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心をすすぐ、潮騒の宿。(茨城県 大洗編)

気づいたら11月も最終週。
下書きの旅レポがたまってきたので、この辺りでまずはひとつずつお届けしたいと思います。

今年の9月もたくさん旅をしました。
主人の誕生日、私の誕生日、そして結婚記念日。我が家のアニバーサリーてんこ盛り。
なので毎年9月は家族でどこかしらへ出かけています。

いつも旅先を決めるとき、まず主人や息子に今回はどんなところがいいか聞きます。
「今回は海がいい」「○○が食べたい」などの要望を念頭に、私の気分と私の中の「泊まりたい宿リスト」の中から滞在先となる宿を選んでいきます。自動的に「泊まりたい宿がある地域=旅の目的地」となります。宿(目的地)が決まったら、その周辺や行き帰りの途中に何があるかを調べる、いつもそんな感じで旅行の組み立てをしています。

今回訪れたのは、茨城県大洗にある里海邸さん。ここはもう随分前からうかがいたかったお宿です。土日や連休はまず予約が取れない人気の宿です。

宿に入った瞬間、のれんがふぅんわり揺らめいて、風がすーっと通り抜けていきました。
とても清々しくて心地好いエントランス。
それもそのはず、こちらの宿は波打ち際から30メートルという立地。
きっと、そういうことも計算されているのかなと感じました。

▲宿のエントランス。 里海邸のHPより


そこから通されたロビーラウンジ。
目の前にぱぁっと開ける太平洋。
たくさんの書籍や写真集をはじめ、子連れには嬉しい絵本も。CDもJAZZからクラシック、アンビエントなど好みのものがたくさんあって、それだけで心躍ります。


ロビーラウンジには、コーヒーやハーブティなどが用意されていて、滞在中は自由にいただくことができます。海が見える席、読書を楽しむ静かな奥の席。思い思いに過ごすことができます。

チェックイン後、早速お部屋へ。
やっぱりここも鍵が2つです。これは私的、良い宿の法則です。これまで泊まってきたところで鍵が2つある宿は、ほぼ間違いない。
家族と言えども、やっぱり生活リズムが微妙に異なるもの。お風呂から戻ってくるタイミングなどを互いに気にしなくて良いので、鍵が2つあると、それだけで快適に過ごすことができます。

▲鍵が2つ。私的、良い宿の証拠。


そしてお部屋からも眼下に広がるは大海原。
まるで、切り取られた一枚の絵画のようです。


え?





えぇ⁉︎




もう脱いでるし…。すごく寛いでるし…。
でも、居心地いい証拠です。

そして、何が気持ちいいかって、この大きな開放的な窓から聴こえる波の音。ここでは潮騒がBGMです。
しばし窓を開け放って滔々と響く波音に耳を傾けます。

息子の「おっきいお風呂行こうーー」の声を合図に、早速大浴場へ。

こちらは温泉ではないのですが、里海邸の丁度背中に鎮座する大洗磯前神社のご神水の水源である大洗山の湧水を沸かしたものだそうです。
チェックイン前にお詣りをしてきたのですが、千年以上の歴史を持つ神社とあって、とても荘厳な空気に包まれていました。

じつは大洗磯前神社には、海に鳥居があります。
本当に神秘的な場所。海から神様がいらっしゃり参道を通られ、この山の上の神社へ向かわれるのだそうです。
神様が本当に降り立ちそう。
写真が好きな方は、おすすめです。
刻々と変わっていく姿に見惚れてしまいます。

朝陽もぜひ拝みたい。
これは早起きして、朝の散歩に出かけなきゃ。


お風呂上がりは専用のラウンジで一服。
こちらの宿はオールインワンクルーシブといって館内ラウンジやお部屋の冷蔵庫に入っている飲み物(アルコール含む)が好きな時に好きな分だけいただけます。なお、お食事時の飲み物は別です。

▲湯上りラウンジ。

▲海を独り占め


どこにいても寛げる館内。
家具のひとつひとつ、床材の優しい温もり、
柔らかな光りと風、心地よい波音。
ごはんを食べる前からこんなに満足度の高い宿はあまり見当たらないかも知れない。オーナーのセンスや心くばりが感じられます。それも嫌味なくとても自然。居心地良さをどこまでも追求している宿。

知らないうちにぐんぐんハードルが上がっているのに、夕食もサービスもその期待を軽々と超えていきました。ほんの一部をご紹介。

この薬膳鍋は、また食べたい。
スープまで全部飲み干しちゃいました…。
どれも土地のもの、旬のものにこだわっていて、いちいち美味しくて、美しい。

実は他にも嬉しかったのは、こちら。

子供用のお布団です。
お腹がいっぱいになると、子供って眠くなってぐずってしまうことも…。個室でのお食事ということで、こんなさりげない心配りに感激してしまいます。
うちの子は、そんなお宿の気遣いも知らず遊んでいましたが…。

ん?どこ?

???

い…いたーーーー!

座敷わらし…!

