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【短編小説】3/20『歩くだけで舞い降りる幸運』

 歩いてるだけでラッキーな日ってのがある。
 步けど歩けど信号は青だったり、たまたま見た看板広告でうっかり忘れていた予定を思い出したり、道端で拾った財布を交番に届けたらすぐに落とし主が現れてお礼をもらえたり、こりゃ今日は幸運に恵まれてるぞ、と思った矢先に道路を走ってた車のナンバーが3台続けて【77-77】だったり……。
 絶対になんかあるって確信して、たまたま見かけた宝くじ売り場でスクラッチタイプの宝くじを買ったけど、十枚全部外れだった。
 寄り道をしたのが悪かったのか、そこから先の道は何度も赤信号で足止めをくらって、彼女との待ち合わせに遅れてちょっと怒られた。
 あーあ、結局ツイてなかったやー。

* * *

 ところ変わってここは地獄。
 人間界で起こることを監視する鬼たちが興味深く考察をする。
「いやぁ、相殺されましたね」
「金より命、ってやつですよ」
 本当は一等が当たっていた宝くじ。
 しかしそれに当選していたら、浮き足立った状態で不注意になり、交通事故に遭って帰らぬ人になっていた。
 外れくじに変化させたのは彼を守る“大きな存在”のチカラ。
「こんなに守られてる人間がまだいるんですねぇ」
「むやみにこっちに来ちゃうよりはいいですよ」
 青鬼の言葉に赤鬼がウンウン頷く。
「宝くじが当たって裕福になるのはいいことなんですけどね」
「その後の本人の行動次第ですかねぇ」
 鬼たちは男の行動を見続けた。
「ありゃ、彼女怒っちゃった」
「ここで誠意見せておけば一生の付き合いになりそうだけど……」
「「どうでしょうねぇ」」
 鬼たちが笑う。

* * *

「大丈夫? 寒い?」
「いやっくしゅ。そういうっくしゅ、感じじゃなっくしゅ」
「誰かにウワサされてるとか?」
「んー、なんかね。誰かに見られてる感じある」
「えー、いやだねぇ」
「うん。ごめん、この後の予定変えて、家デートでもいい?」
「いいよ、どっちの家にしよっか」
 彼女の機嫌はいつの間にか直ってて、いつものように手を繋いで歩く。
 宝くじは惜しかったけど、彼女が隣で笑ってくれるだけで幸せだよなぁ、と、ビルの壁に設置された大きなモニターで流れてる他国の悲しいニュースを見ながらしみじみ思った。

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