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終電で泣いていた。

終電でしくしく泣いていたのは、今から20年以上前の新入社員だったころ。先輩にいじめられたとか、仕事で失敗したわけではなく、世の中に絶望していた。「社会に出ると、こんなに長時間働かなければならないのか、これがずっと続くのか」というシンプルな理由で。疲れてたんだろうね。

私が新卒で勤めたのは、中堅の印刷会社だった。バブル崩壊後の就職氷河期に、採用を絞っていた広告代理店ばかり受けて、どこにもひっかからず、制作部がある印刷会社にたどり着いたのだった。

当時は残業規制なんてものは皆無で、不景気の割に成長していた会社には仕事がいっぱいあり、徹夜もたびたびあった。しかも実家から1時間半くらいかけて通っていたので、毎日ほぼ終電。

当時はスマホもないし、疲れて本を読む気にもならない。ボックス席でワンカップとおつまみ片手に宴会の続きをしているおじさんたちの横でおなかをすかせながら、モンモンとしていた。残業ありきの印刷会社なんて職場を選んでしまった自分を恨みつつ、午前様で帰宅していた。

学生時代の門限は22時という家だったので、当然大問題になり、母親には「なんでこんなに遅いのか」と詰め寄られるし、父親は「別に働かなくていいんじゃないか」と言う。だからといって、やっと就職した会社を簡単に辞めるつもりもなく、順応しているうちにたくましくなっていった。この根性は、売り手市場の世代だと分からないかもしれない。

辞めようと決意したときのことはあまり覚えてない。まるで2年契約だったみたいに、何の逡巡もなく辞めたと思う。辞めるとき上司から「あなたは誠実な人でした」と言われたのを覚えている。今思うと、クソ生意気な若造にあんな風に言ってくれて本当にありがたい。

今の会社も、ひと昔前は深夜残業がデフォルトだったけど、会社の近所に引っ越して終電とは縁がなくなった。7〜8年くらい前から残業規制ができて、今ではすっかりホワイト企業になっている。クライアントも深夜に連絡してこなくなり、社会全体で長時間労働が減っているのだと思う。

終電のダイヤが今日から繰り上がるらしい。保守点検の時間を確保するためだという。それでなくても、0時過ぎまで運行しなくても良いのではないだろうか。いつまでもモーレツの時代にしがみついていないで、これからは歩く速さで進んでいけばいいと思う。肋骨が折れそうな満員の通勤電車も、うつろな目をしたサラリーマンを乗せた終電ももうない。狂気の時代が終わったんだと思う。

#日経COMEMO #NIKKEI

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