からの、山下清。
ランニングって…。寛ぎすぎ…。

でも、子供がリラックスしてるのは心地よい証拠。これまで、いろんな宿に家族で泊まっての実感です。



息子が寝てからは大人の寛ぎタイム。
お風呂にとぷんと浸かった後は、ラウンジでのんびり。ふぅと深呼吸。ひとつふたつ。
あぁ、こんなところに住んでみたい。

たまに「また、ここに泊まりにきたい」を通り越して「こんなところに住んでみたい」と思うことがあります。それは、宿に対する私の最高の褒め言葉でもあります。
そういう意味では、旅って、じつは最強の移住政策だよなぁといつも思うわけです。現に旅がきっかけで、その土地を気に入って住み始める人もたくさんいます。交流人口が増えるよりも、定住人口が増える方が地域にとっては嬉しいはずなので。


翌朝、少し早起きをして散歩に出かけました。
海岸側に出入り口があって、ゲスト用にサンダルと子供の磯遊び用にバケツやシャベルなどが置いてあります。他にここからお出かけしている人は今はいなさそうです。

▲子供用の磯遊びグッズがたくさん。


早起きのご褒美。
素晴らしい景色が私を出迎えてくれました。

海岸には早朝にも関わらず、大きなカメラを構えた人たちがたくさん。
年末年始の予約もすでに埋まっていたのも、うなづけます。こんな有難い場所から初日の出を拝むことができたら、その年の良いスタートがきれそう。

少し身体が冷えたので、そのまま大浴場へ。
ラウンジからの眺めも最高でした。
ちょうど、雲の切れ間からその日の朝陽を拝むことができました。

なんだか、いい日になりそう。
チェックイン時、こちらのラウンジにはビールが置かれていましたが、朝は牛乳のサービス。嬉しい。思わず腰に手をあてて、ぐいっと飲み干します。


こちらの宿、ロビーをはじめラウンジや廊下のちょっとしたコーナーなど色々なところに写真集や文庫本、絵本などが置いてあります。
ラインナップからオーナーのお人柄が見えてくるのも、実は私の密かな愉しみ。

▲ここでも大好きな東山魁夷と出会えました。こういう繋がりが嬉しい。旅先なのがまた運命的なものを感じる。


そうこうしていると、主人と息子もお風呂にやってきました。おはよう、ゆっくり眠れたみたいで何より。みんなで朝食までの時間、のんびり過ごします。


朝ごはんも地元のものがたくさん。
お魚は、食べるペースにピタっと合わせて温かい状態で提供してくれます。美味しいものは、いちばん美味しい状態で。じつは意外とそういう宿は少ない。こうした、ほんのちょっとした差が満足度に大きく影響するのだけれど。

朝ごはんの後は、磯遊びです。
神々のお庭で磯遊び、なんて贅沢なんでしょう。この辺りは砂浜というよりも、波で削られ見事に丸くなった大小の石で埋め尽くされています。綺麗な石探し、貝がら探しも楽しい。


リゾートホテルや温泉地…、旅は「非日常」と感じる人は多いと思います。私にとっての旅は「誰かの日常にそっとお邪魔するようなもの」、「異日常」に触れられるもの。
旅先には確実に誰かの営みがあって、それぞれの土地の文化、風土、歴史があります。
そして、それらはそこに住む人にとっては普段と変わらない「日常」です。

その土地ならではの食であったり(食材、調理方法)、生活様式であったり(暮らしの知恵、建築様式)、自分の知らなかった歴史や文化や風土に触れる。私はそこに旅のおもしろさを感じます。

じつは、私だけでなくそういう愉しみ方をしている人が少しずつ増えていて、旅の形態も少しずつ変化してきています。単なる物見遊山ではなく、歴史や文化を体験し、深く学び理解できるようなメニュー開発や観光コンテンツづくりが各地域で盛んになってきています。

例えば、杜氏さんのおはなしを聞きながら酒蔵を巡ったり、自分で野菜を収穫して、その土地の伝統的な調理方法を地元の方に教わりながら料理をして一緒にお食事をしたり。

でも、実はとても簡単に地域を知るためのコンテンツが旅中にあります。
地域に根差した、地域に溶け込んだ宿です。宿での滞在を通じて、飾らないその土地の暮らしを疑似体験できます。

お客様を迎えるという点で、すこしお化粧をしている部分もありますが、宿での時間はその地域に触れられる時間でもあります。
でも、地域とともに生きる、真の意味で共存共栄を意識して経営されているところは、正直まだまだ少ないです。

また、迎える側の地域からは、よく「自分の町には何にも無いから」、「○○みたいな美しい海も無いし」という言葉を聞きます。そんなことはない、気づいていないだけです。あなたの町には、どこの町にも場所にも無い、素晴らしい魅力で溢れている。
そこに住みつづけていると、それが当たり前になって、それこそ「日常」なってしまって、気づきづらくなっているだけです。町の魅力は、あなたのすぐそばにあったり、あなたの生活の中に溶け込んでいます。

ぜひ、旅をしてください。自分の町の当たり前が、特別で愛おしく、誇らしいものだと気づくでしょう。
ぜひ、あなたの町を訪れた人とおはなしをしてみてください。あなたが忘れている、あなたの町の魅力をたくさん教えてくれるでしょう。

自分の日常と異なる、誰かの日常。
違うから知りたい。だから旅は愉しい。


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里海邸 金波楼本邸
〒311-1301
茨城県 東茨城郡大洗町 磯浜町 6883
Tel.029-267-2101

※写真の一部は「みんなのフォトギャラリー」でも公開中!