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これからの観光に求められること。

先日、「これからの観光トレンド」なるものを、私なりに予測してみました。

また、旅行需要など様々な変化を見通しながら、「これからの観光に必要なこと、求められること」として、記事の最後にまとめたのが以下です。

1. 量から質への転換(薄利多売→高利少売)
2. 休暇改革と需要の平準化
3.「適切な」需要喚起 
4. ニューノーマルへの対応状況の可視化
(水際対策、危機管理、認証制度)
5. ビジネスモデルの変革(脱・観光)
6. 観光政策のアップデート

今日は、その説明をしていきたいと思います。
なお、前回に引き続き、「政府見解」ではなく、あくまでも個人の見解であることを申し添えます。


1. 量から質への転換
(薄利多売→高利少売)


 今回の危機は、観光産業にとって大きな試練でもあり、転換期であると私は考えています。
 これは、インバウンド好調期から、ずっと私の中にある問いでもあるのですが、国内旅行もインバウンドも、これまでと同じ水準に戻すこと、そして、これからも更に人数を追い続けることが、果たして正しいのか、観光における持続可能性とはなんなのか、ということを、今一度考えてみる機会なのではと、思っています。
 みんなで同じ方向へ進んでいくうえで、やはり「数」は分かりやすく、これまでは必要な要素だったと思います。でも、少しずつ、そのひずみや歪みが色々なところで顕在化しはじめているのも事実です。なので、急ブレーキで、みんなが立ち止まった今こそ量から質への転換を考える時ではないでしょうか。

とはいえ、今まずは冷え切った国内マーケットを、需要喚起キャンペーンなどで刺激し、徐々に回復させながら需要の偏り(時間、時季、地域)を、なだらかにしていくことが先決です。需要をなだらかにするとは、どういうことか?例えば、以下のようなことが考えられます。

☑ワーケーションやブレジャーで「平日」と「閑散期」をうめる
 日本生産性本部の調査によると、コロナ禍収束後もテレワークを続けたいかの問いに、「そう思う」が24・3%。「どちらかといえばそう思う」(38・4%)も含め前向きな意向が6割を超えたそうです。私も、できうるなら引き続きテレワークがしたいです。満員電車も今や恐怖ですし、その時間も勿体ない。場所に関係なく、仕事ができるならそれが一番。


▲日本生産性本部のレポート。なかなか読み応えあります。需要予測などご関心のある方はどうぞ。


というように、テレワークの浸透によって「いつでも、どこでも働ける」ことを知った私たち。働き方や休暇に対する考え方も価値観も大きく変化しはじめています。それにより「ワーケーション」や「ブレジャー」※の需要が、今後高まることが予想され、これまで苦戦していた平日や閑散期をこれらの需要で埋めていくことは十分可能だと考えます。


※「ワーケーション(Workation)」
Work(働く)とVacation(休暇)の造語。旅行しながら働くこと。

※「ブレジャー(Bleisure)」
Business(仕事)とleisure(余暇)の造語。出張の前後に個人旅行を組み合わせること。



☑人数制限、事前予約制、混雑情報の提供で、「時間」「場所」を分散
 これまで以上に「混雑した場所・時間」を避ける需要が高まります。今までは「人数制限、事前予約」となると、少しめんどくさくてネガティブなイメージがありましたが、今後は、それがむしろ価値になり、適切な価格設定にもつながると思います。
 例えば、誰もが知っているスペインの「サグラダ・ファミリア」。世界各地から年間約300万人もの人たちが訪れる超有名観光スポットです。
ここでは、旅マエ段階に、公式サイトを通じて日程、入場時間を選択し事前予約と決済が可能です。当日はチケットを持参するだけ。また、価格によって様々なコースが設定されています。これにより、適正人数と品質管理がなされているのです。


☑混雑情報の提供で「時間」、「場所」を分散
 すでに京都市公式サイトで「観光快適度」というかたちで、市内の混雑情報の提供がされています。旅行日、場所(エリア)、時間帯はもちろん、その日の天候によっても情報が切り替わります。すごい…!
 今後、こういった情報はますます価値につながると思います。これは地域だけでなく、例えば、旅館やホテル(レストラン、入浴場、アクテビティなど)、美術館や観光施設においても、同じことが求められ、同じく価値や満足度につながっていくと思います。

