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【短編小説】3/28『三つ葉が主役になる日』

 茶碗蒸しにはこれでしょ! って買うんだけどいつも使いきれなくて、翌日以降のご飯が親子丼とかたまご丼とかお吸い物とか、“三つ葉消費用レシピ”になってしまう。
 うーん、これってなんとかならないかな。
 ネットでレシピを検索してみた。
 へえぇ、根付きだと再生できるんだ。いや、たくさんあって困るからどうしようって調べてたのに増やしてどうする。
 とりあえずいま冷蔵庫内に入っている分を使い切るためのレシピを探して同棲中の彼氏にふるまったらとっても好評で、また違う三つ葉料理作って欲しいってリクエストされた。
 そんな嬉しそうで美味しそうに食べてくれたら作るこっちだってやる気でちゃうよ?
 ってことで、根付きの三つ葉を買ってきて長めに切った根本を水に浸けて栽培しつつ、毎日の夕食やお弁当に三つ葉料理を入れて食べ続けていたら、ちょこっとだけ体調が良くなったように感じる。
 調べてみたら三つ葉って栄養豊富らしい。個人差あるだろうけど、私たちには効き目あったみたい。
 たまに飽きたり在庫なくなったりして出さないときもあったけど、ないとなんだか物足りなくって……。添え物だったはずの三つ葉が、いまじゃメインの食材だ。
「俺もこういう役者になりたい」
 三つ葉料理を食べながら、彼がぽつりと言った。
「そうだね。名バイプレイヤーね」
「うん」
 彼は役者志望の劇団員。添え物から主役級に踊り出た三つ葉になにかシンパシーを感じたらしい。
 まだまだ家計は私が支えないとならないけど、いつか本当に名だたる“名バイプレイヤー”と肩を並べるような役者になってほしいから、私も仕事がんばる。
 夕食を食べ終え、明日の分のお小遣いを渡して夜勤の仕事に出発。前は疲れやすかったけど、三つ葉を食べ続けてたら割と大丈夫になった(自分調べ)。
 二十四時間営業のスーパーでレジ打ちだから、体力はそんなに使わない。それに職員割引してもらえたりしてお得だから家計にも優しい。
 今日も終業後に見切り品の三つ葉の束を買って帰るんだ。
 彼がちゃんと役者業だけで食べていけるようになるまでは節約しないとね。

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