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海外転職ー採用側が見てるもの

先週、プロジェクトがようやく稼働した日。チームをねぎらうためにみんなでパブにいった。
たまたま隣に座ったのは、うちのチームに一番最近入ったインターン。20代のアメリカ人。

「で、3か月経って、どんな感じ?一番プロジェクトがジェットコースターなタイミングで入ったから、いろいろ大変だったでしょう」

と私は彼女に話しかけた。

彼女は、どこまで本音を云おうかな…という感じに直属の上司であるインド系イギリス人のほうをチラリと見た後、私の方をむいて話をはじめた。

「確かにチャレンジだらけでした。
でも、プロジェクトの最初のほうから関わることができたので、ぜんぶ作り終わったものを後付けで学ぶよりも、ずっと自分のものにできたから良かったと思います。
それに、これを通して社内の広いひとたちと交流することができたし」

ふむ。優等生の返事だな。

「私、学校をでた後のキャリアをどうやって作っていこうかと悩んでいたので、そもそも今回インターンの機会をもらえて本当に嬉しかったです。
専門からいったら少し違う分野だけれど、でも、新しいことをたくさん知る機会になっています」

そうそう。
確かに彼女はかなりの分野違いだった。
でも私はぜったい彼女がうちのチームにフィットすると想像ができたから。

私がイギリスで働くようになって14年目。3社目。
そして、その前の日本でも
会社の規模の大小こそあれ、採用をする側をしてきた。

もちろん、イギリスで3社目ということは、私自身この国で2回転職している。
日本でも、アメリカでも、イギリスでも。
採用される側を、何度も経験している。

だから、採用する側に立っていても、どうしたって面接を受ける人の気持ちを考えてしまう。

できるだけチャンスをあげたいと。

かつて、従業員9万人のグローバル企業の本社にいたとき、
採用の応募をかけると、やってきた履歴書は、まず人事の採用担当のところへいった。
彼らが10-20通ほどに絞ったものだけが採用管理システムにアップロードされ、私たち採用マネージャの目に届く。

同じ会社の日本オフィスにいた時も同じ、
人事が振るい落としたものを見る機会はなかった。

私は何度も人事に「なるべく大きく広げて、多めに転送してくれ」と念を押した。
そのくらい彼らが「選ぶ」履歴書は、的外れだったから。

そのあと、規模の小さな会社に移ってからは、決めている。
来た履歴書には一応すべて目を通す、ということを。

たぶん、私はめずらしいほうなんだと思う。
人事にいつも「え、全部みたんですか?」といわれるから。

私は氷河期まっただなかのときに、大学を卒業した。

しかも女子大。
附属あがり。
だから、バリバリと海外で総合職をしたいという希望を真剣に受けとめてくれる企業はほとんどなかった。
というより、氷河期のそのころ、そもそもうちの会社には今年は採用枠がはありませんという企業ばかりだった。

エントリーシートの段階で返事がない会社ばかりの中、
もし面接に進ませてくれたら、もっと私の価値について語れる自信があるのに、と何度思ったことか。

縁故で就職を決めていく附属の友達、
東大だからと企業のほうから連絡が来るボーイフレンドを横目でみながら、歯ぎしりする毎日だった。

だから、自分が採用する側にたった今。
期限内に届いた履歴書にはすべて平等に目を通し、面接するかどうか決めたいと思っている。

「そうね。履歴書をみたとき、まったく関連のないものを勉強してきたし、関心も少し違う分野なんだとは読み取れたけど、あなたもそれをわかったうえで応募してきたわけでしょう?
だから、学ぶ気があるってことだと思って。
そして、履歴書の書き方から、地頭がいいことも、うちのチームにマッチしそうなことも想像できたのよ。
こうして数か月経って、うまくいってるのなら、それはお互いによかったよね」

私は、若きインターンにそういった。

ただ、現実には履歴書を全部読むという採用マネージャは少ないだろう。

今回のインターンの募集には世界中から270通くらい応募があった。
その前の中堅マネージャの募集には180通ほど。
ディレクターレベルの募集でも、100通近くは履歴書がやってきた。

ブレクジットのあとでも、やはりイギリスは働く場所として魅力的なようだ。
イギリスじゅう、また、イタリアやポルトガルなど他の西ヨーロッパの国はもとより、「なんとかしてヨーロッパへの足掛かりをつかみたい」という中東、東南アジア、中国、インドやアフリカ、さらにトルコや東欧諸国など、世界中からものすごい数の応募がやってくる。

なかには「だめもとで、まったくお門違いだけれども送ってみた」という、見当違いあるいは工夫のない応募も多い。

履歴書はただ送ればいいわけじゃない。
中身に会社が求めるものとリンクするポイントがないのなら、通るわけがないからだ。

ちょっと考えればわかりそうなもの。
なのに、週末を潰して大量の履歴書に目を通していると、おたがい時間の無駄じゃないかしらと思うくらい、工夫も努力もないまま作ってある履歴書を送って来ている応募者が本当に多い。

