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ヤン・ウェンリー暗殺事件の謎~ヤツらはどこから来たのか?

銀河英雄伝説の主人公の一人、ヤン・ウェンリーは第8巻にて物語から退場してしまいます。
その原因は、地球教というカルト宗教による暗殺というテロリズムでした。

作品内外において、屈指の人気キャラにして主人公のヤンが途中で死んでしまうというのはとても衝撃的なものがあります。

ですが、この暗殺劇はあまりに腑に落ちない疑問が存在し、納得できない点があり、一部読者から指摘されています。



暗殺事件の経緯

ヤンを暗殺したのは地球教ですが、正確に言うと実行者は『帝国軍に偽装した地球教徒』です。
この事件が発生する直前にヤンとその一党はラインハルトが率いる帝国軍と『回廊の戦い』と呼ばれる激戦を繰り広げていました。その後、一時休戦となってヤン達はイゼルローン要塞へ、帝国軍はイゼルローン回廊の外に引き上げています。

その後、ヤンはラインハルトと会見するために一隻だけで帝国軍の元へ向かいますが、途中でアンドリュー・フォークの武装船に襲われます。
直後に帝国の駆逐艦2隻がフォークを撃墜しますが、それこそが地球教徒の暗殺者たちが乗り込む本命でした。

事件現場となったのは、原作によるとイゼルローン回廊の同盟側出口近辺とされており、要塞と帝国軍の間に挟まれているのが分かります。


地球教&フォークはどこからやってきたのか?

この暗殺事件の最大の疑問――それは「地球教とフォークの宇宙船はどうやって帝国軍に気付かれずに回廊内に侵入できたのか」というものです。

フォークと地球教の船は要塞側から来たヤンとは反対方向、すなわち帝国軍が陣を張っている同盟領の方から現れています。

しかし、何故かこれらの宇宙船の動きは帝国軍では捕捉されていないのです。平時であれば監視する戦艦の数も少ないでしょうが、この時に布陣している帝国軍は10万隻以上、しかもラインハルトやその直属の有能な提督達が勢ぞろいしており、監視の目が緩いはずもありません。

実際、回廊決戦の直前には回廊の入口にヤンが機雷原を敷設したという動向を帝国軍は察知しています。
さらに、ヤンが暗殺された後には帝国軍の艦隊が侵入していた地球教の駆逐艦の片割れを捕捉・撃墜しています。地球教はイゼルローン側に逃げる訳にはいかないので、必然的に同盟領側に逃げれば帝国軍に見つかるのは当然です。

回廊決戦の後は、会見に訪れるであろうヤンが来るのを帝国軍は待っていたはずなので、なおさら回廊の入口に対して警戒を強めているのは当然です。
しかもこの時、帝国軍の内部ではヤンへの復讐心を燻ぶらせている下級兵士たちの暴発を抑えるため、なおさら緊張状態にありました。

……にもかかわらず、地球教とフォークは帝国軍に気付かれることもなく回廊に侵入を果たしています。これは明らかに不自然すぎます。

一応、この手の疑問に対しての反対意見は存在し、

  • 狭い回廊といっても宇宙は広いのだから、数隻くらいは見逃すだろう

  • 戦艦数隻程度なら封鎖線は辛うじてすり抜けられる

  • 帝国軍に紛れて監視していた地球教の船がわざとフォークを見逃し、何食わぬ顔で自分も侵入していった

特に三番目の意見は疑問に対する納得できるであろう答えにもなっています。
ですが、回廊への侵入者は偽装した帝国軍やフォーク以外にも存在し、それが新たなる疑問が生じることになりました。


