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週一で更新されるファンタジー小説『プリンセス・クルセイド』と、ほぼ毎日一文ずつ更新される恋愛小説『一日一文』の2つの小説が連載されているアカウントです。さらに新連載も始めました。作者への連絡は oreryu3271show@yahoo.co.jp まで。

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  • プリンセス・クルセイド

    王子の結婚相手を決めるため、少女たちは剣を取る。剣と魔術で闘うファンタジーです。

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プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 3

 チャーミング・フィールドに降り立ったアンバーは、素早く周囲を見渡したのち、静かに息を吐いた。舞台のような岩場が所々に隆起するこの荒野は、彼女の勝手知ったるフィールドだ。まずは地の利を得たといったところか。近くの岩場の上を見ると、片膝を付くフローラの姿が見えた。用心深く辺りを伺う様子から、彼女がこのフィールドに慣れていないことが見てとれる。これ以上は望むべくもない優位な状況だ。 (とは言うものの……)  とは言うものの、こちらも相手の情報を持ってはいない。アンバーは注意深

    • プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 5

       フローラ・ダリア・ラングデイルといえば、イナアハム王国の厳格なプリンセスとして有名だ。自国の王位を継ぐ存在ではないものの、国家としての在り方、指導者としての理想に厳しく、忠実であった。そんな彼女が、闘いで一国の王子の結婚相手――将来の統治者を決めるプリンセス・クルセイドなるものを知ったらどうなるかーー答えは想像に難くない。 「ハイヤー!」  アンバーが剣を一閃すると、刃の先から太く長い光の束が放たれた。フローラは空中高く飛び上がり、この一撃をかわす。このチャーミング・フ

      • プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 4

        「さすがはフローラ姫。いかなる場合でも全力でいらっしゃる」  水晶玉に映る闘いの様子を見守りながら、ルチルが嘲笑混じりに呟いた。 「ですが普段よりも、どこか感情的に見えますわね。何か……思うことなどあるのでしょうか」 「普段よりも? 知ったような口をきくんじゃない」  呟きに乗じたイキシアが意見を述べると、ルチルは噛みつくように語気を強めた。 「私たちは、もう3年もまともな会話をしてないんだ。お互いにどんな感じ方でいるかなんて、知るはずもないだろう?」 「……そう

        • プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 2

           ソファに座ったフローラ王女がコーヒーを飲む姿を、アンバーは固唾を飲んで見守っていた。味の評価を気にしているのではない。気にしているのはただ一点、王女の腰に差された聖剣だ。 「......ごちそうさまでした。キララ、また腕を上げましたね」 「恐縮です、フローラ王女」  労いの直立不動の姿勢で立っていたキララが、恭しく頭を下げた。王女が飲むコーヒーは、彼女が淹れたものだ。 「フローラ、お久しぶりですわね。お元気でしたか?」 「変わりありません。歳が3つ増えただけです」

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        プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 3

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          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】1

          「ふう~っ、よかった。なんとか勝てた」  リビングのソファにもたれかかりながら、アンバーは天を仰いだ。 「薄氷の勝利……というよりは、ほとんどズルですわね。あのような力の使い方があったとは」  水晶に映る、牙のように歯が伸びたタンザナの姿を見て、イキシアが呆れたように呟いた。 「この女、ヴァンパイアだったのか? 実在していたとはな。面白いこともあるもんだ」  ルチルは都合5杯目のコーヒーを飲み干すと、満足げに笑った。 「あの、ルチル王女。タンザナさんは確かにヴァン

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】1

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】6

           眼下で変貌したタンザナの姿を目の当たりにしたインカローズは、突然身震いを覚え、反射的に剣を構えた。魔術がいかに感情的なアーツであり、このチャーミング・フィールドが人の精神的な面を映し出す場であろうとも、彼女の心はこの瞬間まで氷のように沈着冷静に研ぎ澄まされていた。  それなのにーーいや、だからこそ、彼女は己の中に沸き立つ原初的な恐怖に囚われかかっていた。ヴァンパイアなどとーー人の子の血を吸って生きる化け物などと、誰が信じるというのか。だが彼女が相対しているのは、正にそのヴ

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】6

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 5

          「ハアーッ!」  風を纏い宙に浮かぶインカローズが、地上のタンザナ目掛けて斬撃波を撃ち下ろした。 「くっ!」  タンザナはこれをバックスステップで躱し、間合いを取った後に斬撃波を撃ち返す。 「ヤーッ!」 「ふんっ!」  空中のインカローズは、薙ぎ払うように剣を一閃した。すると、剣から超自然の風が現れ、包むようにして斬撃波を飲み込んだ。 「はあっ!」  インカローズがもう一度剣を振ると、斬撃波を飲み込んだ風が大きく旋回し、逆にタンザナに向かって襲いかかっていった

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 5

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 4

          「やはりインカローズも来ていましたか……ということは、フローラも?」 「当然だ。お前にとっちゃ不運かもな」  ソファの隣に座るイキシアの問いかけに挑発的に答えると、ルチルは手に持ったマグカップの中のコーヒーを一気に飲み干し、カップを勢い良くコースターの上に置いた。 「お代わり持ってこい!」 「……ルチル王女……なんでそんなに堂々と居座ってるんですか」  ポットを持って立つアンバーが、ルチルの態度に口を尖らせた。 「イキシアとの闘いは終わったんですよね? お城に帰ら

