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お腹が空く、おいしい一冊

今日は最近読んだ本をご紹介します。

表紙を見た瞬間手に取っていました。おいしそう・・・。そして読みはじめたらどんどんひきこまれました。中国語の料理名や調理法の漢字に込められた意味の解説がなんともおもしろいのです。

たとえば肉の切り方。中国料理では肉の切り方も規格が決まっていて、切ったものの大きさと形状で名称が分かれるそう。「肉末」といえば一番小さいひき肉状態のもので、かたまり肉から細かく切っていく。「肉丁」といえば賽の目切り。「肉片」といえば薄切り、などなど。日本のレシピでよくみる、食べやすい大きさに切る、なんてぼんやりした表現はしない。孔子は、「論語」の中で、「割不正、不食(切り方が間違っていたら、食べない)」とはっきりおっしゃっているそう。私のいつもの適当料理、絶対召し上がっていただけないだろうな・・・。

青椒肉絲の、料理名にこめられた意味

タイトルにもなっている、青椒肉絲。青椒はピーマン、肉絲は豚肉のせん切り。なんだ、材料そのままの名前かと思いきや、そこにはさらに深い意味が。せん切りを指す絲という感じは、糸の旧字体ですが、ただの糸ではなく、絹糸を指すのだそう。木綿や麻など他の糸は、中国語では「線」となり、「絲」を使う絹糸は格段に地位が高い。

青椒肉絲を「ピーマンと豚肉のせん切り炒め」と訳すことは、直接的な意味としては間違いではありませんが、肉絲という語が喚起するイメージを完全に伝えているとは言えません。肉絲はあくまでも豚肉の絹糸切りであり、その繊細な絲が油をまとい絹のように輝く姿が明確にイメージされているのです。

「青椒肉絲の絲、麻婆豆腐の麻」新井一二三著

お皿のうえできらきらと輝く青椒肉絲が目に浮かびます。この本を読んだ後、出かけた先で「本日のランチ 青椒肉絲定食」という文字をみて、中華料理店に飛び込んだのは言うまでもありません。一緒にランチを食べた夫に絹糸の話を語りながら、熱々をほおばりつつ、最高の昼食となったのでした。

中国料理の理論の奥深さ

中国料理の解説にあいまい、感覚的な表現はほとんど出てきません。献立をたて、調理するに当たっては、入手可能な食材を出発点として、前掲したさまざまな切り方、加熱方法、味付けなどを、まるでパズルかレゴブロックを組み立てるように、選び、構成して、出来上がりに向けて進んでいきます。つまり、中国料理の本質がパズルであるために、一つのパーツを取り替えることで無限にバリエーションを広げることが可能になるのです。

「青椒肉絲の絲、麻婆豆腐の麻」新井一二三著

私は漢方を専門にしているのですが、漢方理論を学んでいても、その壮大かつ緻密な理論に驚かされることばかりです。漢方薬も、その成分は1種類ではなく、いくつもの生薬の組み合わせ。なぜその組み合わせで、その処方が成り立っているのかは、まさにこの中国料理のレシピと同じで、深い理論をもとに緻密に計算されています。それでは必ず例外はないのかといえば、逆で、深い理論があるからこそ、その薬を飲む人ひとりひとりの状態に合わせて細かい調整を行うことができる。この中国料理の理論の、パズルのように無限にバリエーションを広げることができるというのは、漢方薬を勉強していても通じるものがあるなあと深く納得させられました。

食にたいする貪欲さは、生きる力そのもの

読んでいくうち、中国料理の奥深さ、ひいては、生きる力そのもの、エネルギーそのものを見せつけられたような気がします。食べたものによって、私たちは日々生きている。最低限の栄養がとれれば体の維持はできますが、ただ必要な栄養をとるというだけではなく、同じ食べるのであればいかにおいしく、栄養も逃さず、最高の状態で食べるか。そこを追求していく姿勢は、生き抜く力そのもののような気がするのです。

さて、今日もおいしくごはんをいただくぞ!次の食事が楽しみになる、そんな1冊でした。

こころからだ漢方
natsume


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