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2023年3月の記事一覧
【短編小説】3/31『正確な時計』
ボクの体内時計はいつも正確だ。同じ時間に起きて同じ時間に家を出て同じ電車に乗る。
今日も気持ちよく目覚めてカーテンを開ける。うん、今日もいい日差し。歯を磨いて顔を洗って軽く朝食。着替えて家を出て、近くの駅まで歩く。
最初の信号を過ぎたあたりで唐突な違和感。
なんかおかしい。今日は全てのタイミングがズレてる。
いつもはあの角で小学生たちとすれ違っていた。
この散歩中の犬はあのカーブミラー
【短編小説】3/30『ハードボイルド猫のボス』
俺たち猫のマフィア。麻薬(マタタビ)を取引したり、凄みを利かせてヒトをダメにしたり、みかじめ料としてヒトから食料を徴収したりしている。
街のパトロールも俺らの仕事。シマを荒らされていないか、秩序は守られているかを日々確認してまわる。
「あっ、ボス~」
時折声をかけてくるヒトが話しかけてきた。
「うちの子、また帰ってこなくなっちゃって。良ければまた、伝言お願いします」
『おう』
「ありがとう!
【短編小説】3/29『浮遊するトーラサンペ』
マリモって小さな瓶に入った2~3センチくらいの球体のイメージだったんだけど……本場で見た自然のマリモ、マジでけぇ!
持って帰りたいって思ったけど、天然記念物だからダメなんだって。
なんかいい物件紹介してくれそうなのになー。
帰り道に見かけた土産物屋に入ってみる。
指を銜えんばかりに顎に当て、陳列棚を眺めた。
土産物屋で売っているマリモは養殖らしくて、想像してたのと同じような瓶に想像通り
【短編小説】3/28『三つ葉が主役になる日』
茶碗蒸しにはこれでしょ! って買うんだけどいつも使いきれなくて、翌日以降のご飯が親子丼とかたまご丼とかお吸い物とか、“三つ葉消費用レシピ”になってしまう。
うーん、これってなんとかならないかな。
ネットでレシピを検索してみた。
へえぇ、根付きだと再生できるんだ。いや、たくさんあって困るからどうしようって調べてたのに増やしてどうする。
とりあえずいま冷蔵庫内に入っている分を使い切るためのレ
【短編小説】3/27『我が国の夜明け』
二礼二拍手一礼。
古くから伝わる伝統の所作。
賽銭箱の前で一通りの作法を済ませ、境内を散歩する。
ここはいつ来ても空が広く、土地も雄大。都心にあるとは思えない清浄な空気。
境内の真ん中で大きく深呼吸して、まだ暗い空を見上げる。
早く太陽、見えるようにならないかな。
時計を見ると午後の二時。もうこのまま夜明けはこないのだろうか。
不安な気持ちを抱えながら、鳥居をくぐり一例して、その場
【短編小説】3/26『お風呂DEイチャイチャ』
一日の終わりの癒しタイムを堪能するために仕事から帰る途中、スマホで遠隔予約。これで帰るころにはバスタブにお湯がたっぷり。
ちょっとぬるめが彼女の好み。
帰ったら一緒に入浴するのが毎日の楽しみだ。
電車に揺られて帰る間、スマホに撮りためた彼女の写真を眺めてはニヤニヤする。
見てみんな! この子可愛いでしょ! って見せびらかしたい気持ちをグッとこらえる。
あぁ、早く家に着かないかな。
ス
【短編小説】3/25『ブンブンなシッポ』
ご主人が「さて、行くかぁ」と伸びをしたらそれが合図。
ぼくは嬉しくてわーい! ってなって、気づいたらシッポがピョンってなってる。
「ほら待って。リード付けないと危ないから」
はぁい!
座って待つけどシッポの動きが止められない。顔もずっと笑顔のまま。だって嬉しいんだもん!