だから、そんな採用する側から、アドバイスをするとしたら。

私のポイントはこんな感じになる。


行きたい会社、したい仕事なら、パーマネント(正社員)か、コントラクター(派遣)かで線をひかない

もしあなたが安定性を求めて「パーマネントしか応募しない」なんて思っているのなら、もったいない。
もちろん、その募集が、パーマネントのポジションなのか、コントラクターなのかを条件を確認するのはとても重要だ。

ただ、採用する側からすれば、コントラクターというのは、ヘッドカウントに入らない枠。
つまり、部門の予算・支出管理をしている部門長としては、人数が増えてしまうパーマネントよりもコントラクターのほうが予算枠を取りやすい。
日給としては高給取りのように見えるコントラクターも、パーマネントに払う諸手当やボーナスを加えて比較すると、同じ能力の人材にかかるコストは同じくらいだ。
となると、「予算を押さえやすい」がゆえに、人材募集はまずコントラクターで出そう、と考えがちになる。

もちろん、産休カバーや、プロジェクト期間だけの要員など、本当に終わりが見えているものもある。

たとえそんな期間限定の仕事だったとしても、むしろコントラクターでまず入社した方がいい。
そこで実力を認めてもらって、いい条件を交渉してパーマネントに移るというのが、イギリスでは日常茶飯事だから。

入社しちゃえば、こっちの勝ち。
ネットワークだって作れるし、よその部門の採用情報だって入ってくる。

応募はできるだけ早くする

あ、この募集、いいかも!
そう思っても、ああ、履歴書とカバーレター書かなくっちゃ、週末にやろうかな、条件をちょっと検討しようなんて時間を置くほど、一日単位で、あなたの応募は不利になっている。

なぜか。

前述のように、たいていの応募は、まず人事の採用担当者が履歴書をみて選抜する。

そして、人事の採用担当者というのは「どのくらいとっとと採用を終わらせることができたか」で評価されている。

しかも、たいていの場合、採用担当者はその職種のことをよく知らない。
だって、その人は人事なのであって、営業だったことも、研究職だったことも、物流担当だったこともないのだから。
つまり、あなたの履歴書を読んでも、たいていの人事のひとは「よくわかってない」のだ。

じゃあ、どうやって選んでいるか。
経験者の採用ならば、まずはその業界の経験があるか、前職が同じ分野か。
新卒や第二新卒なら、関連した資格や専門が履歴書に書いてあるか(会計士とか、経済学とか)。
そんな大雑把なポイントでしか、人事は履歴書を読めない。

そして、一日も早く届いたものから、さささっと洗って、採用マネージャに送っては「さあ、早く人事インタビューする応募者を選んでくださいよ」と督促する。

だから、応募はできるだけ早くしたほうがいい。
そうしないと、この「人事」という第一関門を通過できなくなってしまう。

そして、もしこの関門を通過しなかったら、あなたの経験や職種のことを本当にわかっている採用マネージャにはたどりつけない。

人事は「その業界の経験があるか、前職が同じ分野か」といった文字を履歴書でみていくと書いた。
となると、当然、大きなキャリアチェンジをしたくて応募をしているひとは不利になる。

あなたがもし業界を変わりたい、あるいは職種を変わりたいと思っているのならどうしたらいいのか。

私のような変わり者の採用マネージャがすべての履歴書を読んで、ビビッと来てくれるまで待つのか。

違う。

あなたの履歴書にたくさんの罠を仕掛けなくてはいけないのだ。人事の人たちの目を引く、罠を。

履歴書は絶対に、ぜったいに、応募先の企業に合わせて書き直す

あなたの履歴書は、そもそも、「観客の目」を気にして書かれていますか?
そう。
プレゼンもそうだし、履歴書もそう。
日記でもない限り、情報発信は必ず読み手のことを想像して書かなくてはならない。

観客とは、この場合、人事だ。
あなたの専門領域の事をあんまりよく知らない、人事のひと。

だから、「この業種のひとならわかってるよね」ということばで書いても通らない。
人事は、その業種のひとじゃないから。

そのためには、応募のページに書かれた職務内容を読みこんで、そこに使われたことばと同じ言葉をちりばめなくてはならない。

例えば、アメリカや中東など、ヨーロッパ外の市場を管轄する職務内容なら、その経験があるよとしっかり書こう。
もし同じ経験がないとしても、一番国際豊かな経験はなんだったのかを思い出してそこを強調して履歴書に入れるべきだ。

業界が違うのなら、応募する業界で使われることばに移し替えたほうがいい。
セールス、がいいのか、コンサルタントがいいのか、リレーションシップマネージャがいいのか。
肩書きなんて正確じゃなくていい。読み換えて受け手が分かりやすいように工夫すべきだ。

