シアスター・ゲイツのアートワークの視点： 工芸、捨てられた知識、批評的記憶（論文読）
2024.09.01まで森美術館で展示会「アフロ民藝」が開催中のシアスター・ゲイツ。彼についての論文「シアスター・ゲイツのアートワークの視点： 工芸、捨てられた知識、批評的記憶」を読み、ブログにまとめています。
シアスター・ゲイツについて
公式サイトや、彼を理解する上で必要な情報をリンクに貼っておきます。
論文について
今回、ブログにしている論文が掲載されているリンクです。英文ですが、参考までにご覧ください。
著者
論文を読み、以下にまとめました。
シアスター・ゲイツ：アートとコミュニティを繋ぐシカゴのアーティスト
シアスター・ゲイツは、シカゴを拠点に活動するアーティストで、伝統的なアートの枠を超え、コミュニティの活動家としても知られています。
彼の作品は、アートを社会変革のツールとして用いる独自のアプローチによって、芸術と都市の変容を結びつけています。
初期の人生とアーティストとしての始まり
1973年、シカゴの西側で生まれ育ったゲイツは、経済的な困難や人種的な緊張が色濃く残る環境の中で成長しました。
この経験は彼の作品に深い影響を与え、コミュニティや歴史、社会正義といったテーマに焦点を当てるようになります。もともとは陶芸家として訓練を受けたゲイツですが、やがて彫刻やパフォーマンス、都市開発など、さまざまなメディアにその活動を広げていきました。
ドーチェスター・プロジェクトとコミュニティの変革
ゲイツの最も有名なプロジェクトの一つに「ドーチェスター・プロジェクト」があります。2009年にシカゴ南部で始まったこのプロジェクトでは、放置されていた建物群を文化的な拠点に変えるという試みが行われました。これらの建物は現在、アーカイブや図書館、クリエイティブなコミュニティ活動のためのスペースとして利用されています。ドーチェスター・プロジェクトは、アートがコミュニティ再生の触媒となり得ることを示す典型例です。ゲイツはこれらの建物を再利用することで、地域の歴史を保存するとともに、新たな文化的・社会的な可能性の場を創り出しました。
2007年にシカゴで最も治安の悪い貧困地区、サウスサイドに引っ越したアーティストのシアスター・ゲイツは、黒人文化の豊かな遺産が危機に瀕していることを実感する。そして2009年、放置されていた隣の空き家を買い取り、シカゴ中から集めた廃材を使って美的、機能的に改修。閉店した書店から14,000冊の書籍、シカゴ大学のアーカイブから60,000枚の映写用スライド、閉店したレコード店から8,000枚のビニールレコード盤を買い取り、それらを収蔵しながら活用する、アートを通じた活気あるコミュニティ・スペースにリノベートした（アーカイブ・ハウスとリスニング・ハウス）。2011年には、黒人映画の上映や地元の若者対象のビデオ教室を行うスペースも開設（ブラックシネマ・ハウス）。これら一連のゲイツの活動は、建物の立地場所にちなんで、「ドーチェスター・プロジェクト」と呼ばれている。
都市空間の再構築
ゲイツの作品はしばしば、都市空間とその利用者に対する従来の考え方に挑戦しています。その好例が「ストーニーアイランド・アーツバンク」です。ゲイツはシカゴ南部にある老朽化した元銀行を購入し、活気ある文化施設に変えました。現在、このアーツバンクはギャラリー、図書館、アーカイブとして機能しており、レコードからエボニー誌とジェット誌の創設者ジョン・H・ジョンソンの個人コレクションまで、さまざまなコレクションが収蔵されています。このように、ゲイツは都市の放置された空間がいかにしてコミュニティのために再活用され得るかを示しています。
ウィリアム・ギボンズ・ウッフェンデルが設計し、1923年に建てられたこの銀行は、68丁目とストーニー・アイランドに位置し、かつては地域の貯蓄貸付機関として活気に満ちていた。 現在、復元されたストーニー・アイランド・アーツ・バンクは、シカゴのサウスサイドに17,000平方フィートのスペースを提供し、コンテンポラリー・アートとアーカイブの革新に貢献している。 ストーニー・アイランドのプログラムには、黒人による、あるいは黒人についての映画を毎週無料で上映し、分析的なディスカッションを行うアーツ・バンク・シネマや、地元のアーティストがキュレーションし、地元のアーティストと共同で開催する展覧会などがある。
アートと社会的実践
ゲイツのアプローチは「ソーシャルプラクティス」として知られ、アート制作の過程がコミュニティとの関わりや活動と密接に結びついています。彼のプロジェクトは、しばしば人種や階級、歴史といった問題に取り組んでおり、アーティストと活動家の境界を曖昧にしています。廃墟となった建物を再生することや歴史的な物語を掘り起こすことなど、ゲイツの作品は常にコミュニティの生活を向上させることを目指しています。
世界的な評価と影響
ゲイツの作品はシカゴに深く根ざしていますが、その影響は世界中に広がっています。彼は世界の主要な美術館やギャラリーで作品を展示しており、多くの賞や栄誉を受けています。しかし、ゲイツはグローバルな認知を得ながらも、地元コミュニティへの貢献を続け、重要な社会問題に対するアートの役割を模索し続けています。
まとめ
