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「サービスの引き算」されてませんか?

・知らず知らずのうちに、レストランであまり良くない席に案内されている
・海外のブランド店でお目当ての品を「品切れです」と出してもらえない
・ホテルで案内されるお部屋が低層階ばかり

こういう人、一定数存在しませんか?


片や、

・レストランではいつもいい席を案内してもらえる
・海外のブランド店で買い物するとシャンパンでもてなされる
・お部屋は特にリクエストしてなくても景色のいい部屋だったり、アップグレードしてもらえる

というような人も世の中には存在するのです。


お金持ちだから好待遇なんじゃないか――答えはそう単純ではありません。

この差はどうして生まれるのでしょうか?


私は日頃ふてぶてしく過ごしているわりに、ナゼだか割と後者の、旅先でラッキーなことが多い部類の人間なのですが、未だにこうしたナゾに対して「これ!」という答えはズバリとは出ておりません。

けれども、「もしかすると、こういうことかな?」と思う仮説はあります。


医療には平等が求められますが、医師も人間です。そのため正直、目の前にした患者さんの応対によって、「この人には一歩踏み込んで治療してあげたい」という気持ちが思わず湧いてくるようなときがあると思います。

そういったことをイメージするとわかりやすいでしょうか。


「あらゆる場面で引き算されてしまう人」にならないためにはどうしたらいいのか

この機会にちょっと考えてみようではないですか。




旅好き医師として気をつけている3つのこと

「患者さんにされて嫌なことを、外ではしない」

私は日々の臨床からヒントを得て、旅先で以下のことを心がけています。

  1. お金を支払った「その先」を意識し、素晴らしいサービスに対しお金を払うことを渋らない

  2. サービスしていただく相手にきちんと敬意を払う

  3. 相手にプロ意識がない、ということが判明したら、毅然と、理路整然とクレームを入れる


一つ一つ、考察して参りましょう。


「お金の流れ」を理解している客でありたい

サービスを受けるにあたり、お金を払う、これだけ言うと当然のことなのですけれども、私が考えるのは「払った先に、そのお金がどこに行くのか」ということです。

サービスを利用するにあたり、支払った代金というのは、従業員の給料に繋がります。

さらにその給料の先、報酬を手にした従業員はまた他のサービスを利用して、家族を楽しませるかもしれないわけです。
あるいは、美味しいものを食べて「自分へのご褒美」とするかもしれない。いずれにせよ、こうしてお金は巡り巡っていくわけです。


もし今より給料が大幅に下がるとしたら、今のお仕事、続けますか? 
続けるにしても同じモチベーションは保てますか?


同じ質問を医師に投げかけるとすると、

開業医の先生方、もしご自身の取り分(診療報酬や年商ではなく)が、勤務医、さらにはバイト医以下の報酬になったとしてもクリニックは続けますか?
(言い方乱暴ですが、私のバイト医目線&「起業する」感覚からすると、アルバイトや勤務医以上の稼ぎを、ということで開業されるケースが多いかと思っておりますもので、そのあたりはご容赦ください。)

勤務医の先生方、報酬や福利厚生が手厚い病院と、「とにかく安い賃金で多くの利益を出せ」という病院だったらどちらを希望されますか?

となりますか。


似たようなことが、我々の利用する他の全てのto Cサービスで起こりうるわけです。決して他人ごとにしたくないんですね。


高級ホテルや高級レストランなど、求められるサービスのレベルが高ければ高くなるほど、他に代わりがきかないものであればあるほど、スタッフの報酬というのは高額になって然るべきなのです。ゆえに高級ホテルの宿泊代金が上がるのは当然なわけです。

しかし、当たり前の話なのに、必ずしも当たり前とはいえない状況があります。


マイルやホテルポイントを筆頭に「顧客がお金を使わず」とも、優遇されるような「抜け道」「テクニック」、それはそれは、ホテルや航空会社が実際に聞いたら全くありがたく思わないだろう情報が横行しているのです。

確かにこのような制度があるのだから利用しても罪ではありません。――しかし私はサービス提供者側の利益を考えて、多少の額であれば「利用するサービス施設」に対し確実にお金が入る手段を優先し、いざ払うとなれば惜しみなく、お金を払うように心がけています。




「お客様は神様です」は客ではなく、サービスする側が言うことである

「俺は客なんだぞ」

これ、サービスする側が一番萎える文言です。


良いサービスというのは「サービスしろしろ」とゴリ押しして引き出せるものでは、ありません。


映画『マスカレード・ホテル』で「ホテルにルールなぞ、存在しません。お客様がルールです」といった趣旨の表現が出てくるのですが、これはあくまでホテル側が言うからこそであって、客がそれを言ってはいかんのではと思うのです。