ご主人も同じように笑ってくれて、ぼくたちはいつもニコニコしながら家を出る。
ご主人より前を歩くと“アブナイ”みたいで
【短編小説】3/24『踊りを忘れえぬ雀』
マネキンとか、人体模型とかが“動く”って良く言われてるけど実際見たことないなー、って考えながらウィンドウショッピングをする。
これが動くって関節とかどうなってんの。あ、でもこのタイプは球体人形だから動きやすそう。こっちの人は固定されてるっぽい。これは胴体だけだ。
やっぱ動きやすさで動くかどうか決まってるのかな。
そもそも魂って入ってるんだろうか。魂だけの存在が身体として使ってるんだろうか。
【短編小説】3/23『メーカーサイクリング』
「おめでとうございまーす」
緑色の球を目視してすぐ、目の前のハッピ姿のお兄さんが言う。
「二等のホットサンドメーカーご当選でーす」
ハンドベルこそ鳴らされてないけど、腹式呼吸の声が商店街に轟いてる。注目浴びてちょっと恥ずかしい。
礼もそこそこに電気店の包装紙をかけられた箱を抱えて家に戻る。
箱の裏書きに書かれた簡単な説明を読む。パンを乗せて具を乗せて、さらにパンを乗せて機械で挟めばいいらし
【短編小説】3/22『湖のコ』
そのコは昔から湖に棲んでいる。
身体は完全に同化していて、湖面から外を見ようと顔を上げると、周囲の水も一緒に引き上げられた。
近隣に住む村人はそのコを"ココ様"と呼び、親しんだり、信仰したり、畏怖したりしていた。
その湖では不思議なことが起こるという言い伝えがある。
落としたものがいつの間にかほとりに置かれていたり、溺れそうになった動物が泳いでもないのに岸に移動して助かったり。
その生
【短編小説】3/21『夢が詰まった箱』
ほっかいどうの おじーちゃん、おばーちゃんが かってくれたよってママからハコをもらった。
なかにはラベンダーいろのランドセル。
わぁい! わたしがほしかったいろ、おぼえててくれたんだ!
パパがスマホをわたしにむけた。
「おじいちゃんとおばあちゃんに、ありがとうして~」
「おじーちゃん、おばーちゃん、ありがとぉ!」
「よーし、しょってみようか」
ママがわたしのせなかに、ランドセルをのせた。
【短編小説】3/20『歩くだけで舞い降りる幸運』
歩いてるだけでラッキーな日ってのがある。
步けど歩けど信号は青だったり、たまたま見た看板広告でうっかり忘れていた予定を思い出したり、道端で拾った財布を交番に届けたらすぐに落とし主が現れてお礼をもらえたり、こりゃ今日は幸運に恵まれてるぞ、と思った矢先に道路を走ってた車のナンバーが3台続けて【77-77】だったり……。
絶対になんかあるって確信して、たまたま見かけた宝くじ売り場でスクラッチタイプ
【短編小説】3/19『夢見る獏』
なんだか疲れた。
帰宅してすぐ風呂に入ってサッパリしたところで、定位置に置いたバッグから昼間つけたばかりのキーホルダーを外す。
手の中に収まる大きさのぬいぐるみは、架空の存在のほうの獏。キャラグッズとかじゃなくて、実際の獏が変化してる、はず。
この獏に俺は命を救われた。だから無碍にはできなくて、ソファベッドの上に置いた。
「さて……」
夜メシを食うためにテレビを点けて、帰りに寄ったスーパ
【短編小説】3/18『環状線の霊獣』
春眠暁を覚えず、とはよく言ったもので、春先って本当に眠たい。
特にバスや電車なんかで座ったら、つい寝てしまう。走行中の規則正しい揺れがなんとも気持ちいいんだよなー。
窓から入る日差しも曲者。首から肩が温まってなんとも心地いい。
俺はいま、環状線の電車内で眠りの世界にいざなわれている。
うとうとハッ……うとうとハッ……。を繰り返していたら、一瞬意識がなくなって、そしてパキッと目覚めた。