あなたの経験が化粧品メーカーでシャンプーの担当をしていたとして、今度はコンピュータ会社に応募するのなら、シャンプーと書かずに「FMCG(Fast Moving Consumer Goodsー回転率が高い消費財)の経験がある」とアピールしたほうがいい。
そうしたら一見遠い業界のようでも、経験が生かせることを伝えられるはずだ。

履歴書の冒頭に自分のアピールを3行程度箇条書きにする

ニンゲンの集中力というのは、たいして長い時間持続しない。
100通以上の膨大な履歴書を読まなくてはいけないとき、
それが20年の経験を詳細にかいた5ページの履歴書だとしたら、1ページ目の上半分でグッとこない限り、おそらく残りは読まれない。

だから、履歴書の冒頭に、「その会社にとって魅力的な」自分のアピールポイントを箇条書きにしたほうがいい。

間違っちゃいけないのは、「自分のアピールポイント」ではないことだ。
あくまで、「会社が求めているもの」のうち、あなたが充たすことができるポイントだ。

よく、チームプレイヤーだとか、経験が10年あるとか書いてあることが多いけれど、あなたが応募するにあたり、そんなごく一般的なアピールポイントしかないのなら、おそらく合格しないだろう。

それよりも、例えば応募する会社と共通する環境で(多国籍企業でいろんな国のひととのコーディネーションをしたことがある、とか、逆にものすごい小さな会社で自分の専門以外の事も幅広くやらなくちゃいけない環境を経験しているとか)成功したエピソードを訴えたほうがいい。

そう言ったアピールポイントを、全部カバーレターに書いて、履歴書は時系列にこれまでの会社名と役割だけなんてひとがいる。

残念。実は、たいていの採用システムでは、カバーレターと履歴書は2つの別のファイルとしてデータベースに保存される。
だから私のようにカバーレターは読まない、というひとに当たると、カバーレターに費やした努力は完全に無駄になる。
カバーレターは読まなくても、履歴書はぜったい1回は人事が目を通す。
採用マネージャまでいった時、必ず読まれるのも履歴書の方だ。

だから、アピールポイントは履歴書にいれたほうがいい。

じゃあカバーレターはいらないのか。
最近のネット応募だと必要ない場合も多い。
でも、もし履歴書をメールするのなら、人事には昔気質にカバーレター好きな人が多い印象なので、つけたほうがいいと思う。
その内容は、履歴書の一番上のアピールポイントと同じでいい。

大事なことは2回いいます、だもの。

気になった企業には自分からコンタクトを取る

転職サイトやLinkedInなどをみていると、あ、この会社いいなあ。でも、私の職種に関しては募集がないのか…ということがあるだろう。

その場合は、代表のメールアドレスや、別の募集にある人事のコンタクト先に履歴書を送っていいと思う。

人事のところに自分からアピールにきた場合、とりあえずそのエリアの部門長のところに履歴書が送られてくることが多いからだ。

もちろん、募集がないということは、予算がない、あるいはニーズがないわけで、チャンスは低い。

でも、もしそこから半年後などにニーズが出たら?

おそらく採用マネージャは「あ、そういえば、あのとき履歴書送ってきてたひといたよね」と人事に連絡してもらうようにいうだろう。

当然ながら、それは履歴書が魅力的なものである場合に限るけれど。

チャンスは、自分でつくるものなのだ。

「途中、2次面接の後で、2週間くらいあいだが開いたじゃないですか。あの時はやっぱり駄目だったのかなと思って」

若きインターンがいった。

「そうなの。あのときは、すでに応募してきた中から5人の候補がみつかったから、募集をクローズしてねって頼んだのに、人事がポカしてサイトを閉じてなかったの。だからさらに100通くらいの応募が来ちゃって」

私は答えた。
機会の平等が私の採用ポリシーだから、その追加の履歴書を読み終わるまですでに進んでいた候補者の面接をスローダウンしてもらったの。

「私は、でも、インタビューの後すごくここで働きたいなと思ったので、つい人事に連絡しちゃったんですけど」

その通りなのだ。
私は採用活動というのは、お見合いだ。応募者と募集企業がマッチしなくてはならない。
企業が一方的に選ぶわけじゃない。応募者だって、インタビューの中身から、その会社が本当に自分の目的に合っている会社なのかを探って、そして判断するものだ。

特に、ヘッドハンターを使った採用の場合、オファーを出した後で断られることも普通にある。
採用側はそんなもんだと知っている。

だからこそ、あなたがその会社を気に入ったなら、
そのことを人事に伝えたほうがいい。

「うん、そのくらい進捗を気にしてるんだってポジティブに受け取ってたから大丈夫よ」

スキだといわれて、嫌な気持ちがするニンゲンがいないように。
スキだといわれて、嫌な会社もないのだから。

チャンスは、自分でつくるものなのだ。

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