トラウマケアの基礎理論①「トラウマケアの3段階」
このシリーズでは、昨今盛んなトラウマケアに関する、現在的な知見をお伝えしていきます。
すべての人ではないですが、「カウンセリングを受けたら、むしろ具合が悪くなった」
という経験はないでしょうか?
これは決して珍しくはないことで、理由はさまざまだとは思いますが、ある1つの視点が欠けていることに起因していることがあります。
それがまさに今回フォーカスしたい「トラウマ」の視点です。
トラウマとはなんでしょう?
トラウマは、「心的外傷」と日本語では訳されていますが、大小含む、広い意味での「こころの傷つき」のことを指します。
・災害や戦争のような国家規模でのトラウマ
・いじめやハラスメントといった、対人関係レベルのもの
・虐待やネグレクト、過度な躾、叱責、教育虐待、愛着不全など、
家庭レベルで起きるもの
があります。
多くの人にとって、本来は忘れられ、過去になることで出来事は終わりますが、
体験が強すぎたり起きた後のケアがなされないでいると、そのまま出来事が消化されず、本人にとって「終わっていない」記憶となり、トラウマとなりえます。
○トラウマ的な背景がある場合、
→ひと工夫が必要です
なぜか?
カウンセリングで心のフタを開けたときに「自動的に」ネガティブな考えや感情がでてきて、圧倒されてしまうからです。
ご本人はよくなりたいから、頑張って話そうとされます。
カウンセラーもそれを勇気づけます。
過去の出来事を吐き出すことが良いことだと、一般的に多くのカウンセリングでは考えられている節があります。もちろんそれは一つの療法として存在し、意味があり、否定するものではありません。
しかし、トラウマが背景にある場合は、話が別なのです。
一般的に想定されているカウンセリングでは、相手が出来事を話しても大丈夫なまま、家へ帰り、翌日からまた日常生活に戻っていけるという、暗黙の想定があります。
しかし、トラウマによって蓋を開けられた出来事の「記憶」は、「ご本人の意志のコントロールを越えて」、その後も勝手に意識の中に出て来続けてしまうのです。
例えば、
・あの時話したことは、あの表現で良かったのだろうか
・思い出した後で、1週間〜2週間くらい、内容をひきづってしまった
・相手に変だと思われなかっただろうか
・距離が近くなって、より知られていくことが怖い
・自分のことを責めてしまうことが増えた
などです。
頭では、カウンセリングに向かいたいのに、しんどさが上回ってしまう。
それによって良くなるはずのカウンセリングで、逆に社会生活に支障を感じやすくなる。
この「自動的に」「意思に反して」というのが、トラウマの特徴です。
こうした反応は、実は「脳が過去の脅威がまだ終わっていないと勘違いしているために、自分を守る本能的な防御反応で出ている」のですが、
このことがセラピー関係の中で共有されていないと、それへの対処を話し合う前に、
再びそれを吐き出す方向で、話し合いが進んでしまいます。
正直、私自身も病院臨床をしていた時代、トラウマについて知らずにこれをしてしまっていたケースが今振り返ると、いくつかあります。
病院はカウンセリングをして当たり前のところ。しかしその病院で出会う方々には、それ以前にトラウマティックな体験が前提として散見されるのケースが大半なのも、また実情だったのです。(今考えてみれば、むしろ自然な話です。一般層よりも過酷な体験があって当然です。)
閑話休題。
トラウマ背景の場合は、特殊な視点が必要という話でした。
そこで必要なのが、トラウマ臨床で有名な、米・ジュディス・ハーマンの提唱した、段階的なステップです。
ステップ①「安定化」
ステップ②「トラウマ記憶の処理」
ステップ③「再統合」
のプロセスをたどります
■ここで重要なのは、
「いきなりトラウマ記憶を処理しようとしない」という点です。
感情に圧倒されても「普段の私」にすぐ戻ってこれるような対処のスキルを身につける。引き出しを沢山つくっておく、反応についての理解を深めたり、リラクゼーションスキルを身につける…etc
=安心を沢山用意する。
例えるなら、
「登山する前の必要な知識や道具を身につけること」です。
この作業を、
ステップ①「安定化」
と呼びます。いきなり何か話さないといけないのかな…よりは雑談してリラックスすることもこの時期は大切であったりもします。人によっては、あえてここでじっくり時間をかける時もあります。(半年〜1、2年必要な時もあります。その間、別なアプローチも試みるわけですが)
→つづきはまた追って次回!
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