(短編小説)”もしもな国”の”もしもの学校” #こんな学校あったらいいな
この記事は ポプラ社こどもの本編集部とnote合同企画 #こんな学校あったらいいな に応募用の短編小説です。
「ねぇお母さん、お風呂の間そばに来てよ~」
「う~ん。たろちゃんもうすぐミルクの時間なんよ~。こまちゃん一人でお風呂ムリかな~」
お母さんはたろちゃんたろちゃんで私のことをかまってくれなくなった。たろちゃんは生まれたばかりの赤ちゃんだからしょうがない。でもお母さんが私だけのお母さんじゃなくなって私のハートはばこんとなったままだ。
湯船で水鉄砲したり、お湯につけた手を傾けて小さい手を作ったり、待った。お母さん来ないかもしれないけど、待った。
「また私の手もこんなちっちゃく…ならないんかなぁ」
ガチャッ
あっ、とうちゃん帰ってきたんか。
とうちゃん帰ってきてくれたら、お母さん来てくれるかも。
「こまちゃん。髪の毛洗ってあげるよ。」
お母さん!
お母さんがシャンプーをしてくれた。
シャンプーの泡を鼻とほっぺに付けてご機嫌になった。
「お母さんもしもごっこしよう。もしも○○だったらどうしたい?の話。」
「お風呂の時間長くなっちゃうから、寝る時にまたね。」
どうせまたできないんだ。
たろちゃんが生まれてからお母さんは約束をいっぱい守ってくれなくなったもん。
パジャマに着替えて寝室に行ったら、たろちゃんが寝ていた。
たろちゃんの横にごろんとしてこまちゃんは考えました。
「もしも、もしも何でも夢が叶うなら、何を願うかな…。」
*****
「起きて下さい!遅れますよ!」
寝てしまってたみたいです。
こまちゃんが目を開けると、たろちゃんが立ってました。
なんで?たろちゃんが…立ってる…?
こまちゃんはなんだかよくわかりません。
たろちゃんを見ると立ってるだけでなくてなんかおかしい…
たろちゃんは赤ちゃんなのにとうちゃんみたいな格好をして、「起きて下さい」なんて言葉を使ってる…えっなんで?
「こまちゃん総理、今日もスケジュールはいっぱいです。出かけないと間に合いませんよ。」
「そーりって?えっ?」
「何言ってるんですか。まだ頭が起きてないんですか?あなたはこの”もしもな国”の総理じゃないですか。早く着替えて出かけないと。」
「総理~~~???」
こまちゃんはわけもわからないまま、着替えなきゃいけないのは確かだと着替え始めました。言われるがままに外に出ると車が待ってます。
運転手さんが車のドアを開けてくれ、促されるままこまちゃんが乗り込むと、今度は運転手さんはたろちゃんを抱きかかえて座席に乗せてくれました。ちぐはぐだらけなことにこまちゃんは気持ちがついていきません。
とにかく今は赤ちゃんなのになんだか働く大人なたろちゃんに付き合ってみるしかなさそうです。
「総理、本日は早速通った法案『毎日必ず国民の話を直接聞く法』が始まります。今日は”もしもな国”の新しい学校作りのために”もしもの学校”のみなさん達のお話を伺っていきます。」
とりあえず、”もしもな国”の総理である自分は今から新しい学校を作っていくようです。
そう言えば、いつかお母さんともしも総理大臣になったらって話した時に「国民全員と話すって言ったか、、私。とりあえずもしもごっこみたいなもんかなこれ…。」
もしもの学校に着いたようです。
あらあら出迎えてくれたのはこまちゃんがいつも通ってる学校の校長先生たちです。
「総理お待ちしておりました。本日はよろしくお願いいたします。」
中に入っていくと、いつもこまちゃんが会っている子達や先生ばかりです。でもこまちゃんだけがみんなから総理と思われています。
こまちゃんは不思議だけど総理になってみることにしました。
たろちゃんは秘書みたいで早速、部屋に一人一人を呼んでいきます。
最初は同じクラスのりんちゃんでした。
こまちゃんはいつもはお母さんとしているもしもごっこのやり方で話をすすめてみます。
「もしあなたが好きな学校を作れるとしたら、どんな学校がいいですか?」
りんちゃんは答えました。
「私は動物が好きなのに家では飼うことができないので、動物が飼える学校がいいです。」
なるほど。確かにいいなぁ。
そうやって一人一人に話を聞いていきました。
「もっと休みがほしいです」
「登校する時間が遅い方がいい」
「宿題がない学校」
「体育なくていいよ」
こまちゃんも最初はいいなぁと思って聞いていました。
登校時間はよし10時くらいにしよう。
毎週土日以外にもう一日休みにしよう。水曜日は休み。
給食は好きなメニューを選べて。
宿題はなくす…
私も運動苦手だから体育やめようっと。
こまちゃんは早速もしもの学校でまずやってみようと決めます。
魔法でもかかったみたいにこまちゃん総理がやると言ったことはどんどん決まっていきました。こまちゃんはだんだんちょっと気分がよくなっていきました。
それから数日、話を聞きながら変えてとやってるうちに学校の先生たちから困ったことになっているという声が日に日に増えていきました。
「朝、子どもだけを残すと親が仕事に出かけられないから早く学校に登校させてほしい」
「給食費が増えるんじゃないか」
「宿題なくして、学力は大丈夫なのか」
こんな声が親御さんたちから上がってきています。
こまちゃんはまだ学校全員の話を聞き終えてません。
こまちゃんは急いで学校にかけつけ、そこでクラスメイトのみなみちゃんに会いました。
あっみなみちゃん。
「あのぅ…水曜日…学校来ちゃいけませんか?」
「えっ学校に来たいの?」
「うちはお母さんが家にいないから、水曜日お父さん仕事休めないし。」
こまちゃんはみなみちゃんのお家のことを知りませんでした。
今度はこうた君がかけよってきました。
「ねぇ、総理大臣さん、僕は勉強より体育のほうが好きなのに体育しなくなっちゃったらイヤだよ。」
こまちゃんはこれは困ったことになっちゃうなと思いました。
みんなの話を聞けば聞くほど、みんなの願いを叶えるのが難しくなってきそうだ、どうすればいいのだろう。
みんな好きなものも違うし、得意なものも違う。
お家の事情も違う。
違うみんながそれぞれ学校に通うのが楽しくなるようにするにはどうすればいいの?
