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今日の言の葉

931
その日、降りてきた言の葉を綴っています。あなたの良き日々に繋がれば幸いです。
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#詩

開きかけた扉を前に

開きかけた扉を前に

想いを素直に表現することが
いつのまにか難しくなっていた。
かっこつけてみたり
理解があるような姿勢で
相手との距離をはかっているつもりが
心の扉をほとんど閉じていた。
自分が何を感じて
何を想っているのか
それさえも見失いそうになれば
何を表現すればいいのか
わからなくなって当然。
扉を開くところから
はじめなければならないから
大人になるって
なんて面倒くさいのだろう。
それとも
閉じて、ふた

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人生のクライマックス

人生のクライマックス

春に目覚めた木々は
花を咲かせ
夏には勢いよく葉を茂らせました。
その緑が
わずかに色を失ったかに見えたのは
秋の足音が近づいたころ。
やがて静かに色づき始め
燃えさかるような錦に染まる。
黄金色に紅色
光に透けて輝きながら
風が吹けば
色紙のように舞ってゆく。
有終の美とは
まるでこのこと
人もまた
このようにあれたら
どんなにいいでしょう。
ひっそりと静かな冬を迎える前の
ほんとうのクライマッ

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空のまなざし

空のまなざし

空を眺めるのが
まるで癖のようになっています。
都会では四角いビルのために
切り取られた空を探すようにして
眺めていました。
しばしば旅に出るのは
空の広さを感じるためかもしれません。
ほっとする
広やかな空の色
地上は少し息苦しいから
呼吸を求めているのです。
そんな私を空のほうも
眺めているような気がします。
空のまなざしは
その時々の私の心を映しながら
慰めるように
励ますように
言葉もなく

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最後の足あと

最後の足あと

いつのまにか
ずいぶん遠くまで来ました。
振り返ってみれば
ここまで残してきた足あとが
霞んで見えないものもある。
いつのまにか
何十年と生きていました。
先の見えない虚しさに
いったいどこまで歩いたらいいのか
途方に暮れた時代もあったのに
気づけば
ひたすら
歩いていた。
正解のない世界
孤独と二人三脚
ただひとつわかったことは
人生は生きてみなければわからない
ということ。
ここまで生きてきて

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秋の贈りもの

秋の贈りもの

秋は短いけれど
贈りものでいっぱいです。
たわわに咲く金木犀
頬を撫でる乾いた風
松ぼっくりに椎の実
花水木は赤く染まり
空を見上げれば飛行機雲
透明な光はまるでセロファンのよう
紅茶のカップを両手に包めば
かすかな湯気が香りを運ぶ
なんという優しい時間でしょう
靴音を重ねながら歩けば
胸の中心に切なさがこみあげる
ふたたびの秋だけれど
二度とない唯一の秋
少し乾いた唇に
指先をそっとあてて
今年

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金木犀が咲いた

金木犀が咲いた

暮れかかる坂道を登っているとき
その予感はありました。
ほのかに漂う柑橘系のような匂い
そして朝、予感が確かであったことを
知るのです。
今年もまた
金木犀が咲きました。
街中があまくせつない香りに包まれてゆく
金平糖のようなだいだい色をたわわにつけて
秋本番を教えてくれるのです。
気づけば高くなっている空
金色の夢を放つように
次々とひらいてゆく小さな花たち
金木犀の向こうに
大切な人の笑顔が見

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お茶の時間

お茶の時間

かわいた風が吹いて
紅茶のおいしい季節になりました。
さらりとストレートでいただくのもいいし
こっくりとミルクティもいい。
カップの縁に木漏れ日が揺れて
指先はすこし冷たいから
あたたかなお茶が
のどを通りおなかをあたためるほどに
やさしい気持ちが満ちてゆく。
百舌鳥が鋭くなく声も
秋の気配を深めてゆく。
さもないことばかりだけれど
あなたとのお茶の時間を
どれだけ愛していることか
ひとりでいただ

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ぬくもり

ぬくもり

私がこの世を去っても
愛はあなたの中にきっと息づいていく
あなたと訪れたそこかしこで
愛のかけらが語りかけてくる
けれどもう触れあうことはできない
あの世とこの世
住む場所がちがうから
肌の感触、そのぬくもり
なつかしい匂いも
私がこの世を去ったなら
二度と抱くことはできない
あとどれくらい
愛を届けることができるだろう
あとどれくらい触れあい
抱きしめることができるだろう
宇宙の時間と比べるまで

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いまひとたびの秋

いまひとたびの秋

いまひとたびの秋のおとずれ
あめつちを結び立てば
かなたより風まきおこる
ながれゆく雲の帯いくえにも
おりなす光うつろいかげり
いつかみほとけのほほえみにも似て
しずかなるやすらぎの花を咲かせる
いまひとたびの秋のおとずれ
いのちの時がまた
音もなくうたわれる

あめつちの祝うことのは

あめつちの祝うことのは

やさしい風が
あなたに吹いています
透明な光が
あなたに降り注いでいます
大地はあなたをどこまでも支え
大空はあなたをどこまでも包む
あなたはこんなにも愛され
祝福されています。
あなたがあなたを愛せなくても
天地はあなたを愛している
あなたがあなたを信じられなくても
あなたの全身が命を信じている
そこにすべてがある
それがすべてなのです。
たとえあなたが知らなかったとしても。

目が語るもの

目が語るもの

目を見るとその人がわかる
そこに宿っているのは
ただそのときの心模様だけでなく
これまでの時間が見えている
時間は肉体があるからこそ
経験できるもの
この肉体は時間そのものともいえる
そこには膨大なデータが記憶され
その集約が目にあらわされる
多くの時を経たいま
あなたの目は何を語りかけていますか
鏡を用いなければ
決して見ることのできない
自分の目
そこに光があるかないかは
心の中を深く見つめれ

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一日の命のしずく

一日の命のしずく

信じたいはやさで時が流れ
今年ももう4ヶ月をきりました。
ここからは
どれほど丁寧に日々過ごしても
駆け抜けていくことになるのでしょう。
歳を重ねてわかることは
人生とは束の間の夢に
ほかならないということ
先に生きたひとびとが
異口同音に語ったことは
ほんとうだったということ
今日も日が昇り
生きている自分を見いだしたとき
そうだ、もっと感謝しよう、
与えられた一日を
命のしずくとして
心を尽く

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ゆきあいの空

ゆきあいの空

百日紅があかあかと散って
百合はうつむき加減に香を止める
暑い暑いという言葉が
なぜかうつろに流れる日
はるかな空で夏が終わろうとしているのを
心のどこかで悟るのです。
生ぬるい風が風鈴を揺らしても
よそよそしい音色で
「そろそろわたしたちおやくごめんなのよ」
そんな歌ばかりうたう。
日が暮れた草むらでは
虫の音楽家たちが凜々と
「どうぞわたしたちのでばんですから」
そうして時が交差する。
季節は

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みずみずしいもの

みずみずしいもの

「みずみずしい」という言葉がある。
にごりのない透明な流れる水を思うだろうか
それとも明け方に丸く光る
草の葉の露を思うだろうか。
いずれにしても十分なうるおいと
清々と生きた感じのする言葉だ。
にんげんのみずみずしさは
年齢と共に失われるものと思われがちだけど
ほんとうにそうだろうか。
ふと気づけば年若い人であっても
みずみずしさは感じていないかも知れない。
それどころか子どもであっても
時にそ

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