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プリンセス・クルセイド

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王子の結婚相手を決めるため、少女たちは剣を取る。剣と魔術で闘うファンタジーです。
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#メノウ

プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 エピローグ 【貴女に巡り逢うために】

 ――『その時』のことを、彼女はよく覚えていない。ただ、地獄の業火に焼かれるような熱さの中で泣き喚いていたことだけは、生まれて初めて見た悪夢のように脳裏に刻まれている。
 だからこそ、『彼』にその記憶の真実を告げられた時、彼女は大きな衝撃を受けた。
 しかし、言い知れぬ絶望に心を抉られる前に、彼女の脳裏にまったく別の感情が芽生えた。
 そもそも、何故そのようなことで絶望せねばならないのか。
 2つ

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】5

「太陽のプリンセス? 随分と大仰な通り名ね。それは自分でつけたの?」

「ウィガーリーより東に位置するマクスヤーデン。人呼んで太陽王国。わたくしはその国の麗しきプリンセス。故に、ですわ」

「ふふっ、おかしな方ね。普通の人は、自分のことを『麗しきプリンセス』などと呼ばないものよ」

「ヴァンパイア風情が何をおっしゃるやら……」

 タンザナと正面から睨み合い、舌戦を繰り広げながら、イキシアは思考を

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 4

「セヤーッ!」

 カーネリアはほとんど怒声じみた叫びと共に斬撃波を放った。刃から飛び出した細く短い光の筋が、空間を切り裂くようにしてタンザナへと襲い掛かる。

「ふんっ!」

 だがタンザナはこれを避けようとせず、逆にその豊満な胸を張るようにして正面から受け止めた。カーネリアの斬撃波が、彼女の身体に当たるとともに雲散霧消する。

「この程度の攻撃で――」

「ハーッ!」

 だがタンザナが勝ち誇

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 3

 その巨大な脚は踏みしめる度に大地を揺らし、暴力的な尾は振り回される度に風を鳴らす。そして一度口を開けば、灼熱の炎が天を焦がす。ドラゴンとはそのような生き物だと言い伝えられている。

「ギギャーッッ!!」

 その恐怖の化身、ドラゴンの叫びが、チャーミング・フィールド中にこだまし、アンバーの鼓膜を震わせる。ドラゴンの傍らでは、薄紫色の髪をした見目麗しいヴァンパイアが妖しく笑う。人々に原初的な恐怖を

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 2

「セヤーッ!」

 カーネリアが掛け声と共にロンダートの動きに入り、そのまま連続バック転でタンザナとの距離を詰めていく。やや間をおいて、剣を謹聴させる音がメノウのいる辺りから聞こえてきた。確かにそのはずであった。

「セイッ!」

 だが、タンザナが斬撃を受け止めたのはメノウが先だった。

「やあっ!」

 タンザナはそのままメノウを弾き飛ばし、カーネリアの繰り出すローリングソバットの射線上へと導

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 1

 アンバーが目を開くと、そこは見渡す限りの荒野であった。所々に台座じみた岩が立ち並び、風が吹けば砂が舞う。そんな荒廃が無限に続くかのような虚無の空間はしかし、彼女には馴れ親しんだ場所だった。

「貴女のチャーミング・フィールドですわね」

 突如聞こえてきた声に振り向くと、そこには優雅な茶髪の女性が立っていた。女性は腕を組みながら、不満げに言葉を続ける。

「相変わらず殺風景な眺めですこと。まあ、

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 6

  食卓に並べられた料理の数々が、次々とタンザナの口に吸い込まれていく。その光景は、食事というよりも純粋な摂食に近かった。野生の肉食動物は、獲物を捕獲した時に胃袋に入る限界まで肉を詰め込む。そうすることで、次の獲物を捉えるまでの日々を耐え忍ぶのだ。アンバーはさほど勉強熱心な生徒というわけではなかったが、今のタンザナの姿は彼女にその知識を呼び起こさせるのに十分な程、豪快かつ野性的であった。

