根気マウス190517

仕事や勉強をやり続ける「根気」のメカニズムがわかった。

オジさんのカガク2019年5月号

 根気よくコツコツと勉強することが苦手だった。試験はいつも一夜漬け。高3の受験生の時でも、中2の弟より長く机に向かっていられなかった。
「同じ兄弟なのにどうしてこうも違うのかしら」といつも母は嘆いていた。

 先月、慶應義塾大学の研究グループが、根気を生み出すメカニズムを発見したと発表した。
 高い目標を達成するためには、粘り強く行動を続けることが求められる。その時の脳の仕組みが解明された。数十年経ち、母の疑問に答えられる日が来た。
 
 研究グループは、根気を数値化して調べる方法を考えた。
 まず、マウスに、レバーを押し続けるとエサがもらえる事を教え込んだ。次に食事制限を課し、腹ペコ状態にした。そして一定回数レバーを押すとエサがもらえる仕掛けを作った。 
 マウスが押し続けてエサにありつければ成功、途中であきらめれば失敗と評価する。
 回数は5回、10回、20回に設定した。
 5回に設定した時の成功高率は、95%だった。これが10回の時は73%、20回だと50%に下がっていった。難しい課題だと根気が必要になる。

 研究グループは課題をこなしている最中のマウスの脳を調べた。レバーを押し始めると脳の奥にある「海馬」の一部の神経活動が沈静化し、成功するまで続いた。
 ところが、途中で神経活動が活性化すると、レバー押しを止めることが判った。
 海馬のこの場所は、不安行動の制御を行う領域と考えられている。活性化している時は不安を感じており、沈静時は安心している状態だ。わずかでも不安を感じると活性化し、マウスのレバー押しが中止されるのだ。

 研究グループは、人為的に刺激を与えて海馬の神経活動を活性化させてみた。すると5回課題の成功率が80%に下がった。
 逆に神経活動を沈静化すると10回課題の成功率が73%から80%に、20回課題は50%から73%に上昇した。難しい課題にも根気よく取り組むようになった。

 さらに研究グループは、海馬の神経活動が沈静化されている時に「セロトニン」が盛んに分泌されている事を発見した。セロトニンが根気を生み出していたのだ。
 セロトニンは神経伝達物質のひとつである。脳の覚醒、精神の安定などを促し、高揚させたり開放的な気持ちにさせると言われる。

  では、どうしたらセロトニンを増やすことができるのだろうか。セロトニンは栄養素として脳に取り込むことができない。そこで脳の中でつくって活性化する方法、略して「セロ活」を調べてみた。
 
セロ活① 日光を浴びる
 セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンからつくられる。この作用は、光の刺激が網膜を通じて脳に伝わると始まる。その条件は2,500ルクスを超える光を5分以上浴びること。
 室内灯では、デパートのような明るい場所でも1,000ルクス程度しかない。太陽光なら曇天でも10,000ルクス以上ある。
 朝起きたら、即カーテンを開けよう。薄暗いままだともったいない。

セロ活② リズミカルに運動する
 東邦大学の研究によると、運動でセロトニンの分泌が増えるという。リズミカルに呼吸をしたり歩いたり、咀嚼することが有効だそうだ。
 座禅やヨガの呼吸法、ダンスやジョギング、ウォーキング、サイクリング、ガム噛みなどが例としてあげられている。また眼球のリズミカルな運動や、顔や背中のリズミカルなマッサージも有効だそうだ。
 ボクはとりあえず歩くことにする。

