"21ジャンプストリート"で学ぶ『ミランダ警告』
映画で学ぶ教養シリーズ。
今回のテーマは『ミランダ警告』です。
アメリカの映画やドラマで被疑者を逮捕する時の「あなたには黙秘権がある・・・」ってやつです。
いったいこれは何なのでしょうか。
映画紹介
概要
『21 ジャンプ ストリート』は、フィル・ロードとクリストファー・ミラーが実写監督デビュー作として監督し、ジョナ・ヒルとマイケル・バコールが脚本を書いた2012 年のアメリカのバディコップ・アクション・コメディ映画です。
スティーブン・J・キャネルとパトリック・ハスバーグによる1987年から1991年の同名のテレビシリーズのリメイクで、主演はジョナ・ヒルとチャニング・テイタム。ちなみに、テレビ版にではジョニー・デップが出演しており、これが出世作にもなりました。
あらすじ
シュミット(ジョナ・ヒル)とジェンコ(チャニング・テイタム)は新人警察官。
ある高校で合成麻薬が出回っていることから、その売人を逮捕するために高校生のふりをして高校に潜入する任務を与えられた。
監督はなんとあのフィル・ロードとクリストファー・ミラー
フィル・ロードとクリストファー・ミラーといえば、『くもりときどきミートボール』(2009年)、『LEGO ムービー』(2014年)といったアニメーション映画の監督・脚本で知られているほか、二人がプロデューサーを務め、フィル・ロードが共同脚本に参加した『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)でアカデミー長編アニメ映画賞を受賞しています。
ライアン・ゴズリング主演『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026年公開予定)の監督にも就任していて、今最もアツい監督の二人組です。
作中での『ミランダ警告』
シュミット(ジョナ・ヒル)とジェンコ(チャニング・テイタム)は新人警官としてパトロールをしていた時に、偶然、麻薬取引の現場に遭遇します。
手柄を立てようと二人は被疑者を追いかけまわし、ドタバタしながらもどうにか逮捕に至りました。
しかし、ジェンコはおバカさんなので『ミランダ警告』を暗記できておらず、逮捕時にこの警告を正しく読み上げませんでした。
その結果、被疑者は不起訴になりました。
被疑者の権利を守るための告知
『ミランダ警告』の内容
アメリカにおいては、身体の拘束下にある被疑者に尋問を行う際、次の事項を告知しなければいけません。
要するに、「警察はあなたに自白を強要できませんよ。自分に不利な発言はしなくていいですよ。(逆に自白をしたら有罪の証拠になるぞ。)」ってことを言っています。
『ミランダ警告』なしに逮捕しても起訴できない!?
ミランダの権利(ミランダライツ)を告知しなかったために起訴できないというのは事実です。
ミランダ警告の名前の由来となったのはエルネスト・アルトゥーロ・ミランダという男。彼は複数の罪状により警察に逮捕されましたが、逮捕および裁判中に憲法修正第 5 条および第 6 条の権利が侵害されたと主張しました。
合衆国憲法 修正第5条
だれも、大陪審の告発または起訴によるのでなければ、全ての重罪に対して拘束され、責任を問われてはならない。ただし、戦時下や公衆に危険が及んでいる場合の陸海軍や州兵は例外である。
そしてまた、だれも同一の罪について二度裁かれ、生命、その他を危険にさらすことはない。
まただれも刑事事件において、自己に不利な供述を強制されない。
また正当な法の手続きがなければ、生命、自由または財産を奪われることはない。
また正当な賠償なしに、公共の用途のために私有財産を奪われることはない。
合衆国憲法 修正第6条
すべての刑事訴追において、被告人は、犯罪が行われた州や地区の、あらかじめ法律で定められた公平な陪審員による迅速な公開の裁判を受ける権利を有する。そして、被告人は、訴追の性質と原因を告知される権利を有する。それは自己に不利益な証人に異議を申し立てる権利であり、自 己に有利な証人を強制的な令状により召還してもらう権利である。さらに、弁護のために弁護士の助けを借りる権利を有する。
彼の主張はミランダVSアリゾナ裁判として世間の注目を浴びました。その結果、1966年6月13日、最高裁判所は5対4でミランダに有利な判決を下し、ミランダの有罪判決を覆し、再審理のために訴訟をアリゾナに差し戻すことになりました。
判決では次のように述べられています。
拘留されている人は、取り調べの前に、自分には黙秘する権利があること、そしてその人の発言はすべて法廷でその人に対して不利に利用されることを明確に知らされなければなりません。その人には、弁護士に相談する権利があり、取り調べの際にその弁護士に同席してもらう権利があること、また、本人が困窮している場合には、代理人として弁護士が無料で提供されることを明確に知らされなければならない。
上記の裁判の結果、『ミランダ警告』は取り調べの時に必ず確認することとなりましたが、実際は逮捕時に読み上げられることが多いです。
自分を守る権利を放棄する人々
警察官は次の質問により、被疑者が自らを守るための権利について正しく認識していることを確認しなければなりません。
質問 1: 私が説明したこれらの権利をそれぞれ理解しましたか?
質問 2: これらの権利を念頭に置いて、今すぐ私たちと話してみませんか?
上記の質問の両方に「はい」と回答すると、権利が放棄されます。
容疑者が最初の質問に「いいえ」と答えた場合、警察官はミランダ警告を読み直す必要があるが、2番目の質問に「いいえ」と答えた場合はその瞬間に権利が発動されます。いずれの場合も、取調べ官は権利が放棄されるまで被疑者を尋問することはできません。
こう聞くとなかなかに強力な権利ですね。
しかし、この権利を放棄する人は80%に上るという調査結果があり、その割合は犯罪者は73%、無実の人は84%です。
すなわち、無実の人は”自分は無実だから話せば分かってもらえる”と考えて、権利を放棄してしまうことがあります。そして、ひとたび取り調べが開始すると、多くの場合、被疑者の予想は裏切られることになります。すなわち、耐えがたい尋問が延々と続き、やってもいない罪を認めてしまうということも起きてしまいます。
映画なんかでよく出てくる、「弁護士が来るまでは何も話さない」という悪者は実は何も間違っていないし、それが正しい行動ということが分かりますね。
まとめ
今回は『ミランダ警告』について語りました。
アメリカの映画やドラマでおなじみになった文言ですが、この規則を導入した当初は警察の業務に不利益をもたらすという反対意見もありました。しかし、それでも根気強く続けていくことで今ではすっかり定着しました。
犯罪の被疑者であっても、自己を守るための権利をしっかりと確保するという考え方は実にアメリカ的で流石ですね。
1960年代というと今ほどの人権意識はないと思います。同時代の日本では袴田事件(1966年)などもあり、警察の脅迫的な尋問による自白はまだまだ多かったと想像します。
アメリカは色々な場面でダブルスタンダードを持ち合わせていますが、こういったフェアネスに関する意識は素直に感心します。
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