心臓が動いている

中学3年生時代の担任をふと思い出した。

私は学生時代(特に中学、高校)、先生とはなるべく距離を置いていた側の生徒であった。
思春期もあったと思うし、小学生の時にウマが合わなかった先生が居て、無理に距離を縮めるのを辞めておこうと思っていた。
今でこそ先生という職業を尊敬しているが、当時の私はあまり良い先生に出会った経験がなく、先生という存在がどこか苦手だったのだ。

だから、中学3年生の担任だって、全く仲が良くなかったし必要最低限しか話した記憶が無い。
明るくて子供に人気、というタイプでも無くて、どちらかというと「会社の先輩ならもう少し上手く話せたかも?」みたいな、忖度の無い落ち着いた男の先生だった。確か子供が生まれたばかりのパパだった気がする。

当時は興味が無いのであまり先生のことは詳しく無かったが、あとちょっとで大変なことになる怪我をしたことがあるとか、教師になる前の職業柄、昼食を食べるのが滅茶苦茶早かったのを覚えている。
身バレしないようにぼやぼや〜っと伏せたが、このエピソードで前の職業は絞られるものだろうか。大声で怒鳴るタイプでは無いのに、何故か生徒にも舐められず一目置かれていたのを覚えている。

先生は理科を担当していた。
中学3年生のカリキュラムをあまり覚えていないが、石や地震の授業をしたのはなんとなく覚えている。どうでも良いけど授業参観があって、私が問題を間違えた時に上手くアシストしてくれた記憶も朧げながらある。大人だ〜。
多分良い先生だったんだろうな。

ホクロが多いクラスメイトがいて、その子が「俺がこんなにホクロがいっぱいあるのは病気なんや。長生きできへんねん」と自虐で言ったのを「そんなこと冗談でも言ったらあかん」と本気で怒っていた。
私はその頃今では信じられない大人しさで、そして今よりもっと繊細だったので、先生が怒ってくれたことにホッとした。

また給食の時間、男子が同じグループの女子に「バカだバカだ」と言っているのを聞いて、先生が「お前の方が成績悪いぞ」と言って女子が笑っていたこともあった。
今の時代でもこれはギリギリ問題にはならないと思うのだが、男子側が結構人を見下すタイプだったので、これまた「先生なのにこんなハッキリいうことが出来るのか…」と感心した。
先生は多分中学生からすれば大人だったのだ。
高校ならもっと自然だったのかもしれない。
だから少し不思議な空気感だった。

先生はこんな感じで、突拍子もないことを時々言う。

多分、人間の体について授業をしていた時だったと思う。
心臓の役割について話をしていた時、先生が

「なんで心臓が止まらず動いてるのかって話になるけど、心臓なんて動いている方が不思議やと先生は思う」と言った。

先生は半分冗談のつもりで言ったのだろう。
その言葉は、かれこれ15年ほど経った今でも思い出すほどに強烈だった。
動いている方が不思議って、いつ止まってもおかしくないということだ。

私は大人になった今でもたまに、理由も無く死が怖くなる瞬間がある。
まだやりたいことが沢山あるからだ。
それと同時に、先生の言葉も思い出す。
そういえば、心臓は動いている方が不思議だって言ってたな。
それなら、やりたいことは今やっておかなきゃ、人間いつ死ぬか分からないしな、と。
心臓なんていつ止まってもおかしくない、という言葉は、どちらかというと前向きに消化され、今も何かを成す為のきっかけになることがある。
私は90歳まで生きたいので勿論心臓にも動き続けて欲しいけど、止まった時に後悔しないくらいには、やりたいことをやっていたい。

あの時の先生、今ならもう少し腹を割って話も出来る気がするのだが、出会ったのが中学生だったことが残念だ。
それにしても関わりがないと言っている私でさえこれだけ先生について話せるのだから、子ども時代にとって先生は、やはり大きな存在だったのだろう。

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