親不孝号の謎

フォークがヤンを暗殺しようとしているという情報をイゼルローン要塞に残った人たちに伝えた人物がいます。
それがヤンの協力者、フェザーン商人のボリス・コーネフです。

ボリス一行が乗る宇宙船、親不孝号は帝国軍の警戒の網目を潜り抜けるばかりか、何とヤンが乗る巡航艦レダⅡとニアミスまでしてイゼルローン要塞の近くまで来ているのです。

地球教一派が暗躍によって回廊に侵入を果たせたなら、この親不孝号はどうやって侵入できたのかが疑問となります。
上記の一、二番目の意見通りならほんの一隻程度は見逃すし、警戒は掻い潜れる、ということで納得できるかもしれません。

ですが、そうなると帝国軍の警戒があまりにザル過ぎて不自然です。
元々、銀河帝国はラインハルトによる改革が行われても警備が杜撰な面が多く目立っていますが、重要なこの時期に回廊を出入りする宇宙船を一隻でも見逃してしまえば大問題です。

ましてや、帝国軍はヤンという重要人物を待っている状態です。本来なら蟻一匹でも見逃す訳にはいきません。

また、宇宙は広いから見逃すという意見ですが、実は今回の回廊の入口は通常とは違う特殊な状況になっており、侵入路が限られている事情があります。


機雷原の存在

上記の通り、回廊決戦の前にヤンは回廊の入口に機雷原を張って封鎖しています。
この機雷原はラインハルトが駆逐艦や指向性ゼッフル粒子を用いて除去を行い、全部で6か所に艦隊が通れるトンネル状の穴を作りました。

※実際は6か所の穴が開けられている

この機雷原が決戦直後も残っていた場合、回廊に侵入するには帝国軍が作った6つのトンネルを通るしかありません。
そうなると、帝国軍の監視はこの6つのポイントに限定されます。

親不孝号もこのいずれかのルートを通らなければ回廊には侵入できず、帝国軍の警戒網から外れるであろう回廊入り口の端っこなどからこっそり行くなんてことも不可能です。

ですが、そうなれば親不孝号は確実に帝国軍に見つかってしまいます。位置関係で、親不孝号は地球教やフォークより遥か先に回廊に侵入してレダⅡ号とニアミスまでしており、フォークをわざと侵入させた後に自らも侵入し、事実上がら空きとなるポイントから侵入できたなどという線は決してあり得ません。

では一体、どうやって親不孝号はこっそりと回廊に侵入できたのでしょう?


帝国軍も知らない裏ルートがあった?

現在連載中の藤崎竜版のコミックス版でも結局補完はされなかった本件ですが、一つの仮説が浮上していました。

作中では帝国領と同盟領の間にある航行不能宙域の中にイゼルローン回廊にフェザーン回廊とトンネル状の限られたルートが存在します。
これらの回廊は正式な航路として設定されていますが、「航路情報にない別のルートが存在するのでは?」という意見がありました。

つまり、航路情報には登録されてはいないが民間の、それこそ犯罪者やフェザーン商人といった裏事情に精通している者達の間でしか知られていない秘密のルートです。

その秘密の裏ルートを通ることができれば、回廊の入口で布陣する帝国軍を迂回して、回廊内に侵入を果たすことができます。

回廊同士を密かに繋ぐ秘密回廊

これは極端な例ですが、イゼルローン回廊とフェザーン回廊の間に宇宙船数隻しか通ることのできないとても小さな回廊があったとしても不思議ではありません。

そんな小さすぎる回廊など危険過ぎて普通は通る気にもならず、普通は見向きもされないでしょう。ですが、だからこそ秘匿性のある秘密の抜け道として使うことができるのです。

地球教はいわずもがな、フェザーン商人であるボリスも裏事情には通じているので、この仮説が事実であれば裏ルートの存在も知っているはずです。

と、なれば地球教もボリスも帝国軍に気付かれないようにイゼルローン回廊に侵入を果たすなら、この秘密の抜け道を使ったとすれば何も不自然はないのです。

藤崎竜版のコミックスではフェザーンの設定がかなり変わっており、フェザーン回廊自体が今まで同盟にも帝国にも知られていなかったということから、なおさらこの裏ルートがあったとしてもおかしくありません。

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