての晴れ空を見てる」という感想を聞きます。

意外なことに「前に見ていた晴れ空がやっと戻ってきた」というのより、多いのです。一般に「回復」のイメージとは、「健康にもどる」「もとにもどる」というものだと思いますが、私の場合は圧倒的にこちらの声の方をよく聞き

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国際比較でみた子どもの様子

国際比較でみた子どもの様子

●仲の良い友だちの数。

●「友人や仲間といる時が充実している」と感じる、と答える子の数。

●友人との関係について満足を感じているか。

●学校に通う意義は「ともだちと友情をはぐくむことにある」と答える子の数。

 これがすべて最下位。もっとも少ないのが日本のこどもだ、ということです。

 内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 平成30年(2018年)度」の統計による数値です。日本、

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長い間なおらない、ということ

長い間なおらない、ということ

摂食障害。なんとなく自分のことを嫌いだ、と感じている日々のいやな感じ。人からも指摘される、自分でも自覚がある人間不信。数日に一回とらわれる現実感のしないただぼんやりする重くて止まったような長い時間。リストカットしないと落ち着かない夜の時間。リストカットするとようやく落ち着く、という自分がいることにイライラする感情。

 そうした症状に何年もとらわれたままなおらない方がいます。なおることなどあきら

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話を聴く、って効く(後編)

話を聴く、って効く(後編)

 しかし、きっとこの潔くてさわやかな話には、きっと隠されたサイドストーリーがあるのです。野茂投手が三振を取る。監督、大喜び。「いけいけー。おまえはそれやそれ。」四球は笑って大目に見てくれる。彼は少々の失敗が許されるという日々の中、様々なチャレンジを試してみるでしょう。なにしろ失敗は許されるのですから。でも四球が続き、KOされることが続き、失敗続きの日々に、その四球をどうにかしたいと思わないはずがな

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話を聴く、って効く。(中編)

話を聴く、って効く。(中編)

 「患者」さんが苦しむのは、患者にしてしまう「周囲」の人たちの接し方にあるのかも、というはなしの続きです。周囲の人たち、社会の対し方が違ってくれば、「患者」さんは患者ではなくなるのではないか、というはなしです。

 私たちの見方が、厳しすぎ、許容範囲が狭すぎるのだったら――いろんなそういう見方を、いったんは脇に置いて、ニュートラルな見方で対し始めてみよう、という作戦を私は提唱します。

 その人の

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話を聴く、って効く。

話を聴く、って効く。

 話をきく、ということがどうしてこんなに心には効くんでしょうか。私は日々カウンセリングをしていて、その不思議を考えることがあります。自分のきもちを、だれかに話す、ということ。その話がそのだれかに受け止めてもらえること。ただその小さな積み重ねだけでも、効くのです。毎日胸をとらえて離れなかった重い気分や胸の奥にあったつかえがうすくなります。

 特別に医師のもとやカウンセラーのもとを訪ねなくても、患者

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「学校へ行く」のは生きるためには唯一絶対の正解だろうか。(後編)

「学校へ行く」のは生きるためには唯一絶対の正解だろうか。(後編)

 今、ウクライナの人々がたいへんな目にあっています。そんなときに、日本の子供が学校に行くのいかないの、という話は小さいと思われるかもしれません。だけど私はそうは思いません。こんな事態になると「世界は武力、実力、ちからがすべて」という狭い偏った考え方に流されそうになりますが、ひとが、ひとつひとつの「生」を大切に考え、扱うことが、そのまま、戦争を防ぐ確実な力になると思うのです。そのためにも、私は考え続

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「学校へ行く」のは生きるためには唯一絶対の正解でしょうか。

「学校へ行く」のは生きるためには唯一絶対の正解でしょうか。

 学校にいけない子供さんに対して、ことあるごとに「学校に行ってみよう」と勧めるお医者さんが、おられます。すると、子供さんは追い詰められることになってしまいがちです。
 医師という職の方々は、残念なことにというか、皮肉なことにというか、ほぼ例外なく、それまでの人生を通して学校という社会を優秀に乗り切ってこられた、受験競争の勝者なのですね。学校という社会での理不尽や厳しい空気をこらえ、耐え、しのいでこ

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