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短編小説

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小説のような、エッセイのような、 お仕事小説、家族小説
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#お仕事小説

川とビルの狭間で

川とビルの狭間で

 たどり着いたのは、大きなビルに挟まれた、ひなびた細いビルだった。「高田ビル」とレトロな字体の看板があった。
「ここだね。」
岩城が扉を開ける。浜口と南が後に続いた。
「事務所は·····6階だね。」
岩城が入ってすぐのエレベーターのボタンを押す。扉が開いた。6人乗りとあるが、3人でいっぱいだ。「6月22日給湯器のスイッチが入ったままでした。火災につながるので、退室前に必ず火元の確認をして下さい

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中央線の朝  #短編小説

中央線の朝  #短編小説

朝7時

駅を出てすぐのコーヒーショップに入る。
年配の男性が新聞を読みながら朝食をとっている。
ミカもパンとコーヒーを注文し、窓側のカウンター席から、朝日が差し込む白いビルを眺める。

地方の会社から東京へ出向してきて1か月。地元では、仕事前にカフェで朝食なんてありえない。とても新鮮な時間だ。会社の時間を気にしながら、20分くらい本を読む。

満員電車に耐えられず、少しでも空いているほうがいいと

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現場のオニ  #短編小説

かみ合わない現場だった。
ひとりひとりは、性格も穏やかで、知識もあり能力も高い。しかし、ちょっとした連絡事項が、全然、現場全体に伝わっていない。

所長は、鋭い目つきで立っている。がっしりした体格。アメフトか何かしていたのだろう。大きな工事現場をまとめるには、あれくらいの迫力がないといけないのだろうか。

ミカも、この工事現場に、監理として出入りしている。設計図どおりに施工されているか、鉄筋本数を

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