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 4

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 3

          「なるほど」  チャーミング・フィールドに降り立ったタンザナは、周囲を確認すると静かに独りごちた。彼女の周りには、本棚の列が放射状に広がっていた。すべてを見渡せるわけではないが、おそらく相当な冊数の本が納められていることだろう。察するに、ここは図書館に違いない。 「しかし……先程までも図書館にいたはずでは? もしや……うっかりフィールドに入り損ねたとか?」 「そんなわけないでしょう?」  独り言に答える背後からの声を聞き、タンザナは素早く振り返った。すると、インカロー

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 3

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 2

           インカローズにとってウィガーリーの城の図書室といえば、ほとんど自分の別荘といっても差し支えなかった。収められている蔵書のラインナップに関しては、生半可な関係者よりも詳しい自信がある。あるいは城主のアキレア自身よりもーーそれは少し大袈裟か。  ともあれ、そのようなインカローズであったが、今回ばかりは読書が目的ではない。扉を開けて図書館へと入室した彼女は、まず静かに周囲を見渡し、目当てのものを探した。すると、円上に並べられた本棚の中心にある机を利用してで調べものをしている薄紫色

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 2

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 1

          「……そんな態度はもうよせ。いい加減に顔を上げてくれないか」  玉座に座るアキレア王子は、彼の前に恭しく頭を下げていた2人の姫君に半ばうんざりしたような声をかけた。 「王子、礼節というのは常に欠かしてはならないものです。それこそがが人の人たる由縁なのですから」  2人の姫君のうち長髪のほうが、頭を下げたまま毅然とした言葉で答えた。 「つまり、『親しき仲にも礼儀あり』ということですね。相変わらずフローラ姫は是々非々としていらっしゃる」  隣の短髪の姫が、これに同調する

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 1

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 4

           魚を穿つ銛のように聖剣を構えながら、ルチルは静かに海を潜行していた。聖剣の持つ水のエレメントの力で、彼女は空を飛ぶかのように水中を泳ぐことができる。加速に減速、旋回までもが思うままだ。それに対し、彼女を待ち構えるイキシアのほうはといえばーー (無様なものだな)  ルチルは思わず口角を上げた。彼女の視線の先には、手足を動かしながらなんとかしてその場に留まろうとするイキシアの姿があった。 (自分から潜っておきながら、随分と不便な思いをしているじゃないか……どうだ? 今なら

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 4

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 3

          「大丈夫かなあ……」  テーブルの上に置いた水晶玉を、アンバーは不安げに眺めていた。映し出されているのはイキシアのプリンセス・クルセイド。熾烈を極める海上での一戦だ。 「大丈夫ですよ、アンバーさん。姉さんに心配は無用です」  アンバーの向かいに座るジャスティンも、同じように水晶玉を覗き込んでいた。だがアンバーと違い、彼は余裕綽々としている。 「どうしてですか? このプリンセス……ルチルさんのことをイキシアに警告しにきたのはジャスティン王子じゃないですか?」  アンバ

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 3

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 2

          「ぶはっ!」  チャーミング・フィールドに飛び込んだイキシアは、波打つ水中からやっとの思いでその見目麗しい顔を上げた。その美しい茶髪の毛先から、大量の水敵が乱れ落ちる。 「うう……濡れ鼠ですわ」 「ハハハ、無様だな! イキシア・グリュックス!」  その姿を、フィールド内の手近な岩場の上からルチルが嘲笑った。 「水底まで沈んでしまなかったところを見ると、相変わらず泳ぎは達者なようだが、そのザマでは太陽のプリンセスも形無しだな。それともなにかい? これがホントの日没って

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 2

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 1

          「……もう一回言ってもらえますか?」  リビングに通した正体不明の来訪者2名を相手に、アンバーは警戒気味に尋ねた。 「えっと……どこからお話すればよいでしょうか?」 「最初からでお願いします」 「そ、そうですか……」  アンバーが有無を言わさず断言すると、来訪者の1人である少年はあからさまに困惑した表情を浮かべつつも、改めて話を始めた。 「えっと……突然お邪魔して申し訳ありません。私の名前はジャスティン・グリュックス。姉のイキシア・グリュックスがこちらでお世話にな

          プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#1 【波乱を呼ぶ来訪者】 1

          プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 エピローグ 【貴女に巡り逢うために】

           ――『その時』のことを、彼女はよく覚えていない。ただ、地獄の業火に焼かれるような熱さの中で泣き喚いていたことだけは、生まれて初めて見た悪夢のように脳裏に刻まれている。  だからこそ、『彼』にその記憶の真実を告げられた時、彼女は大きな衝撃を受けた。  しかし、言い知れぬ絶望に心を抉られる前に、彼女の脳裏にまったく別の感情が芽生えた。  そもそも、何故そのようなことで絶望せねばならないのか。  2つの相反する感情が渦巻くなか、彼女は後者を選んだ。彼女はそのような人間であった。『

          プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 エピローグ 【貴女に巡り逢うために】