▲京都市公式の「京都観光Navi」
ステイホーム期間から、しっかりと京都の魅力を発信しつづけ、旅人との関係構築に余念がない。


☑ナイトタイムエコノミーで、空いた「時間」に新たな需要を生み出す
 ナイトタイムエコノミーという言葉を聞くと、夜の活動をイメージしますが、正しくは「日没から日の出までの経済活動」を指します。この夜間に行われる様々な活動を通じて、地域文化の理解や消費拡大につなげるのが、ナイトタイムエコノミーの考え方です。
 例えば、山形県の天童市では、地域果樹園と連携した「朝摘みさくらんぼツアー」が人気です。私も実際に参加しました。旅先では、日中につい予定を詰め込みがちですが、意外と早朝はすっぽり時間が空いていたりしませんか?その空き時間に着目したのがこのツアー。じつは、さくらんぼは、夜間にぎゅっと甘みを蓄えて、気温が上がる前のひんやりした早朝が一番美味しいのだそうです。そういう地域らしさやストーリー性も素晴らしく、これだけでひとつ記事を書けそうですが、この取り組みによって、これまで需要のなかった早朝を活用することで、日中の果物狩りの混雑緩和にも貢献。また、早朝ということで、この地域へ滞在・宿泊する動機づけにもつながっています。…さくらんぼ、美味しかったなぁ。

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▲朝摘みさくらんぼツアーに込めた思い。DMC天童温泉 鈴木さんのインタビュー記事。


…、というような取り組みを通じ、需要をなだらかにしながら、地域や企業が、適切な人数と質との着地点をそれぞれ追究していく。当然、地域や企業によって、異なるものになるだろうし、それでいいのだとおもいます。誰かと比較しない、自分の物差しを持つということ。需要がまっさらになった今が、考え実行するチャンスだと思っています。

そして、そのためには、新しい指標も必要であり、日本の観光にとってそれが何なのかを、安売りせずに価値あるものを適正な価格で提供することを真剣に考えるということだと思います。また、私は、そのことによって、観光産業の地位向上、人材確保、働き方改革、生産性向上、オーバーツーリズムの解消、といった、もともとあった産業課題解決の糸口にも、つながると考えています。



2. 休暇改革と需要の平準化

 テレワークが定着しつつあること、また、それによってこれまで苦戦していた「平日」や「閑散期」などを埋めて、需要を平準化していくことが可能ではないか、というのは前述のとおりです。そこにもっとブーストをかけるためには、やはり休暇のあり方を、働き方改革とともに、しっかりと考えることです。
 観光庁では、ポジティブオフなど休暇改革に関する政策はもちろんのこと、過去に、「休暇の分散化」に関する検討を行っていた時期がありました。この議論は観光に限らず、社会全体を巻き込むということもあり、当時はなかなか取り組みが進んでいかなかったという経緯があります。
テレワークの浸透によって、働き方の価値観も変わった今だからこそ、「休む」ということについても、深堀りして考える土壌が整ったように感じます。企業における有給休暇取得促進やそこへのメリットなどを打ち出すことによって、顕在化していない旅行需要をさらに掘り起こせるのではないかと思います。


3.「適切な」需要喚起と観光客の受入れ

 間も無く政府による需要喚起キャンペーンが開始になります。また、それに先駆けて、すでに解除宣言がだされた自治体では、県民や市民限定の域内キャンペーンもすでに展開されています。まずは、何をさしおいても国内から!というのは、他国も同じようです。冷え切った国内需要を刺激し、温めていく。「旅をしてもいいんだ!」という空気をつくる。観光を通じて域内の他産業にも活力を与える、まさに観光だからできることだと思います。
 ただ、ここで気を付けたいのが、これまでの分を取り戻そうという焦りから、一気にお客様を受入れしてしまうこと。感染リスクが高まるのと、観光業界や自治体は儲けのために、町に早々と人を招き入れるのか?という地域住民との軋轢も生まれかねない。そこは慎重に受け入れていく必要があると思います。そもそも、ソーシャルディスタンスを考慮すると、いきなり100%フル稼働はできないでしょうし(ゆとりを持った接客、空間配慮、導線、スタッフ配置・サービス)、するべきではないということ。今まさに現場では、とくに衛生面に配慮した受入体制を整えている段階かと思いますが、まずは40〜60%くらいの稼働でオペレーションしていくのが望ましいと思います。その中で、付加価値を高め、また持続可能性を意識しながら、サービスや受入体制を再構築していくことだと思います。