セロ活③ 普通に食べる
 セロトニンの原料となるトリプトファンは必須アミノ酸。身体の中ではつくられないので食物からとらなければならない。多く含まれるのは肉、魚、大豆製品、米、乳製品、卵、ナッツ類、バナナなどだ。
 また、セロトニンの合成にはビタミンB6が必要になる。肉(特にレバー)、魚(特にサンマやイワシなど)、ナッツ類、バナナ、にんにくなどに多く含まれる。
 そして炭水化物は、トリプトファンが脳内に取り込まれるのを助ける。
 ただし、これらが通常の食生活で不足することはないと言われる。しかも、たくさん食べてもセロトニンの生産は増えない。
 でもダイエットの時や、極端な偏食の人は気をつけよう。炭水化物ダイエットで気分が落ち込んだり、根気が無くなったら要注意だ。
 また、日光で動き出したセロトニン生産ラインに原料を供給するためには、朝御飯も大事だ。

セロ活④ 涙を流す
 涙を流すことでもセロトニンは増える。涙を流すと交感神経から副交感神経に切り替わり、その際にセロトニンを分泌する神経が活性化される。
 映画を観て、感動の涙を流そう。最近プライムビデオに『君の膵臓をたべたい』が復活した。また泣いてしまった。もちろん原作も泣けます。

 さあ、これでキミもボクも根気が出るはず。
 しかし、一緒に暮らしていた弟の生活とは、どこが違ったのだろう。母の疑問には答えられそうにない。

今月のまとめ
 根気は、海馬の神経活動を沈静化することで生み出される。
 そのために脳内にセロトニンを分泌させる。
 分泌を活性化するには「日光を浴びる」「リズミカルに運動をする」「普通に食べる」「涙を流す」のがよい。
                                                                                        20190520 や・そね
 
<参考資料>
プレスリリース
・『「根気」(こんき)を生み出す脳内メカニズムを発見 -粘り強さは海
    馬とセロ  トニンが制御する-』  慶應義塾大学 2019年4月16日
書籍
・『脳を最適化すれば能力は2倍になる』 樺沢紫苑 文響社 2016年
・『なぜ人はドキドキするのか?』 中西貴之 2017年
Web
・東邦大学医療センター大森病院HP
・wikipedia
・『こよみハンドブック』大阪市立科学館2006~2008年
    照度と明るさの目安

抄録
・国際生命情報科学会誌 / 34 巻 (2016) 1 号 /『セロトニン神経活性化の臨床  的評価:脳波α2成分の発現』 有田秀穂、滝本裕之 
・国際生命情報科学会誌 / 30 巻 (2012) 1 号 /『座禅とウォーキング』有田秀  穂 

<バックナンバー>
2016年
1月号  世界一のシマシマ
2月号 夢を操る
3月号 指で潰せる最強生物
4月号 腰痛は愛から
5月号 働くオジさん
6月号 鬼門の先
7月号 ネコはおしゃべり
8月号 世界のタムじいさん
9月号 台風七番勝負
10月号 見えてます
11月号 ヒトの脳は大雑把が得意
12月号 謎解きDNA
2017年
1月号 旧石器時代最先端技術博レポート
2月号 がんばれベテルギウス
3月号 ヒトのカラダは倹約上手
4月号 ボクが鳥を恐がるわけ
5月号 恐竜からヤキトリ
6月号 「ハンバーガー」と「かば焼き」
7月号 将棋と脳
8月号 ナノカーなのだ~
9月号 宇宙の「柿の種」問題
10月号 ちいさなさざ波
11月号 カラフルな、ふとん
12月号 お熱いのがお好き
2018年
1月号 13%の不運!
2月号 インフルエンザは、なぜ流行る?
3月号 おイヌさまさまなのだ。
4月号 ネコの人工血液が出来たんだニャ~。
5月号 ミートテックを愛用する方々にジャストミートする諸研究
6月号  下手は伝染る
7月号 ゆるゆるカガクの用語集「第二の地球」編
8月号 ネッシーの不在証明
9月号 ホップ、ステップ、アワワワワ。
10月号 群れるメリットが「社会」をつくる。
11月号 氷の底に潜む忍者
12月号 隙間の神様
2019年
1月号 新発見!記憶復活薬
2月号 ハダカで足を引っ張るやつ
3月号 氷河期パークのつくり方
4月号 盗まれたノーベル賞

                                                                                                                      以上

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