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病院わらし 第一話

あらすじ
昭和の始め頃の山深い村。小学校の低学年くらいの少女が突然の病気で都会の大病院に入院するものの亡くなってしまう。

現代。大病院の小児科病棟の看護師として勤務している私は病棟でときどき小さな女の子の幻覚を見るようになる。少女はいつも誰かを探しているようだった。そして少女を見た時はいつも不思議な事がおきた。
私の母が危篤になり、郷里に帰って弟妹と苦しむ母を看病していると、ある晩三人の夢の中で幻覚の少女が亡くなった父を連れてきて母を安らかに逝かせてくれた。病院に戻った私は年長の看護師からかつて入院していた少女のことを聞き、座敷童の言い伝えを知るのだった。

#創作大賞2024  
#漫画原作部門

補足
    全体の構成

  • 1話  プロローグ

  • 2話  トモキくんにしか見えない?(小児科病棟で起きたこと)

  • 3話  切断したはずの足が痛い?
    (外科病棟で起きたこと)

  • 4話  病院の中は不思議がいっぱい!

  • 5話  おかっぱ頭の女の子

  • 6話  母危篤

  • 7話  なんでも知っている椿さん

  • 8話  さようなら病院わらし

異世界もラブもエモさも何もない懐かしい昔ぽい内容です。ターゲットは低年齢層の子供達を設定しています。

主人公が看護師と言う設定のため、多少「お仕事漫画」風のところもあります。
看護師が見てしまう幻覚の少女が起こす小さな奇跡の積み重ねからクライマックスでは少女の正体が明らかになっていく謎解きを通して生きていくのに避けて通れない、病気、事故、人の死などにも優しく触れています。 

看護師の仕事については無知なため間違っているところはごめんなさい。

文体、設定などはガッツリ昭和の匂いですが、半世紀前くらいの児童図書を意識して書いています。



病院わらし 第一話

プロローグ
昭和30年代。
やっと梅雨があけて広い空には遠くの山から入道雲がムクムクとたちあがっています。
田舎のジャリ道を赤いランドセルをしょった女の子 五人が楽しそうに話しながら歩いています。
みんな同じようなおかっぱ頭で、白いブラウスに吊り紐が付いているひだスカートを履いています。

「明日から夏休みだね。夏休み何するの?」
「私は町にいるおばちゃんの家に泊まりに行くよ」
「うちはおとうちゃんが海水浴につれていってくれるんだ」
「いいなあ」
「いいねえ」

道の向こうから数人の男の人が歩いてきました。
みんな暑いのに長そでのシャツをしっかり着て、膝から下はゲートルを巻いています。腰には大きなカラビナを下げ、肩にはグルグル巻いたロープの束を掛けています。
さすがに頑丈そうなヘルメットはあみだにかぶっています。
男たちは口々に少女たちにはなしかけます。
「みんな、お帰り。」
「明日から夏休みだな。」
「子供は夏休みがあっていいよな。おじちゃんも夏休み欲しいよ」
「通信簿は5あったか?」
「オール5だよな」
「ハハハ」
「明日からうんと遊んで真っ黒になれよ」
「くろんぼみたいに日焼けすりゃあ冬に風邪ひかないからな」
「体育と図工は5だよ」
「国語が一つあがって社会が下がったから一勝一杯」
「なんだそりゃ。野球の試合じゃあるまいし」
「健ちゃんのおじちゃん、これからお昼?」
「寿屋で飯だ」
「バイバーイ」
手を振って別れると、「そうだった。通信簿だった」
五人とも威張って通信簿を出せるわけではなさそうです。
「夏休みは嬉しいけど、その前にお母ちゃんに通信簿見せないといけないし…」
一人が憂鬱そうに言いました。
途端にみんなシュンとしてしまいました。
「怒られるのはちょっとの間我慢すればいいんだよ」
一人がきっぱりと言いました。
「そうだよね」
「そうだ、そうだ!」
 途端に元気になる五人でした。
「あのさあ、宿題ノートの『夏休みの友』ってあるじゃない。あんなのちっとも『友』なんかじゃないよね」
「あははは。そうだよね。『友』じゃない。『友』じゃない」
「とーもじゃない」
「とーもじゃない」
五人は一斉に節をつけて歌い出しました。

「タエちゃんは学校のプールの水泳教室いく? 」
「うん、もちろん行くよ。今年は二十五メートル泳げるようになりたいんだ」
タエちゃんはクロールの手の動かし方をしながら小走りにその辺を走りながら言いました。そして続けて、
「お昼ごはん食べたらうちで遊ばない? 」
「いいよ」
「オッケー」
「じゃ、あとでね。バイバーイ」
「バイバーイ」
お地蔵様の分かれ道で五人はそれぞれ家に向かってバラバラと走って行きました。

深い谷の底には川が流れていて、川から登ったところには県道が通っています。
県道といっても、こんな山の中ですから、めったに車は走っていませんし、舗装もされていません。
県道からそれて坂道を少し登ったところにある大きな茅葺き屋根の家ががタエちゃんの家です。
谷底の川をはさんだお向かいの山は下の方が竹やぶでその上はまっすぐなヒノキが朝礼の時の子どもたちのようにお行儀よく並んで植えられています。
田んぼや畑が少ない山の中の村では林業が盛んです。
杉や桧の林の手入れをし、大きく真っ直ぐ育った木は切り出して優秀な木材として出荷する。村のたくさんの人は杣人でした。