4. ニューノーマルへの対応状況の可視化(水際対策、危機管理、認証制度)

 すでに各業界団体において、ガイドラインが策定されていますが、各事業者における、それらの順守状況や、万が一、感染者が出てしまった場合の対処方針(危機管理)の可視化が、とても重要になってくると思います。
具体的には、自社ホームページや旅行会社やOTAなど予約販売時にそれらの情報が確認できること、ポスターなどでの館内アナウンスが考えられます。また、自治体ごとの水際対策の実施とその情報開示も重要です。例えば、沖縄県石垣市では、6月1日から市外からの観光客受け入れを再開しますが、その際には1週間以上の長期滞在者に限定するといった方針を掲げています。加えて、市と宿泊事業者とて感染予防策に関する協定を締結、締結宿泊事業者には、ステッカー・シールを配布するとともに観光客向けに市のホームページで施設の紹介をするようです。

 こうしたことを考えると、今後は、宿泊施設の認証制度において、誰もが一目で分かるような仕組みが必要になると思います。当然、これは国内だけでなく、いずれ戻ってくるであろうインバウンドに対しても確実に届ける必要があります。
 ちなみに、この衛生管理や細やかな対応は、「清潔、クリーン、安全」がもともと売りだった日本が、最も得意とする要素でもあります。これまで以上にこれらの要素に対する需要が高まることが予想されますので、これがインバウンド回復時の日本の強みになるのは確実です。



5. ビジネスモデルの変革(脱・観光)

 マーケットは、団体客から個人客(FIT)へ変化している、と言われて久しいですが、成功体験を引きずり、まだまだ古き良き団体旅行時代の名残を残した薄利多売のビジネスモデルが染みついてしまっている観光産業。今まさにそこからの脱却の時だと思っています。薄利多売から高利少売(という言葉は無いですが)へ。
 例えば、一部のホテル・旅館では、週末や連休は目が回るほど忙しいけれど、平日は閑古鳥が鳴いている。それを、需要を平準化させながら、スタッフが「疲弊しながらお客様をさばく」状態から「いつでも最高のサービスが提供できる」状態にもっていくこと。宿にとっての、量と質の着地点をみつける。
 また、宿は地域の衣食住を体験できるショールームのような存在であり、もはや泊るだけが宿ではないと思います。例えば、ECがこれだけ発展しているので、調理場から料理長自慢の料理を届けるもよし、女将によるオンライン着付け教室をするもよし、地域の特産品や工芸品を届けるもよし、しばらくはフル稼働にならないので遊休施設をワーケーション向けに時間貸しするもよし。業態にとらわれる必要はないと思います。それが、リスクヘッジにもつながりますし、実はマーケティングに寄与することも。宿は泊ったことないけど、お取り寄せした料理長のお料理から宿のことを知るということだってあり得るわけです。いろんなフックをつくることは有効だと思います。そういう意味で、宿は、地域の魅力を五感を使って体感できるメディアのような存在なのかも知れません。そう思うと、どんどん可能性がひろがるような気がします


6. 観光政策のアップデート

 最後は、自分の首がしまりそうですが、これらのことを後押しするための、仕組みづくりや土壌づくり、指針づくりは、やはり自治体や国といった行政の役割だと思っています。そのためには、他国や国際機関のスタンスも横目でにらみながら、現場の感覚に寄り添い伴走する、し続けるということだと思っています。
 自戒を込めて、行政はどうしてもフットワークがあまりよくない、融通が効かないことが多々ありますが、我々も「いまだから」飛び込めること、変えられること、できることに対して、頭を柔らかく、柔軟に、しなやかに動きたい。
この転換期が、私たちにとっての転換期にもなればいいなとおもっています。


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