「贈る、漢詩。」杜甫「夢李白」後編
誤訳が判明しました。以下訂正です。
こんにちは、康寧堂です。
前回に引き続き、杜甫の「李白を夢む」の二首目、後編を
読んでいきます。とても李白を心配していた杜甫でしたが、
続けて李白の夢を見たようです。どんな内容になっているのでしょうか、
それでは読んでいきます。
浮雲終日行 遊子久不至
三夜頻夢君 情親見君意
告歸常局促 苦道來不易
江湖多風波 舟楫恐失墜
出門搔白首 若負平生志
冠葢滿京華 斯人獨顦顇
孰云網恢恢 將老身反累
千秋萬歲名 寂寞身後事
浮雲、終日行き、遊子、久く至らず 。
三夜、頻に君を夢む、情親、君が意を見る。
告歸するに常に局促たり、苦道、來ること易からず。
江湖、風波多くして、舟楫、失墜を恐る。
門を出でて白首を搔き、平生の志を負ふが若し。
冠葢京華に滿つも、斯人、獨り顦顇。
孰か云う網恢恢たりと、將に老いんとして、身反つて累ふ。
千秋萬歲の名、 寂寞たり身後の事。
浮雲はひねもす流れて、出かけた君は帰ってこない。
三晩つづけて君を夢にみた、そうして親しく君の心むきを見た。
「帰ろうにもそわそわとしている。道に苦しんで帰ってこれない
湖水の地は波風多く、船が覆るのをおそれている。」
夢に見た君の姿は 門から出て白髪頭を掻いているところなど、昔のように志を自負しているようだった。高官たちは都に満ち溢れているのに、この人(わたし)ばかり憔悴している。誰が「天網恢々」なんていったんだ、私は老いようとしているが、その網とやらに縛られている。千年後にのこる名前なんかもうどうだっていい。
なんだか、李白は帰ってくるのにこそ苦労しているようですが、
杜甫が夢に見た李白の姿は思ったより元気(?)だったようです。
(門を出でて白首を搔き、平生の志を負ふが若し。)
そのあと杜甫は自分について述べ始めます、
「高官たちは都に満ち溢れているのに、私※はひとり憔悴している。」
「私」については訳に迷いました。なぜなら、「斯人」という語は単に「この人」
と読めますが「斯民」すなわち「民衆」という意味もあるからです。
だから「政府ばかりが潤って、民衆は貧しい!」という悲憤の
詩にもとれのです。でも、私の推測ではここは単に「この人」
=「私」ととった方が文脈上、自然かと思い「私」と訳しましたが、
お気づきの方がいましたら、コメントからでも教えてください。
「網恢恢」は『老子』にある言葉で、「天網恢恢疎にしてもらさず」
などのことわざになっているかと思います。
どうして「悪事はばれる」というような意味ですが、
これに反語として「孰れか云う」といっているので、
「悪事なんか蔓延ってるじゃないか」といったあとで
「天の網は悪事を捕まえられないくせに、
この老人のことを煩わせてくる」という皮肉。
そして、「千秋萬歲の名」も 私にとってはどうでもいい。
というように締めくくられます。
なんだかさびしいけど、とても頷ける詩だなと思います。
「心配していたあの人は思ったより元気だった。
自分はといえば、うだつが上がらないのに年はとってゆく。
もう後世に名を残そうなんて野心は残ってない。」
でも仕方ないと思います。いつの時代も世の中は「立派になれ」
「社会に貢献しろ」「世界に通用する人材になれ」なんて
言いたい放題です。でも私は思うんです、
確かに人は社会とつながらないと生きていけません。
でも、「それほど積極的に社会に関わりたくない」そう
思っている人々も存在して当然だ。そう思うのです。
こんな「乱世」といえば大袈裟でしょうか?
いいえ、疫病、戦争、生活苦、分断、環境問題。
世界を見渡せば今日も恐ろしいことで満ちている。
だから乱世はいま生きているだけで十分なのだと思います。
長々と失礼いたしました。
さて、余談ですが、この詩の注釈に面白いことが書いてありました。
吳山民曰く、(※中略)今、上篇に云ふ水深くして/波浪濶し蛟龍をして得さ使むる無れ。此れ又た云ふ江湖風波多し、舟楫失墜を恐ると。疑ふらくは是れ時に必ず妄傳有りて太白は墮水して死する者なり故に子美云云と。後/世遂に沉江騎鯨の説有り、葢し公の詩に因りて附㑹するのみ。太白は當塗李陽の冰家に卒し、謝家の青/山に塟らる。二史、考ふ可し安んぞ沉江の事有らんや。
ようするに「「夢李白」二首、どちらの詩とも李白の水死を恐れるフレーズがでてくることから、李白は水死したという説が出たが、李白は本当は「當塗」という土地で死んで、墓に埋められているので、これは出鱈目な説、言い伝えにすぎない。」ということです。まえに「李白は水に映る月を取ろうとして水死した」
という伝説がある、と言いましたがまさかの伝説の出典&その反証が同時に
見られるとは…私も驚きです。
さて、今回で「夢李白」の二首は終わりです。
次回もお楽しみに〜、Have a nice day!
出典:
https://www.kanripo.org/text/KR4c0020/007?query=夢李白二首#007-25a
より日本語訳。
(c) Kanseki Repository. 作成されたコンテンツは CC BY SA のライセンスで提供する。
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