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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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#古典文学

やばい和歌2  存在感を消されすぎててやばい

やばい和歌2  存在感を消されすぎててやばい

奥山の 岩垣紅葉 散り果てて 朽葉が上に 雪ぞ積もれる
             (『詞花和歌集』156 大蔵卿匡房)

奥深い山の 岩に四方を囲まれた紅葉が 葉を散らし果てて
地に落ち、朽ちた葉の上に 雪が降り積もっている

 人里から遠く離れた山奥に、一本の紅葉が生えている。
 その姿を外界から隠すようにして、巨岩が取り囲む。
 冬が到来し、秋に染まった葉が、最後の一枚まで散り果てる。

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やばい和歌1 雪量がやばい

ふる雪に 杉の青葉も 埋づもれて しるしも見えず 三輪の山もと
                 (『金葉和歌集』285 皇后宮摂津)

ふる雪で 青青しい杉の葉も すっかり埋まってしまって、
ここがそこだ、という目印も見えないよ ここ、三輪山の山麓で

 雪量がやばい。
 だって杉がすっかり埋もれているんだ。杉は大きいもので、樹高が40〜60mにも及ぶ。それが埋もれるって、積雪量何メートルだって

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寂しい冬の歌 後拾遺和歌集 和泉式部

寂しい冬の歌 後拾遺和歌集 和泉式部

寂しさに 煙(けぶり)をだにも たたじとて
       柴折りくぶる 冬の山里(『後拾遺和歌集』三九〇 和泉式部)

寂しい。せめて煙だけでも私の周囲から絶やすまいよ。 そう思って、
           薪を折り、火にくべる。ここは、人気もない冬の山里。

 月や桜を友として、山の暮らしの寂しさを紛らわすのは、まあ風流だ。そこには「こんなオレが好き」という自己陶酔か、あるいは「こんなオレを見て

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(古典和歌)冬の恋歌

(古典和歌)冬の恋歌

思ひかね 妹がり行けば 冬の夜の 川風寒み 千鳥鳴くなり
                  (『拾遺和歌集』224 紀貫之)

 恋しさをおさえきれなくなって あのひとの住む方へ行ってみると
 冬の夜の 川風が寒いので 千鳥が鳴いているらしい

 会いたいなら会いに行けばよい。わざわざ「思ひかね」というからには、何か容易に会えない事情があるのだろう。親世代の干渉か、あるいは仕事が忙しいか。

 

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冬の月と古今集

冬の月と古今集

大空の 月の光し 清ければ 影見し水ぞ まづこほりける

 冬の夜空に君臨する月は、冴え冴えとした静謐な光を放ちます。その光は透明で美しく、しかしどこか怖い。

 歌は『古今和歌集』の三百十六番歌。詠み人知らずの作品です。「影」は月影、月の光を意味します。

 清さが凍結を招くという詩情。水の擬人化。そして「まづ=いち早く」見たものから凍り付かせる無慈悲。

 作者は月を振り仰ぐことができたのでし

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冬の風の歌

吹く風は 色も見えねど 冬くれば ひとり寝る夜の 身にぞしみける
              (後撰和歌集449 詠み人知らず)

(訳)
吹く風は色も見えないけれども 冬が来ると 一人で寝る夜、私の身に染みわたるものだね

 冬の風の冷たさに気がつくのは、僕の場合はまず手だ。

 朝のランニング時、寒さと闘って外に立ち、身体をひねって走り始める。やがて身体はぽかぽかしてくる。だけど手先はなかなか

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