私の専門は形成外科であるわけなのですが、そもそも喋り方が接客口調ではないゆえ、はなから美容医療には関わらず、「いや、そう言ったって、7割は国から、我々の税金から出るんですからね」という「口上」(実際には口には出さないですけどね)を武器にできる保険診療というものに活路を見出しております。

患者さんが10割負担する自由診療ともなりますと「このノリじゃまずダメだろう」とかねがね思っておるのですが、
いくらなんだって、「私がお金を払ってるんだから、なんだって私のやりたいようにしなさいよ」みたいなお客様、もとい、患者様相手にモチベーションは上がるものなのでしょうか。(自分は上がる気がしないので、自由診療に関わるのは最小限にしようかと思っているのですけれども…)


これ、こうも書いておりますと、高級ホテルやクリニックでの話以前に人として当たり前のことではないかとも思うのですが、でも実際は忘れてしまっている人が多いような気がいたします。

なので、試しにそこを少しでも考えてスタッフに接してみるのです。すると、彼らの態度、顔つき、変わってくる気がするのですよね。


もちろん、金銭のやり取りが発生しています。ゆえに私は、同じ人間同士とはいえ、ビジネスの延長上の関係として、相手の立場を考えたうえで、こちらがどう出れば、相手が自分に「より良くしてさしあげたい」と思ってくださるものか、そのように考えてサービスを受けるようにしています。


マナー上手になれる!賢いクレーム術

かつて、飛鳥IIのイケメン船長は「100人いたら100人全員に満足いただけるクルーズを!」と意気込みを語っておられましたが、まあ、あれは、イケメンだからこそ絵になるセリフという説もあり(笑)

今までの話の展開からすると「それはサービスする側が言うことであって、客の我々が言うことではない」ともなるわけなのですが、現実には100人中100人を満足させることは、難しいわけです。

不幸にして、満足いくサービスが受けられなかった場合、
「相手にもプラスになるクレーム」を心がけています。


クレームの主たる原因は

  • お客さんに対して良かれと思った行為が、結局裏目に出てしまった

  • そもそもプロ意識が足りない

この2点。


まず一息ついて状況を客観分析!

感情のままに怒るのは大人としてあるまじき行為です。患者さんに感情の赴くまま怒鳴られても建設的な議論にならないのと一緒ですよね。

「クレーム」は「いちゃもん」とは違います。
単に駄々をこねているだけ、とならないようにせねばなりません。
変な形でクレームを入れることで、逆に「ブラックリスト客」となってしまっては元も子もありません。こちらの非はなるべくないようにしたいわけです。

まず頭がカッとしている時、衝動的にクレームを入れるのは避けます。
その上で、客観的に、自分がモヤモヤしている内容を頭の中で、場合によっては書き出してみるなどして整理します。
なるべく冷静になった時の自分の判断、あるいは同行の友人などの意見も取り入れて、内容がクレームを入れのるに妥当か、ひと息入れて判断するようにしています。

私がとる作戦としては、このサービスのため、そして他のお客さんのために、どういう申し立てをすれば良い結果が得られるか、ということを念頭に置きながらクレーム内容を考えるということです。
せっかくですから、サービスする側も、客の我々もWIN-WINとなるようなクレームを入れるに越したことはありません。


施設側にも有益な情報を盛り込むのが◎

高級ホテルなど、きちんとした施設であればあるほど、お客さんを不快な気分にさせることを望むスタッフはいません。しかも立場が上になればなるほど、そうです。

上に立つ者として、部下に目を光らせる、当然のことですが、大きな施設にもなってくれば、なかなか全てを把握することはできません。

そんな時、お客さんから、自分の知らないところで、自分の部下による振る舞いで「不快に感じてしまった」という情報を頂けたら、それは迷惑なことでしょうか?
プロ意識が高ければ高いほど、そんな風には思わないのではないでしょうか。
むしろ、とてもありがたい情報だと感謝すらされるはずです。

相手方にそのような情報をきちんと把握してもらえれば、その後、他のお客さんが同じことで不快な目に遭うこともなくなります。

ということで、なるべく上の立場の方に、その施設や他のお客様に有益と思われる情報をお知らせする、これが、いつも私が心がけていることです。


できるだけ立場が上の人間にクレームが届くように!

