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ショートショート 「予定調和」

丑三つ時。
幽霊たちは柳の下で退屈していた。

「ヒマですね」
「うん」

若い男が彼らの前を通り過ぎて行く。

「それにしても今時の若者はかわいそうですね」
「なんで?」
「テレビも音楽も『規制、規制』でつまんないでしょう」
「そうかね?」
「僕らの若い頃って過激なことをやる連中がゴロゴロいたじゃないですか? 観客に豚の臓物を投げ付けるパンクロッカーだとか...」
「ふん」
「ショベルカーでライブハウスをぶっ壊しちまうノイズ音楽の連中だとか...」
「ふん」
「...知らないんですか?」
「知ってるよ」
「びっくりしましたよね?」
「別に。そんなことしてどうすんだろ? って思ってた」
「じゃあ、アレは? 女がステージで手首を切って救急車で運ばれた事件…」
「ふん」
「...知らないんですか?」
「知ってるよ。あの胡散臭い精神科医だかが関わってたイベントだろ?」
「そうそう。びっくりしましたよね!?」
「別に。動画を配信しながら飛び降りちゃったりする今の子たちのほうがよっぽど過激だよ」
「ま、まあね...。じゃあ、アレは? 画家がギャラリーで客の腹を切り裂いた事件。アレにはさすがにびっくりしたでしょう? 」
「別に」
「ウソだぁ…」
「ウソじゃない。だってあの画家は予め宣言してたじゃないか。展覧会の期間中に来場者を一人選んで刺し殺すって」
「そうですけど…」
「じゃあ、びっくりすることないだろ」
「でも刺された男はほんとに死んじゃったんですよ!?」
「知ってるよ。内臓が飛び出してたな」
「え…」
「腸がびろーんってまろび出てたよ。辺り一面血の海でさ…」
「ひょ…ひょっとしてあなたはあのギャラリーにいたんですか?」
「うん」
「事件を目撃したんだ?」
「うん」
「…それでもびっくりしなかったんですか?」
「うん。痛かったけど、びっくりはしなかった」

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