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#13 好きが感謝に昇華した話②【進路】
前回の記事↓
chapter2 進路と迫る共通テスト
「進路」
その単語を意識し始めたのは実に7月の二者面談だった
高校まではごくごくふつうの公立に通っていたため、それほど自分の未来を考えたことはない
アブラゼミのけたたましい鳴き声が廊下中に響き渡る中、担任の先生との面談が始まる
ぼんやりと、間近で見てきた先生になりたいと思って高1の模試から書いていた志望校をコピーして提出していたのだが、それでは話が進まない
「なんの教科の先生になりたいのか」
と言われるから、その時好きだった数学を挙げた
___あ、あと家庭科も好きと
毎日の生活の延長線上
家庭科の時間はなぜか落ち着けた
…よく考えてみると文系の私に数学の先生になるのは十中八九不可能ではないか
それなら家庭科の方を目指そうか
しかし、3年も先にまだ自分が家庭科の先生を目指しているとも限らない
だから、とりあえず、その先の幅が広がりやすい「小学校」を希望した
私が高1から希望している大学の教育学部では、自分の履修しているコースの免許の他にも、他コースの免許の取得も可能なシステムがあった。そしてその選択の幅が広く、多くの人が副免許を取得しているのが小学校のコースだった
そして決定的だったのは、間口が広かったことだ
こればかりはしょうがない
偏差値55程度の平凡な高校生が、レベルの高い国立大学を目指すのであれば少しでも狙いやすい学科を選ぶことは戦略でもある
将来のビジョンなんて一つも固まっていない自分にとっては、間口とその先の選択肢が広いという点は、第一志望校に名前を書き続けるだけの理由に十分なりえた
そしてそれを先生も理解してくれた
私が子どもが大好きなことを知っていたのもある
先生は私に1枚の案内をくれた
私と同じ大学を志望する人たち向けの説明会の案内である
「そこに行ってきなさい、そして「彼」もそこにいる」
そう言い残されて私は面談を終えた
夏の暑い教室が満席になるほどの人がいる
クーラーもうなりをあげる
こんなにいるのか
少々驚いた
うちの高校の進学実績を調べてみたが、毎年私が志望している大学に合格しているのは多くて20人といったところか
「最初は」こんなにいるんだ、そう思った
教室に入ると「あの背の高い、猫背で、目つきの悪い男」もいた
なんと彼も志望校が同じだった
ベネッセの人が話す夏休みの計画の立て方も、夏の補習の案内も、耳から入って耳から抜けていく
(なんであいつもいるんだろ…)
そんなことを、配られた資料の一点をみつめながら考える
考え事をしていると、時間は意外とすぐ過ぎてしまう
あっという間に、「国立目指す人向け講習会」なるものは終わった
教室を出ると、彼に話しかけてみた
どうやら、学科まで志望が同じなようだ
教師一家の家庭で育った彼はこれが自分の進む道だと自然に意識していたらしい。中学生のころから親の学級通信を作らしてもらっていたりと何気に経験は豊富であった
気の置けない友達ではあったが、志望校の話はしていなかったので共に戦う仲間ができたようでうれしかった。まあ、彼は素っ気ない奴だが
渡り廊下を歩いていると、心地よい夏の匂いがした
季節はカロリーメイトのCMが流れる頃
うちの公民の先生はそれを授業でみんなに見せていた
受験へのモチベーションを高めるためだろう
が、何年分も見せられると
(これいつまで見るんだろ…)
と思い手元の共テ対策の問題に目を落とす
ただ集中ができない
場面は反抗期の男子高校生が母親に勉強のストレスからか逆上しているところ
私は人が怒ると固まってしまうタイプなのでこれは非常に困った
むむむ……
マスクの下で梅干しみたいな顔をしながらじっと耐える
ふと、前にいる”話したいけどもう受験期だからそれどころじゃない人”に目がいく
じっと映像に見入っているようだ
その姿に見入ってしまう私
ああ、だめだだめだ!