お昼ごはんを食べてタエちゃんの家のお庭に集まったみんなで『花いちもんめ』をやっていると、タエちゃんのお母さんがおやつを“おひねり”にしたものをお盆にのせて持ってきてくれました。
ヤカンごと井戸の冷たい水で冷やした麦茶とコップも一緒に置いてくれました。
(作者注:おひねりは半紙や新聞の折り込み広告などで菓子を包み上を軽くひねったもの)
みんなは庭の井戸で手を洗うと、縁側に一列に座っておひねりの紙を開きました。 なかには赤い金魚せんべいとお砂糖のかかった動物ヨーチが少しずつとかわり玉がいくつか入っていました。
(作者注:金魚せんべいは小さな赤い魚型をした揚げ煎餅で甘い蜜でコーティングがされたもの。動物ヨーチは様々な動物の形のビスケットの片面に砂糖をつけた焼き菓子。かわり玉は白い丸い飴で舐めているうちに何回も色が変わってくるもの。いずれも昭和時代では子供のオヤツとして一般的な駄菓子)
「わあー、今日のオヤツは三種類だ。豪華ー 」
「わたし、金魚せんべい大好き」
「かわり玉は最後に食べようね」
などと言いながらみんないっせいに食べ始めました。
「あれ、お母さんおひねりひとつ多いよ」
タエちゃんが不思議そうに言いました。
「あら、だれか帰ったの? 六人いたんじゃないの? 」
「最初から五人だよ」
「そうだよ。私たちいつも五人組だよ」
「ねぇー」
「ねー」
みんな口々に言いました。
「あれ?でもさっき『花いちもんめ』の時、ちょうど三人ずつに別れたよね」
「そうだった! おかしいね」
「へんだね」
五人は顔を見合わせると、何かがはじけたようにいっせいに笑いだしました。
「あらあら、じゃあこれは神様に食べていただきましょう」
そう言うとお母さんはニコニコ笑いながら、あまったおひねりをお座敷の神だなにそっと置くとちょっと手を合わせてから、奥の台所に 行ってしまいました。
金魚せんべいや動物ヨーチを食べ終わったみんなは白いかわり玉を口に入れると、
「ねえねえ、かわり玉、最初は何色が出るか当てっこしない? 」
「私のはピンクだと思う」
「私、黄色がいいな」
「緑だと思う」
まだまだ夕方まではいっぱい遊べます。
これから長い楽しい夏休みです。

夏休みが半分くらい過ぎたころのある晩のことです。
タエちゃんが夜中に急にとても高い熱を出しました。
息も苦しそうです。
村の診療所から大きな黒い革のカバンを持ったお医者様が自転車で往診に来て下さいました。
お医者様はタエちゃんの胸や背中に聴診器を当てて音を聞いたり、お腹のあちこちを押して、痛いかどうかたずねたりしました。
その後でお母さんがお盆に乗せて持ってきた洗面器の水で手を洗いながらお医者さまはタエちゃんのお父さんお母さんと難しい顔で話をして いました。

タエちゃんの家にはお父さんが山の仕事に使う軽トラックしかないので翌朝早く親戚の家に有線電話をかけて乗用車を借りました。
タエちゃんは後ろの席に乗ったお母さんの膝を枕にしてグッタリと寝たままでした。
お父さんは急ブレーキなどで自動車が揺れてタエちゃんが辛い思いをしないように慎重に、それでも精一杯のスピードを出して車を走らせました。
何時間もかけて大きな町の大きな病院につきました。病院に着く頃はお父さんもお母さんも汗で服はビショビショで、タエちゃんだけがガタガタと震えていました。

タエちゃんはそのまま入院しました。
お父さんは翌日帰りましたが、お母さんは病院のそばの旅館に泊まって入院しているタエちゃんのお世話をするために毎日病院に通うことになりました。
お父さんはお休みの日には必ず病院に来ましたが、タエちゃんは一向によくなるようすがなく、むしろ少しずつ元気がなくなっていくようでした。
そして、夏休みが終わってもタエちゃんが学校に来ることはありませんでした。

病気はどんどん悪くなり、タエちゃんは夏休みの終わり頃に亡くなってしまったのです。

夏休みが終わって宿題の工作や自由研究を持って真っ黒く日焼けした顔で登校してきた子供たちは先生からタエちゃんが亡くなった事を聞き、びっくりしました。
泣き出す子もいました。

その日、黒い服を着たタエちゃんのお父さんとお母さんは校長室で校長先生と少し話をした後、深々とお辞儀をしてからタエちゃんのクラスに来て、また少し話しをして深くお辞儀をして帰っていきました。

タエちゃんの家は急に静かになってしまいました。
時々誰かを探しているようなパタパタという小さな足音が聞こえる時がありましたが、そのうちそれもなくなってタエちゃんの家は静かでひっそりとしたおうちになってしまいました。


それから、大きな町の大きな病院は何回か建て替えられてますます大きく、立派な病院になっていました。

第一話[完]


第二話
https://note.com/preview/n078d6dcc9fe5?prev_access_key=f08346921945b1ada31036096b851016

第三話
https://note.com/preview/n97bb6546c920?prev_access_key=b09bd336c1d3a8e9328a08a482185535

第四話
https://note.com/preview/n1eb2239d6472?prev_access_key=68e811a87d6416ca1876fdac210b0015

第五話
https://note.com/koki4318/n/n01ae817a48b0

第六話
https://note.com/preview/n0113c1260416?prev_access_key=8490ed58bb985acd96a65dafad88d29b

第七話
https://note.com/koki4318/n/nb6ac7bdf1aa5

第八話
https://note.com/preview/nec54ef1f4794?prev_access_key=b824c7c924d811527c2d85f969c85c8d

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