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今日の言の葉

799
その日、降りてきた言の葉を綴っています。あなたの良き日々に繋がれば幸いです。
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#詩

無音の時

無音の時

止めることのできない時を
刹那でいいから止めてみたい
時と共に薄れゆく記憶を
欠片でいいから残してみたい
そのときの
わたしの
その場所の
あなたの
濁りも滞りもない透明な想いが
ちいさな音とともに切り取られる
風までもが封じ込められた
断片的な世界
それはいわば無音の時
なぜなら
動は音とともにあるから
つまり静は音のない世界
けれど
耳を澄ませてみれば
聞こえてくる竹林のささやき
鳥たちの歌

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透明なる序章

透明なる序章

昨日、あなたの心を濡らした雨は
悲しみのヴェールを被っていたけれど
本当の姿は慈しみだったようです。
あなたはまだ気づかないけれど
乾いて固まった過去の傷が
たっぷりと水気を含んで
流れ落ちていったようです。
今日、あなたの心は静寂に包まれ
あきらめが霧のように漂っているけれど
それはすべてを受け入れ肯定する
透明な序章なのです。
風が吹き
雲は流れ
鳥たちが再び歌い始める。
それは新しい物語への

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ミクロのジャングル

ミクロのジャングル

やわらかな苔に近づいてみると
まるでミクロのジャングルです。
なんという深々とした森
そこに暮らす生き物は
顕微鏡でなければ見えないかも知れない。
そこでも、やはり
仲良くしてみたりケンカをしたり
ややこしく生きているのでしょうか。
それともうまいこと譲り合いながら
平和に暮らしているのでしょうか。
宇宙から見てみたら
私たち人間はこんなふうに
見えているのかも知れません。
もっとも、こんなに豊か

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見落としながら生きている

見落としながら生きている

くたびれて眠ったあなたを
かけてゆく月が
静かに見守っていた週末
目を離した一瞬にも
季節は進んでいるから
いろんなことを見落としてしまう。
時間は等しく流れているようでいて
その実、決してそうではない。
時間というものが
極めて個人的なものだということを
正しく受け止めることができたなら
日々の越し方に
もっと想いを寄せるだろう。
どのみち生きている時間は
まるで夢のようなものではあるけれど。

桜の記憶

桜の記憶

桜の便りが青森にまで届いたそうですね。
龍の国が薄紅色に染まる美しい季節
このあまりにも特別な一瞬を
私たちはどんなにか待っていたでしょう。
恋い焦がれるように
祈るように
花弁がほどけていくのを
あんなにも待ち焦がれたことが
かつてあったでしょうか。
喜びの色、微笑みの色、慈しみの色
けれど私たちを包んでくれた桜は
瞬く間に通り過ぎてしまう。
わかっていても
せめてあと一日
そう願わずにはいられ

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「幸う国」は行方不明

「幸う国」は行方不明

「言霊の幸う国」
この言葉が目に飛び込んだ時
ハッと息を呑んだ。
ひとは「ハタ」と気づいた時
感嘆を発するのではなく
むしろ吸い込むのだ。
息を引き取るというけれど
命に幕が閉じられる時も
やはり吸い込むのだという。
「言霊の幸う国」という言葉を前に
なぜ息を呑んだのかと言えば
それが遠い幻影に見えたから
失われた憧憬に思われたから
途切れてしまったように感じられたから
胸を突かれたみたいに
軽い

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神さまは待っている

神さまは待っている

大地を揺らし
大浪を起こしながら
これはあなたがたの心の内
そう、伝えているかもしれない
マグマを噴き上げ
炎を巡らせながら
これはあなた方の怒り
そう諭しているのかもしれない
人の気は天に挙げられ
天はそれを大地に降ろす
人類の業がことごとく転写され
自ら首を絞めているのが、今。
それでも大いなる力は
守ろうとしている。
護りながら、気づくのを待っている。
まなこがひらかれるのを
待っている。