そう思うがだからといって他に目のやり場もない
怒鳴る男子高校生などみたくない
___気が付いたら映像の中の男子は精神が安定した様でいろいろあって広い講義室の真ん中に座っている。試験管の「はじめ」の合図で鉛筆を握る。教室中の沈黙がその瞬間から問題の表紙をめくる音へと変貌する
自分の未来を、鉛筆でつかみとる時間が始まった
そしてその時間は自分の身にも差し迫っていることに、私ははっとした
chapter3 目指す場所へ
「銀河の夢カード」
それは桃太郎電鉄2010に登場する便利系カードの1つで、銀河鉄道の出発点である宇宙までは連れて行ってくれるが、サイコロで1か6が出ないと再び地上へ戻されてしまうというなんとも「夢」を見せてくれるカードだ
今の私はサイコロで1か6が出るなんかよりも低い確率で、銀河鉄道の出発点、大学の二次試験会場にいる
当然のことだが、「銀河の夢カード」は1年に1回しか入手できないカードだ
時を少し遡り、共通テストが終わった後
私も、「背が高い男」も共通テストの成績はさんざんだった。私は直近のプレ共通テストでは割といい判定がでていたのにも関わらず結果はE判定。彼は何気に自己ベストだと喜んでいたが、同じくE判定
こんな点数ならふつうの人はとてもじゃないけど第一志望校を変える。本当に2人共それくらいひどかった
しかし、よくわからないところで似るのか、どんなに担任に説得されても2人共志望校は変えなかった
2人はとうに決断していた。もう変えないと
三者面談も二者面談も何度もした
今の実力でいける大学リストの束も渡された
現実が憎かった。共通テスト本番まではあれほど志望校は高く設定しろと言っていた教師が手のひら返して「行けそうな大学」を勧めてくる
「目つきの悪い彼」も担任に殴りかかりそうな勢いで怒っていた時もあった
その頃の私は、その大学に絶対に行きたいという気持ちになっていた
結局その高校では前代未聞の
「E判定なのに前期後期ともに同じ大学に突っ込む」
という偉業を2人同時に成し遂げた
そして誰も予想できなかった結果が待ち受ける___
教室の扉がぼろいせいで凍えるふぶきが足を通り抜ける
外は真っ白、銀世界だ
いまだに雪をみるとワクワクしてしまうので、自習中はちらちらと外を眺めていた
共通テストが終わると学校は自由登校になった
そして、国公立の二次試験まで残り1か月を切った
全ての授業が自習となった今、各々が自分の進路のためにせっせと準備をしている
それは”今前にいる女子”も一緒だ
彼女は友達と2人で小論文か面接の対策に取り組んでいる
志望校は、違う
教室内での席が、前から順に”その子”の友達、私、”その子”だったので私は気まずかった
私が間にいると喋りづらいのか、途中から2人共前の方に行ってしまった
少し悲しくはなりながらも、自らの進路のため、この時はすぐに切り替えて集中することができた
時計の針の音が聞こえてくるくらいスイッチが切れかけた頃に、その日の授業は終わり放課後になった
友達と立ち話しながら廊下の掃き掃除を済ませ、再び教室に戻った。この1か月は自分でもびっくりするくらい勉強していたと思う
共に戦う仲間がいたというのも大きな理由になるだろう
「目つきの悪い猫背男」も一緒じゃなければ頑張れなかったと後に言い残している
長く、短い1か月は過ぎた
そして、本番の日は突然にやってきた
2021.2.25
その日は朝5時には目覚めた
ほとんど、眠れなかった
明日で自分の人生が決まる、そう考えたら眠れるわけがない
エナジードリンクを飲んだわけでもないのに覚醒した顔を洗い、前日に準備しておいた荷物を手に玄関に向かう
受験票は何度も何度も確認した
「いってらっしゃい」
普段と変わらぬその声を最後に、私は扉をあけた
真冬の凍てつく空気が顔に当たる
高1のオープンキャンパス以来の大学に向けて、私は出発した
最寄り駅から電車に揺られること1時間、うちの近所よりさらに寒い土地に降り立った
気温は0℃を下回っている
そんな朝にも大学へ向かうバス停には長い列ができている
前期試験の日のための特別ダイヤで設定されたバスに乗る。満員になるまで出発しないため、車内はおしくらまんじゅうだ
単語帳、ノート、リスニング…
車内にいる受験生はみな思い思いの直前対策をしていた
しかし私は緊張でそれどころではない
混んだ車内から窓の外の景色を見ていることが私にとって一番の受験対策であった
バスは坂道をどんどん登り、さらに標高の高い頂へと向かう
そしてついに、私が目指してきたその場所に到着した
広い広いそのキャンパスに、私は足を踏み入れる
次にこのキャンパスに入れるのはいつだろう
そんなことを考えながら、震える手と足を動かした___
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