シアスター・ゲイツは単なるアーティストではなく、社会変革のためにその創造的才能を発揮するビジョナリーです。彼の作品は、アートが空間だけでなく、コミュニティ全体を変革する力を持つことを証明しています。ゲイツはアートとアクティビズムの橋渡しをすることで、アーティストがどのようにして世界に意味のある、そして影響力のある関わり方ができるかを示しています。彼のプロジェクトは、アートが単なるギャラリーや美術館のためのものでなく、社会変革のための重要なツールであることを私たちに思い起こさせてくれます。
論文和訳
以下には実際の論文の和訳も載せておきます。読みたい方がいましたら、ご覧ください。
はじめに
シアスター・ゲイツ（Theaster Gates）は、今日最も注目されているアーティストの一人であり、その作品は多くの批評的な関心を集めています。彼の芸術実践は、視覚芸術、建築、音楽、パフォーマンス、都市再生、コミュニティの再編成など、多岐にわたる分野にまたがっています。ゲイツは、これらの異なるメディアや方法を組み合わせることで、社会的な意義を持つ芸術作品を生み出しており、その多くがコミュニティの活性化や都市の再生に直接的に関わっています。
ゲイツの作品は、しばしば物質性と社会的な変革の可能性を探求するものです。彼は、廃墟となった建物や、使用されなくなった素材を新たに生かし、アートとコミュニティの再生を目指しています。ゲイツにとって、アートは単なる美的な表現手段ではなく、社会的な変革のためのツールであり、彼の作品はその信念を体現しています。
この論文では、シアスター・ゲイツの作品とその背景について詳しく考察し、彼がいかにして物質性を通じて社会的および文化的なメッセージを伝えているかを探求します。特に、彼の作品における粘土という素材の使用に焦点を当て、その象徴性と文化的な意義を明らかにします。
シアスター・ゲイツの芸術的実践
シアスター・ゲイツは、1973年にシカゴで生まれ、シカゴ大学で宗教学と都市計画を学びました。彼の多面的な背景は、彼の芸術的実践に大きな影響を与えており、彼の作品は、しばしば都市計画、宗教、文化的アイデンティティなど、彼の学問的な関心と密接に結びついています。
ゲイツの代表的なプロジェクトの一つである「ドーチェスター・プロジェクト（The Dorchester Project）」は、シカゴの南部地域に位置する廃墟となった建物を、コミュニティの文化的ハブに変換する試みです。このプロジェクトは、地域社会の歴史や文化を保存し、再活性化することを目的としており、アートがコミュニティの再生に果たす役割を探求しています。
粘土の象徴性とその使用
ゲイツにとって、粘土は彼の芸術的実践において中心的な役割を果たしています。彼は、粘土を用いて、社会的および文化的なテーマを探求し、過去と現在、そして未来をつなぐメタファーとして使用しています。粘土は、地球の最も基本的な素材の一つであり、その物質性は、歴史的および文化的な連続性を象徴しています。
ゲイツの作品において、粘土はしばしば彼の祖先とのつながりを表現する手段として機能しています。彼は、粘土を通じて、アフリカ系アメリカ人の歴史や文化を表現し、それを現代の文脈に再構築することを試みています。粘土の使用は、彼の作品において、時間や空間を超えたつながりを表現するための重要な手段であり、その象徴性は彼の芸術的実践において中心的な位置を占めています。
物質性と社会的変革
ゲイツの作品は、物質性と社会的変革の可能性を探求するものです。彼は、廃材や廃棄物を新たに再利用し、それを通じて、コミュニティの再生や社会的な変革を目指しています。彼の作品は、しばしば社会的に疎外されたコミュニティや、都市の再生が必要とされる地域を舞台に展開され、その過程で、アートが社会的な変革のための強力なツールであることを示しています。
ゲイツは、アートがコミュニティに直接的な影響を与えることができると信じており、その信念をもとに、さまざまなプロジェクトを展開しています。彼の作品は、物質性とプロセスに焦点を当てており、アートを通じた社会的変革の可能性を探求しています。
ゲイツの影響と遺産
シアスター・ゲイツは、その多岐にわたる芸術的実践を通じて、現代アート界において重要な影響を与えています。彼の作品は、物質性と社会的変革のテーマを探求し、アートが社会において果たす役割を再考するきっかけを提供しています。ゲイツの影響は、彼の作品だけでなく、彼が手がけたコミュニティプロジェクトや都市再生の取り組みにも及んでおり、その影響は今後も続いていくでしょう。
結論
シアスター・ゲイツの芸術的実践は、物質性と社会的変革の探求に焦点を当てています。彼の作品は、しばしばコミュニティの再生や都市再生と結びついており、アートが社会的に重要な役割を果たすことを示しています。ゲイツの作品における粘土の使用は、彼の祖先とのつながりや、歴史的および文化的な連続性を表現するための重要な手段であり、彼の芸術的ビジョンを具現化するものです。
シアスター・ゲイツの作品は、アートが単なる美的な表現手段ではなく、社会的変革のための強力なツールであることを示しており、その影響は今後も続いていくでしょう。
サポートいただけたら、とても嬉しいです。活動の費用として大事に活用します。感謝を込めて。 スギタ コウキ