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やばい和歌2 存在感を消されすぎててやばい

奥山の 岩垣紅葉 散り果てて 朽葉が上に 雪ぞ積もれる
             (『詞花和歌集』156 大蔵卿匡房)    
奥深い山の 岩に四方を囲まれた紅葉が 葉を散らし果てて
地に落ち、朽ちた葉の上に 雪が降り積もっている

 人里から遠く離れた山奥に、一本の紅葉が生えている。
 その姿を外界から隠すようにして、巨岩が取り囲む。
 冬が到来し、秋に染まった葉が、最後の一枚まで散り果てる。
 その葉が朽ちた頃、雪が降り始める。
 雪はゆっくりと、朽ちた葉を覆い隠していく。

 山奥、巨岩、そして雪。
 美しい紅葉は、その最盛の姿ばかりか朽ち果てた姿まで、執拗なほど隠され、誰にも見られることなく終わっていく。

 描かれているのは想念上の美しくも寂しい紅葉なのか。それともその裏にいる、才能に溢れながらも誰にも知られなかった哀れな男の存在を匂わすか。

 切ない歌である。

 

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