春の精

春の精

厳しい寒さの向こうで
春の精が支度をしています。
私たちの気づかぬ間に
時折、ふっ・・と息を吹きかけて
福寿草やクロッカス、スミレを咲かせ
もう少しですよ、と、
知らせてくれます。
春の精が薄紅色の衣をまとい
風に乗って降りてきた時
龍の国は
その国の心の色に染め上げられ
ひとびとの顔にほほえみをもたらし
ひとときの理想郷が
たちどころにあらわれる。
そんな日が
まもなくやってきます。

真の珠

真の珠

音も届かない海の深みで
密やかに自らを育てる不思議な珠。
時に海底を動かす波に
沈黙の中で耐えながら
月のしずくと讃えられる光を放つ。
人魚の涙とも言われるのは
奥深くから滲み出るような輝きに
哀しみが見えるからだろうか。
真の珠と名づけたのは誰だろう。
幾多の歳月を経て
喜びと強さと安らぎを解き放つ。
私たちの内なる海でも
真の珠はきっと光を放っている。
波にあらわれながら
手放して手放して手放

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季節のかたみ

季節のかたみ

ただ一枚のモミジに
どれだけの記憶が刻まれているのでしょう。
力を蓄える冬
芽生えの春
そして夏の盛り
一枚のモミジには
すべての季節が刻まれているのです。
ひととせのおわりに
その葉が枝を離れていくとき
記憶は天に放たれ
大地に染み渡ってゆく。
私たちが抱いた
あのときの想いも
あのときの願いも
あのときの涙も
あのときの怒りも
あのときの祈りも
なにもかも天地に解き放たれ鎮まってゆく。
もみじ

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巡りゆく季節に

巡りゆく季節に

唐松が黄金色にかわったかと思うと
その小さな葉をきりもなく落としていく
風が起きるたびに
空気中がキラキラと小さく光り
気づけば樹々はすっきりと冬の顔
高原の秋は短くて
ほんの少し目をそらしただけで
その移ろいを見失いそうになる
「見る」ということは
何を表しているのだろう
「見る」から「かたち」になるのだろうか
季節がやむことなく巡りゆく
その一瞬を止めたいという願いが
絶え間なく風に乗る唐松の

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影に想う

影に想う

足下に落ちる影にふと目が行くと
安堵と共に不思議な想いがする。
影は、私が確かに存在していることを
教えてくれる。
ではもしこの影が見えなくなったら?
そんなことを想像すると
さすがにゾッとしてしまう。
自分では何もわからずに
ある日突然、影がないことに気づいて
では私はもう存在しないなかと
そんなことを思わされたら…
影に語りかけるなんて
馬鹿げているかもしれないけれど
そんな日が来ないように

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この人生の句点

この人生の句点

虫の音が
静けさを連れてくる秋の日は
淡く明けゆき
人々の営みが今日も始まる
お彼岸のころ
陽の角度は明らかに変わり
斜めの陽射しを浴びて人々は歩く
私が亡くなった後も
世界はとどまることなく周り
変わらぬ風景が繰り広げられる
きっと私はどこかでそれを観ながら
あれやこれやと思うのだろう
死は終わりではなく
節目であって
世界は周り続け命は巡る
終わりなき循環の中で
この人生では、どんな「、」を残

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夏仕舞い

夏仕舞い

朝、寝ていられないくらい大盛況だった蝉たちが
もう私を起こしに来ない。
日が高くなってきても
聞こえてくるのは秋の虫の声ばかり。
8月最後の日
木々の緑に翳りが見えている。
どの季節にも終わりがあるはずなのに
夏ばかりが、なぜこうも際立つのだろう。
それは静けさとともにやってきて
深い安堵と一抹の寂しさを刻印する。
うだるような暑さに
あえぐように過ごしていた日々が突然遠のいて
毎回、私を驚かせる

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