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連載小説「死神捕物帖」

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連載小説 「死神捕物帖」(1)

連載小説 「死神捕物帖」(1)

  1

 選択肢の数を増やせばいいだけだ。
 たったそれだけで、さまざまなストレスを消すことができる。
 
 朝起きて、妻が淹れたコーヒーを飲む。ぼくは午前中のうちに煙草を十本以上は吸ってしまう。いつも二杯のコーヒーと共に五本は消費してしまう。娘はバタバタと準備を済ませ小学校へ向かっていく。
 朝食を摂るか摂らないかはその日の気分で決めている。
 妻にはかねてぼくの分の毎朝食を準備しなくてもよい

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連載小説 「死神捕物帖」(2)

連載小説 「死神捕物帖」(2)

 2
 
 トーヨー電基での仕事は至ってシンプルだ。受注したものを納品し、金を得る。ただそれだけを粛々とこなせば終わる。それぞれの受注を相応の期間のうちにケリをつけていけば、我々は自分の栄養分を摂取したり、退屈な毎日にアクセントをつけたりするための給料をもらえる。しっかり教え込めば、中学生でもできるような仕事だ。
 しかしトーヨー電基はいつも何かにてこずっている。常に不協和音を鳴らしながら会社を動

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連載小説 「死神捕物帖」(3)

連載小説 「死神捕物帖」(3)



 予想していたとおり、一時間の残業が課された。工員たちは業務の最後に検査ブースの整理整頓をすることになっていたが、いつもながらそこに岸本の姿はなかった。おそらくは休憩室で着替えながら時間調整でもしているのだろう。
「平塚さん、今日は宮本さんと飲みにいくんですよね」
 川端はデスクをウェットティッシュで拭きながら、こちらを見ずにそう言った。
「ああ。最近行ってなかったから付き合うつもりだよ」

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連載小説 「死神捕物帖」(4)

連載小説 「死神捕物帖」(4)

 4

 トーヨー電基を出て二十分ほど歩くと雑居ビルが建ちならぶ繁華街に着く。
 味気のない景色が広がる国道の太い歩道を行き、二度角を曲がった道の先に見える明るいそのビル群は、さながら工員たちのオアシスのようだった。
 駅前方面にチェーンの大衆居酒屋が数軒あるものの、工場街で働く中年男性のほとんどはこの雑居ビルが集中する富野町に酔いを求めている。雑居ビルにはスナックやメンパブ、ラーメン屋などが入居

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連載小説 「死神捕物帖」(5)

連載小説 「死神捕物帖」(5)



 入店してから五時間がたつと、もともと多いとはいえなかった客はついにぼくと宮本だけになった。琴美は四人いたホステスを一時間ごとにひとりずつ帰らせ、最後まで残った者には看板を消して掃除を始めるよう伝えた。
 琴美が有線を消すと、二人は急によそよそしくなった。目配せをし合い、ときどきぼくを見てにんまりと笑う。何事かぼくには知る由もない計画が二人の間で進行しているようだった。店内BGMが止まると、

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連載小説 「死神捕物帖」(6)

連載小説 「死神捕物帖」(6)



 宮本と琴美の不倫関係の主軸にあるものは性欲と金。簡単にいえばセックスワークだ。
 かねて宮本は夫婦間のいざこざをぼくに打ち明けていた。宮本は妻を「あいつ」と呼び、あいつは仕事の苦労をわかっていない、あいつは子供の相手もせず遊んでばかりいる、あいつに金を渡したくない、などとよく言っていた。もっとも彼は妻に限らず、世の女性すべてを男性とはまったく違う生き物とみなしていて、男性よりも劣った動物だ

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連載小説 「死神捕物帖」(7)

連載小説 「死神捕物帖」(7)



午前三時を過ぎた頃、やっとぼくたちは解散した。セックスビデオの話題を終えたあとも、宮本と琴美は気まずそうな雰囲気を漂わせたままだった。宮本の居丈高な態度も鳴りを顰め、ともすればぼくに接待をしているようにも感じられた。ぼくはといえばいつも通りにただ相槌を打ち、聞かれたことに答えてばかりで、二人はそのぼくの様子に困惑の表情を浮かべていた。高価なウィスキーの封が切られ、彼らはぼくを崇め、何かを祝う

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