見出し画像

布パンツto紙パンツ

デイサービスの1日が終わるころ、
ひとりの利用者さんを浴室へ案内する。

この時間から入浴するわけではない。デイサービスの入浴はだいたい午前中で済ませることが多い。当然その方も、午前中に入浴を済ませてサラサラヘアーになっている。

「日曜日の帰りは紙パンツにとジャージのズボンに着替えてください」

ご家族からの手紙にはそう書かれ、入浴鞄に紙パンツにとジャージのズボンが入っていた。

利用者のその方は、日中は布パンツ・チノパンで過ごしている。逆をいえば月曜日から金曜日までは紙パンツは履いていない。
だが、日曜日の帰りに紙パンツ・ジャージのズボンに履き替える。上半身はそのままで。

この方は若年生の認知症を抱えている。
年齢は50歳前後だろう。スラッとした高身長、サラサラのヘアーで色白で肌は綺麗だ。シャープなメガネをかけているが表情はニコやかで温厚。知的な雰囲気で周りの人を和ましてくれる。実年齢よりも見た若く見える。

ぼくとほとんど同世代といっていい。ぼくはその方の介護を担当し、浴室の脱衣所で布パンツから紙パンツに着替えようとしていた。

その方は就労継続支援B型の作業所に通っている。就労施設は基本的に介護をしない。施設での排泄の失敗がありデイサービスを併用することとなった。紙パンツに履き替えておくのは、月曜日に作業所に行くためだと思う。
明確にご家族にヒアリングしたわけではないので憶測だが、おそらくそうだろう。

認知症は若ければ若い人ほど進行がはやいと言われる。その方は、ひとりでは着脱の行為が難しい。言語によるコミュニケーションもとれなくなり徘徊に近い行動もある。
午前中の入浴も簡単ではない。必死の工夫でなんとか入浴を済ませている。

そしてさらに、布パンツから慣れていない紙パンツに履き替えなくてはならないのだ。

家族介護にはいろいろな事情や背景があり、介護職員では想像もできない計り知れない苦労がある。だからこそぼくらはその期待に対し、最大限の取り力をする。それが気持ちに応えるということだ。

しかし、簡単なことではないのだ。よくわからない理由で、なんだかわからない時間帯に下半身の衣類だけを交換する。わけがわからないじゃいないか。
ご家族の要望に応えられたとしても、本人の気持ちは置き去りにしてしまっている。

なんとか紙パンツに履き替えることはできた。でも、ぼくとしては失敗の記憶としてのこった。その人は少し眉間に皺をよせていた。

午後の入浴はできないだろうか。いっそのこと上半身も一度脱いでもらって着替える方がいいのか。場所は浴室でよかったか。他の介護者の方がいいのか。そもそも紙パンツを使ったらいけないのか。

こうして正解のない問題に手探りで立ち向かっていかなくてはいけない。

ただひとつ正解があるとするなら、
その人が心地いい感情でその日を終えることだけだ。

介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。