【第1話】出会いは、偶然のマッチングから
メッセージのやりとりだけで、誰かのことを好きになる。
そんなことあり得る話なんでしょうか。
アリエールでしょう。
これは出会い系アプリで知り合い、はじめは「誰とも付き合うつもりはない」と一線を引かれ、一度は友達すらもやめようとした男2人が東京で出会い、遠距離恋愛を始めるに至ったノンフィクションストーリーである。
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”男同士がリアルを求める出会い系アプリ”
”そこにはどんな人たちがいるのだろう・・・?”
最初はダウンロードするのも躊躇した。だが僕のなかで卑猥なイメージしかなかったその世界は、想像してたよりも決して悪いことばかりではなかった。
ただ”なぜ僕はこのアプリに興味を持ったのか”。そのこと自体がそもそもオカシな話だと思われそうだし、自分でも正直よくわからん…。なぜこんなことになった?誰か教えてくれ。
noteを公開するたび脇汗がヤバい吾輩である。
ただ、きっと、寂しかったのだ。自分自身ののセクシュアリティにモヤモヤしていたし、相談できる相手もいなかったから。だから「ここならもしかすると僕のことを理解してくれる人がいるんじゃないか」と心のどこかで期待してしまったのだと思う。
そして画面上で出会った同性の人とメッセージを送りあった。僕の写真を見て、メッセージを送ってきてくれる人も何人かいて、自分に自信がなかった僕は「物好きもいるもんだな」となぜか上から目線だが、いるもんなんだなと思った。
そうしたなかである日、一人の男性とマッチングして、意気投合した。それが後に遠距離で付き合うことになる彼だ。
彼は同年代の人で、背丈も体重も僕とまんま一緒で、たったそれだけのことでなんとなく運命を感じて、何気なく僕からメッセージを送ってみた。すると、すぐに返事が返ってきた。たいていの人達は
・すぐにリアルしたがる(「今すぐ会いたい」など)
・返事が返ってくるのが半日後、もしくは翌日
ような人達ばかりだったりする。近場じゃないと相手にすらされない。そんな世界だったりするのだ。(もちろん遠方だろうと関係なく繋がりたくてただチャットを楽しんでる人もいる。)
だが彼は東京に住んでいて、距離もだいぶ離れているにも関わらず、相手にしてくれた。そして、すごいことに最近の出会い系アプリは一回連絡をした相手とはLINEみたいに電話で話せちゃうサービスまでついていて、ついには電話でやりとりをするまでの仲になった。
そうし僕のなかで彼への気持ちが膨らみ、気づけば特別な存在になっていた。
彼と会話をしているときは、他の人とは違い気兼ねなく話すことができて、声を聞くだけでいつも安心できた。どんな他愛のない話も下らない冗談を言って返してくれたりとか、しょうもない悩みを真剣に聞いてくれたりとか。
気が強そうに見えて実は恥ずかしがり屋なところとか。
なんとなくマイナスなイメージしかなかったゲイの世界も、彼との出会いをきっかけに、繊細な心を持っていて優しい人で溢れているのだと知った。
「こっぺ」という僕のニックネームも、実は彼が名付けてくれたものだ。最初は正直このネーミングもあまり好きになれなかったが、最近はむしろ愛着がついてニックネームにも使わせてもらっている。
そして毎日会話をするなかで、次第に彼に会ってみたいと思うようになった。
だが彼は、いつも「誰とも今付き合うことを考えてない」と僕に一線を引いてきた。
その理由については、また話せるときが来たらいつか話そうと思う。
***
2020年10月26日。
僕は彼と東京で会う約束をしていた。
しかし、会う10日ほど前になって僕は「だれとも恋愛するつもりがないんだったら会う意味がないし、もうしんどいからやりとりもしたくない」的な文面を不安なあまり彼にぶつけてしまったことがあった。今思えば、自分でもビックリするほど独占欲の強いメッセージを送っていたなと思う。
ただ僕も年齢的に焦っていた部分はあった。30歳を過ぎてから恋愛をしようものなら相手にしてくれる人も限られてくるから。だから彼から一線を引かれたときは、心底「僕は恋愛とは無縁な人間なんだな」と絶望すら感じてた。
「やりとりしたくない」
そんなことを言えば彼を困らせられるんじゃないか。振り向いてくれるんじゃないか。そう思って駆け引きをした僕は、ズルいな。もはや今の僕なら片想いをしている全女子の乙女心もわかってあげられる気がする。
だが彼から「こっぺに苦しい思いをさせてるなら俺もつらいから」とメッセージが送られたきり、一日が経っても彼から連絡が来ることはなかった。
「僕だけが浮かれていたんだな」と次の日の仕事はまったく手がつかず、立ってることもままならなくて、一日中ぼーっとしていた。よくよく考えてみれば、所詮僕が恋をしていたのは文面や電話の声から伝わってくる優しさや無邪気さだけで、顔もよく知らない男の人だ。
きっとすぐ諦めがつく。すぐに忘れられる。そう思い込むことで自分を納得させようとした。
…絶対後悔すると思った。
友達のままでいいから繋がっていたかった。失って初めて大切なことに気づくことがあるというが、本当だ。自分の気持ちに素直になれず大切なご縁を切って後悔してきたこと、今まで何度あっただろうか。
今のままの僕じゃ結局今までと何も変わらない。
”後悔するとわかってるなら、もういっそ全力で当たって砕けよう。”
そう思い、もう一度LINEのメッセージを送ってみようと、書いては消してを繰り返すこと小一時間、やっとの思いで書いた文章は熱量のあまりすこし長文になってしまった。
僕はなんて勝手でワガママな人間なんだろう。もしかすると、もうブロックされているかもしれない。
書いた内容ははっきり覚えていないが「ごめんなさい」「友達でいてほしい」といったことだったと思う。ただ指先を震わせながら「えいっ」と送信ボタンを押すのに何分も躊躇った記憶だけはある。
しかし、夕方に送ったメッセージは夜21時をまわってもなかなか”既読”がついてくれなかった。「やっぱりブロックされたんだ…」とそこでようやく諦めがついたと同時に、「はぁ…」とため息をついて涙が込み上がった。
するとその瞬間、一通のメッセージが届いた。
パッと画面に目をやると、彼からの返信だった。
仕事中にも関わらず、僕からのメッセージに気付いて急いで短文で返信をしてくれたみたいだった。そっか、仕事してただけか。なんだ。よかった、ブロックされてなくてよかった。
ずっと締め付けられるように苦しかった胸は一瞬にして解けた。
その後、彼と電話をしたときに、彼も一日気持ちが沈んでいたと話してくれた。申し訳ないと思う気持ちとは裏腹に、沈んでくれてたことに嬉しさを感じてた。たぶん、彼も僕との時間を失って、寂しさを感じてくれたのかもしれない。
そっか、そりゃそうだ。彼の言うとおり、僕も自分に自信がなかった。彼ともし会って嫌われたらどうしようとか、彼のことを好きになれなかったらどうしようとか。彼に期待させるようなことだけ言って失望させたらどうしようとか。ネガティブな方向に考えてしまっていた。起きてもいないことに不安になる性格は相変わらずだ。
ただ、それでも「会ってみてなんか違ったら違ったでしょうがないし、そのときは友達として仲良くすればいいじゃん?」と彼が言ってくれたから、当初予定してた日程のまま、彼がいる東京に新幹線に乗って会いにいった。
──次回、東京編。
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