こまちゃんは学校の校長先生にお願いをしました。
「あのぅ。子どもたちや先生たちとみんなで話すことはできますか?」
それから体育館にみんな集まってもらいました。
こまちゃんはみんなに聞きました。
「体育が好きな子もいれば、嫌いな子もいて。お休みが増えたほうがいい子も困る子もいて。やりたいことも得意なこともバラバラなみんなが通いたい学校ってどうやって作ればいいと思いますか?」
4年生の男の子が手を上げて発言しました。
「僕は水曜日は休みになってほしいので多数決で決めればいいと思います。」
教頭先生が
「でもお家でお留守番できない子たちは学校に来れないと困るみたいなんだ。多数決でお休みになることが決まったとしたらその子たちはどうすればいいのかな。」
6年生の男の子が言いました。
「その子たちだけ学校来たらいんじゃない?」
そしたら今度は6年生の女の子が言いました。
「そしたら水曜に学校来た子とお休みの子たちの授業のペースが合わなくなってくるよ。」
だんだんみんなそれぞれに発言をし始めてざわざわし始めました。
そうするとさっき会ったこまちゃんのクラスメイトのみなみちゃんが手を上げました。
みなみちゃんはいつも手を上げて発表するタイプじゃないので、こまちゃんはびっくりしました。
みなみちゃんは小さい声で
「あのっ、選べればいいと思います…。水曜日は自由登校日はどうですか?」
「でも休んだ人と休まない人の授業はどうする?」と声がどこかから上がりました。
「水曜日は自習にすればいいんじゃない?」とまた声が上がりました。
こまちゃん総理は思いました。
「選べるっていんじゃないかな」
そしてみんなに提案しました。
「勉強もみんなバラバラでいんじゃないかな。算数はすごく簡単に感じるのに、漢字はなかなか覚えられない子は算数はどんどん進んでいっていいし、漢字はゆっくりがいいかもしれない。自分のペースでできれば。」
これはこまちゃんのことでした。
こまちゃんは漢字が苦手で進むのが早いことに困っていました。
でも算数はもっと先のことが勉強してみたいのです。
みんなまたそれぞれザワザワし始めました。
こまちゃんがまた発言しようと思った時に校長先生が手を上げました。
「総理、ちょっとよろしいですか?」
こまちゃんがうなずいたら校長先生は続けました。
「選べるものは選んでいくようにしていくのはいいのではないでしょうか。ただ私は体育が嫌いだったり苦手な子にも全く体育をしないでいいよというのも少し気になります。その場合は体育の中で何かその子たちがやりたくなるものをできるだけ一緒に探したい。それは運動に限らず遊びかもしれない。そして困ったことが起こったらまた子どもたちとどうすればいいかをみんなで考えていったらどうでしょうか。」
こまちゃんは子ども達も先生達もうなずいている人が多いように見えました。
*****
こまちゃん総理は新しい学校を「みんなで作っていく学校」にすることにしました。
秘書のたろちゃんが言いました。
「総理、次はどうしますか?」
こまちゃんは何がいいかなぁと頬杖して考えました。
誰かが肩をトントンとしました。
トントン、トントン…トントン
「こまちゃん、こまちゃん。」
お母さんがこまちゃんを起こしていました。
「うん?あれ?たろちゃんは?」
「たろちゃんはまだ眠ってるよ。たろちゃんが起きない内に朝ご飯食べちゃおう。」
たろちゃんは両手をバンザイしてすーすー眠っています。
なんだ、、そうだよね、夢だよね。
たろちゃんが立ってるとこからもう夢だよね…
こまちゃんは、やっと、総理と呼ばれることに慣れてきた気がしてたのにな…とちょっと寂しく感じながらまだ夢の続きにいたかったと思うのでした。
起き上がって、部屋を出ようとドアに歩いていくと声が聞こえました。
「そーり!」
(おわり)
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