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感情電車 #2 「濃くて薄いゴールデンウィーク」
4人姉弟の末っ子であり、一家の長男。姉弟の中で最も年が近い三女でさえ、私と九つも離れていた。両親が年を老いてから生んだのが私だった。
そんな私が、2015年の春に第一志望の高校に落ちて、滑り止めの富山高専に入学することになった。
私を女手一つで大事に育ててくれた母が、私の高校受験の失敗に悲しんでいた。三人の娘達が当たり前のように通っていた進学校に、年老いてやっと授かった長男が合格できなかったのだか
感情電車 #4 「辞めたいと思った数は、乗り越えてきた数」
12月3日。後期中間試験が終わったので、約束通り練習に復帰した。
私が休むに至った理由を小林先生が部員達にどう説明していたのか分からなかったから、なるべく気を遣われないように、平然とした顔を作って部室に入った。
まだ誰もいなかったのでせっせと着替えて、練習の合間に飲む水や練習で使うボールの準備をした。ラグビーボールに空気を入れながら、そういえばこの休んでいる期間に誰からもLINEが来なかったことを
感情電車 #6 「おらタニマチさなるだ」
「何かに挑戦したいから」「もっと成長したいから」
そんな理由でラグビー部を辞めたものの、必死に取り組みたいことがすぐに見つかる訳ではなかった。
強い意志を持ってラグビー部を辞めたつもりが、本当はとにかく辞めたいという思いが前提としてあって、挑戦や成長といった理由は単なる後付けに過ぎなかったのではないかと思ってしまう時もあるほど、夢中で取り掛かれることが目の前にない日々が続いた。これならラグビー部を
感情電車 #7 「ぼくらの四ヶ月戦争」
私が通う富山高専射水キャンパスでは、毎年十月に英語スピーチコンテストが開催されていた。コンテスト内容はいたってシンプルであった。四分の間に自分が考えた面白いスピーチを英語で話すのだ。スピーチの内容はジャンルを問わなかった。優勝者と準優勝者は中部大会に進出し、その中部大会で三位以内に入賞すれば、全国大会への切符が手に入るのだった。
参加資格は、学生全員に与えられているのだが、結局参加するのは英語にゆ
感情電車 #9 「高岡蜃気楼」
2016年5月上旬、高専二年の春。私がラグビー部を辞めたばかりの頃。下級生が続々と退部したラグビー部に残った一個上の先輩の徳井さんから頻繁にLINEが来るようになった。
「キムくん本当にやめるんかー?」
この文面が三日に一回くらいのペースで送られてきた。もう私の退部が顧問に認められたというのに、執拗に同じ文面を送り続けてきた。
私が「もう戻りませんよ」と返信しても、徳井さんは既読無視をしてきた。そ
感情電車 #12 「The Show Goes On」
私はあの時、意地でも一人で海外に行ってプロレスを見てやると心に誓った。母に怒鳴られたあの時だ。
事業の失敗を繰り返す父と離婚した母は、一家の四人目として生んだ私を女手一つで育ててくれた。私が中学生になった頃には既に三人の娘達が社会に旅立っており、経済的にも精神的にも少し余裕が見えてきた。私を片親で育ててしまったことで自責の念に駆られていた母は、「4人姉弟の中であんただけ塾一つ通わせることができな