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ギモーヴ

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横森理香さんの文章修行講座で小説を書いてます。パリのコルドンブルーでお菓子修行中の日本人女学生の話です。
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ギモーブ④ パリの中絶

ギモーブ④ パリの中絶

               

フランスはカトリックの国である。ホームステイ先のマダムは敬虔なカトリック信者で、食べものを残すと異様に怒った。

「食べたくても食べられない人も居るのだから」

と言って。

ここはマダムと娘のセシル、留学生三~四人がいる下宿屋だ。住み始めて二、三ヶ月の頃、アメリカ人大学生ベスがやって来た。ベスは典型的な今どきの大学生で、部

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ギモーヴ③パリの悪夢

ギモーヴ③パリの悪夢

           

電話の相手は泣いている。

「パるドン? キェす?(すみません、どなたですか?)」

「あっ、ハル、ごめんね、ひろみです。今ちょっと話せる?」

地味で真面目なひろみだった。

「うん、大丈夫」

「私、妊娠したみたい」

「えっ?」

ハルはびっくりして、椅子から転げ落ちそうになってた。何故ならそれまで、ひろみには男の影が全くしなかったからである。

「ひ、ひろみ、彼氏

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ギモーヴ⑥ アデュー、パリ

ギモーヴ⑥ アデュー、パリ

「こんなことってあるんだな・・・」

と思いながら、ハルは恋に勉強に充実した毎日を送るようになった。クリスはハルをとても大事にしてくれて、ハルは恋人たちの街パリで、それまで経験したことがないような幸せを噛みしめていた。

しかし、この幸せはあっけなく、粉砂糖で作ったお城のように、崩れてしまった。

ある日、ハルが卒業試験に向けて勉強していると、クリスから電話がかかってきた。

「ハル~、受かったよ

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ギモーヴ⑤パリのアムール

ギモーヴ⑤パリのアムール

フランス人にとってのフェット(パーティ)はとても重要だ。彼らは日本人には想像もつかないくらい、家族、そして友達を大事にする。もちろん、家族が一番大切で、二番目は友達。恋人のポジションは、友達と家族の間を行ったり来たりする流動的な物。

職場の上司、同僚なんかはどうでも良い存在で、もちろんその中から、友達や恋人も作るけれど、友達でもない同僚との人間関係に悩むなんて、皆無だ。

彼らの社交性は、小さい

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ギモーヴ

ギモーヴ

それは、母の再婚がきっかけだった。
父と別れて五年、母は馴染みの酒場で知り合った男と再婚した。もう五十代も終わりになろうとしていたし、父との離婚で散々な思いをしたから、何でいまさら? と思った。
ハルがたずねると母は嬉しそうに言った。
「話が面白いのよ。あの人の話、もっと聞きたくって」
年頃の娘がいる家に男を住まわせることを、なんとも思わない母も不思議だったが、娘の心配より男のことで頭がいっ

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ギモーヴ②鯖はサバではない。

ギモーヴ②鯖はサバではない。

                        

翌日、授業が始まった。八時半からだったので、七時半に家を出た。
「ボンジュール、マドモアゼル、サバ?」
地下鉄でキオスクのおじさんに挨拶される。私は元気よく答える。
「サバ!」
サバは鯖ではない。フランス語で「元気」の意味だ。しかしこの言葉を耳にし、口にするたび、日本人の頭には鯖が浮かぶ。鯖びやん。

パリはキオスクのおじさんすら愛想が良い。特

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