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私は泥から生まれた。泥が形を取って生き物になったのが私だ。 泥の塊は手足を伸ばし目鼻…
登山道は整備されているが、登山者が多いわけではない。 山頂の少し手前に避難小屋があっ…
黒いセーターを着ていたのがまずかったのか。黒猫がセーターの中に吸い込まれるように消えた…
赤い月がずっとこちらを見ている。 夜歩くときに月はいつも出ている。 いつも月の色は赤…
雪に混じって、白い虫が空を舞う。 空から降ってくる雪の一片にしがみつき、一緒にくるく…
キスリングの絵を買う。画商に探してもらったキスリングの小品だ。 思わぬ大金を手に入れ…
一日ずっと曇り空で、日が暮れるときも夕焼けはなく、ただ衰えていくように空が暗くなっていくだけだった。視界から色彩が落ちていく、そういう夕暮れだった。 私は何か赤いものが幾つか並んで歩いていくのを見た。暗くて色が判らないと思っていたが、それが血をかぶったかのように赤い色をしていることは何故か判った。それは子供のようだった。子供の背丈の者が裏路地を進んでいる。 それは私に向かって歩いてきていた。近付くにしたがって、その姿がはっきり見えてきた。 全身真っ赤な色をした人影で、
実家の近くに溜池がある。森の際にあって、田んぼに水を引くためにあった。田んぼは住宅街の…
旦那様の一番を整えるのが私の仕事である。 私はこの家でメイドのようなことをやっている…
ガラガラという音がする。ちょうどキャスターの着いたバッグを道路で引き摺るときの音のよう…
ひどい風が吹くのが、もう数週間も続いている。 ガラス窓にはベニヤやダンボールが貼られ…
足の先から少しずつ、トカゲに変っていった。最初は足の爪の形が変ったことから始まった。 …
乗っている地下鉄の車両が、駅の間で停車した。 朝のラッシュの最中であればよくあること…
犬殺しの仮面の意匠は、湖に落ちる稲妻である。 老いた犬、病気や怪我を負った犬、不要になった犬を、犬殺しは殺す。そして可能であれば、殺した犬の肉は食肉として市場に卸す。 この町では犬は特別な生き物である。他の家畜と同様に人間の圏に属するものとして、他の動物とは一線を画した存在とされている。 人間の圏に属する動物には人の魂がある程度流れ込んでいるとされるが、犬にはとりわけ多くの人の魂が含まれているとされている。犬は人間の友であり、人の力の拡張であるが、経済的に使われるただ