どれくらい上の立場か、というと、クリニックにクレームを入れる時、クレームが入る時をイメージしていただければ良いかと思うのですけれども、やっぱりその時間帯の責任者クラス、クリニックだと事務長か院長、ホテルなどでいうと支配人クラスがよろしいですね。やはり責任が大きくて、その施設全体を良くしなくてはいけない立場の方。

実は、つい最近、東京都内のとある一流ホテルに電話でクレームを入れる事態が起きたのですが、その時も、電話のオペレーターが、こちらが何も言わずとも、「責任者にお繋ぎします」という対応をされたんですよね。やはりそれが一番手っ取り早い方法なのだというのが、ホテル側もわかっているのですよね。

責任者クラスにクレームを入れるということは、きちんとした応対をしていただける、という目的はもちろんなのですが、実はクレーム自体はきっかけに過ぎず、さまざまな分野のプロでトップの方と見解をシェアできる、という側面もあります。

あと、お部屋に置いてある、紙の「お客様アンケート」、あれ実は総支配人が直接見る可能性が高いものでして、そこにクレームを記入するという方法も有益な手段となる場合があります。

私がクレームを入れるサービス施設は、どうしてもホテルや旅館が多いのですが、ホテル側の、非常にビジネススキルの高い方とお話することで、結果としてクレームの内容以上にいろいろと気づかされることが多いです。逆に自分が勉強させられることもあります。


とある旅館のサービスに対して、ご意見を申し上げたところ、なんとチェックアウト後5日くらいして、総支配人から直々のお電話が入った、なんてこともありました。

事態を十分理解したうえでの謝罪のお電話でした。

5分ほど、お話させていただきました。
滞在中に従業員がことの重大さを認識していなかった、何かあった際の報告体制もしっかりせねば、といったことや、
そんなことばかりやってると、その地域にいらっしゃるお客様が離れていってしまうので、これをもとにきちんと立て直さないと、など、
こちらもお勉強になる建設的なお話が沢山できました。

通常、宿泊施設の総支配人クラスにこうしてお時間を頂けることなぞ、滅多にございません。大変有意義な時間となりました。


さらにびっくりしたのが、後日、総支配人から直筆(しかも毛筆!)で手紙と宿のある地域の名産品であるお菓子の詰め合わせが届いたこと!
(一応言っておきますけど、自分はこれを目当てにクレームを入れたわけではありませんからね笑)

失敗はどなたにもあります。そこをどう立て直すか、こうなってくると楽しみというもの。もうここはリピートしないな、と考えていたところから一転、また機会があったらどう変わっているか、訪れて確認したいと思える宿となりました。


相手から相応の対応をしてもらえない場合は「潔くあきらめる」

誠意のある対応をしていただける一方、「少数派のクレーム」に対しては「もみ消しにかかる」、と言いますか、トップには伝えず、マニュアル通りの謝罪だけして「ハイ終了」、という施設も存在します。(高級ホテルであっても、です)


何を隠そう、この私自身が勤務先で「少数派の私が嫌いな層」からクレームを受ける常連でございまして笑

ですが、過去の上司達は皆揃って

「これは先生が男性だったら受けないクレームだから」「1000人に1人の意見をいちいち真に受ける必要はない。私が聞いている限り、先生の診察態度に問題のある点は見当たらない。この調子でハッキリとした物言いは続けたらいい」

という方針をとって下さるため、今尚、未対策でございます。


ブログを始めたことをきっかけに、さまざまな個人事業主の方とお話しする機会があるのですが、先日クレーム対応について、情報をシェアする機会があり、個人でお仕事となると、対応できる時間も限られるため、やはりこういう戦略に同意される方、ちらほら見受けられました。


なものでこれも「施設の戦略の一つ」。


こうした施設に時間と労力を使うだけ無駄だな、と思いますので、「ここは人の意見を聞く気がないな」と思ったら、潔くそれっきりにさせていただいております。

その施設に払ったお金は「授業料」として考えるということで。


なあに「私のブログに取り上げられない」ことが、「その施設にとってかなりの痛手」となる――その地位に自分のブログを持っていけばいいだけの話じゃございませんか。

そこに時間を費やした方がよほど有意義な時間を過ごせるというものです。


いくら相手から受けた「仕打ち」を理不尽に感じても、相手以下に身を落としたら終わりです。この心構えは、なにも高級なホテルやレストランだけでなく、我々が携わる医療などあらゆる場面において共通してくるもの。思い切って申し出てみた結果、相手から予想以上の「反響」があった時というのは、本当に有意義なものです。


サービスを受ける上での「真のマナー」

然るべき対価を払ったうえで、彼らのサービスにきちんと敬意を示すこと、それこそが、サービスを受ける上での「真のマナー」だと思います。

高級ホテルやレストランのマナー、調べるとたくさん出てくるのですが、これが一番大切な部分であり、一番語られない部分、かつ、これこそが全てではないでしょうか。

そして、この心構えは、なにも高級ホテルだけでなく、我々が携わる医療を含むあらゆる場面において共通して必要なのではないかと思うのです。

自分以上に他の方のためを考えた行為、それは巡り巡ってちゃんと自分に還ってくるものです。

患者さんにされて嫌なことは、他の人にはしない。私は自分自身にそういい聞かせて毎回旅に臨んでいます。

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