「……

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 5

 リビングに備えられたソファに腰掛け、腕と足を組みながら、イキシアは静かに時が来るのを待っていた。隣のダイニングに併設されたキッチンからは、時折油の弾ける音と調理器具が重なる音が聞こえる。立ち込めてくる香りが鼻をくすぐり、食欲を刺激してくるが、イキシアは眉ひとつ動かさず、リズムを取るように指とつま先を僅かに動かすだけだ。

 テーブルを挟んで向かいに座るカーネリアは、微動だにせず押し黙っている。そ

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 4

 翌日、カーネリアは家屋の屋根の上を飛び回りながら、エアリッタの街を疾走していた。目標は姿を消しているタンザナだ。アンバーによれば、昨晩彼女は遅くに鍛冶屋を訪れ、今日の昼頃までは帰らないと告げて出ていったらしい。

(まったく、情けない……)

 カーネリアは己に腹を立てながら、家屋と家屋を隔てる通りを勢いよく飛び越えた。事態を揺るがすような出来事があったその夜、当の彼女は深い眠りについていた。慣

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 1

 ジュージューと音を立てる鉄板の上の肉を、タンザナが優雅に切り分け、次々と口に運んでいく。そうしてあっという間にステーキ1枚をたいらげた彼女の脇には、すでに山となった鉄板が積まれている。

「……凄まじいペースですね」

 それを隣で見ていたメノウは、その迫力に圧倒されたいた。

「そうですか? まあ、なにせお腹が空いていましたからね」

 だが当のタンザナはそんなメノウの反応など意にも介さず、ま

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #3 【目覚める脅威】 5

プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #3 【目覚める脅威】 5

「くっ……させるかあっ!」

 メノウはおよそ彼女らしからぬ叫びを上げながら鋭く剣を振り、斬撃波を放った。刃の先から細く長い光の筋が飛んでいく。

「グルアアッッ!!」

 だが大地を揺るがすようなマンティコアの叫びが、これを空中でかき消した。直後に繰り出される鋭利な爪での斬撃を、メノウは辛うじて前転で回避する。

「やはりダメか……ならば!」

 前転を終えると同時に、メノウは剣を謹聴させた。胸

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #3 【目覚める脅威】 4

プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #3 【目覚める脅威】 4

「やはり似ているな、あの屋敷に……」

 赤い絨毯が敷き詰められた広い廊下を歩きながら、メノウは静かに独りごちた。その景色は、彼女がアンバーの奪還に向かった屋敷のそれに明らかに酷似していた。

「チャーミング・フィールドは心の中の現れだという話だが……なぜ彼女がこの屋敷を? 何か関係があるのだろうか……」

 そこまで考えてから、メノウは自らを顧みた。彼女のチャーミング・フィールドは月夜の草原だが

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #3 【目覚める脅威】 3

プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #3 【目覚める脅威】 3

 うららかな日差しの下、タンザナは鍛冶屋の軒先に出て大きく伸びをした。

「ふう~、やはり朝の太陽は心地よさが違いますね」

 感慨深げな声を漏らしながら、タンザナは空を見上げる。

「それにしても、今朝の太陽は随分と高いところから昇ったのですね。まるでもうお昼かのようです」

「――実際に昼ですわよ!」

 胡乱な発言を聞き咎め、付近の隣の仕立て屋の陰からイキシアが叫んだ。

「何が朝の太陽です

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #1 【鍛冶屋の娘と王子様】 5

プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #1 【鍛冶屋の娘と王子様】 5

 夜遅く、穏やかに寝静まる街を見下ろしながら、アンバーは自室のベランダから月を眺めていた。満月が近いのか、月はもうかなり丸くなっていた。だが今の彼女に、そのような詫び錆びを考える余裕はない。

(王子様か……)

 ベランダの手すりに寄りかかりながら静かに目を閉じ、城での食事やダンスのことを思い出す。特にあのダンスだ。優しく、しかし決然とした足取りでアンバーを導く王子の姿は、国を背負って立つ人間の

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