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病院わらし 第3話

切断したはずの足が痛い?
(外科病棟で起きたこと)

私にはこの病院の看護師仲間で親しい友達が二人います。

外科病棟でお仕事をしているゆうこさんとふだんは眼科の外来にいるよしみさんです。
お休みの日にはショッピングに行ったり、三人の予定を合わせて旅行に行ったりしています。
たまたま食堂で顔を合わせていっしょにお昼ご飯を食べていたとき、外科病棟で仕事をしているゆうこさんが
「ねえ、聞いてくれる?」と真剣な顔で話し出しました。
   
外科病棟はケガをした人が入院するところです。

大きな病院ですから、大ケガをした人が入院しています。  
仕事中に高いところから落ちてたいへんなケガをした人。
交通事故をおこして救急車で運ばれてくる人もいます。
ゆうこさんの話は…

遠藤さんはたいへんなケガをして入院してきた若い男の人です。 バイクに乗っている時に交通事故にあい、救急車ではこばれてきたのです。
ひどいケガでお医者様はいっしょうけんめい治療をしたのですが、左足のひざから下を切りとらなければなりませんでした。
遠藤さんの足を切り取ったキズはだいぶ良くなってきたのですが、困ったことが始まりました。
人間の身体には不思議なことがたくさんあります。
遠藤さんは左の足のひざから下がないのに、そのないはずの足が痛いと言うのです。
人が痛みを感じる場所は脳です。
もちろん遠藤さんは自分でも左足が無いことはよくわかっているのです。
でも遠藤さんの頭の中の脳ではまだ左足があることになっているらしく、毎晩のように痛みを感じて苦しんでいました。

本当に足があるのなら、痛み止めのお薬も使えますし、さすってあげたり、冷やしてあげたりすることもできますが、かんじんの足が無いのですから私たちには何もしてあげることができないのです。
ある晩、ゆうこさんは夜勤でした。
夜勤とは一晩中起きていて患者さんのお世話をする当番です。
一人ではトイレに行けない人、夜中に薬を飲まなくてはいけない人、点滴という腕から入れるお薬の袋の交換など、夜中でも看護師の仕事はたくさんあるのです。
夜中に何回もする見回りも大切なお仕事です。
ゆうこさんが懐中電気を持って病室の見回りをしていた時のことです。

暗がりの中、遠藤さんのベッドの足もとのほうで何か動いているのがぼんやりと見えるのです。
ゆうこさんは遠藤さんが無い足が痛くてモゾモゾとうごいたり、寝がえりをしたりしているのかと思いましたが、ほんの一瞬、足もとに小さなおかっぱ頭の女の子がいるのが見えたそうです。

5、6才くらいのその子はいっしょうけんめい遠藤さんの左足をさすっていたそうです。
無いはずの左足をです。
手術で切ってしまったはずの左足がゆうこさんにはその時はたしかに見えたというのです。
ゆうこさんがおどろいてそばに行った時には女の子の姿はどこにもありませんでしたし、遠藤さんは動くどころか気持ち良さそうな寝息を立てて ぐっすりと寝ていたそうです。

遠藤さんがこんなに気持ちよさそうに寝ている姿は入院してきてから初めてのことです。
ゆうこさんは小児病棟から小さい子が寝ぼけて迷いこんできたのかとあたりを探しましたがだれもみつからなかったそうです。
ゆうこさんは夜勤でつい眠くなり頭がぼうっとしていたので幻覚を見たのかと思ったそうです。
でも、遠藤さんの無くなってしまった足を必死になってさすっている小さなおかっぱ頭の女の子の姿は確かに見えたそうです。

ナースステーションに帰って誰かに話そうかと思いましたが、夜の見回りを怖がっていると思われたり、ねむけでボゥッとしていたのかとばかにされるのじゃないかと思い、その晩のことはだれにも話さなかったそうです。
もっとふしぎなのは、その晩から遠藤さんの無くなった足の痛みがまったく消えてしまっそうなのです。
痛みに苦しまなくなった遠藤さんは治療だけでなく、足がなくても杖を使って歩けるようになるためのリハビリにもちからがはいるようになり、退院のめどがついたそうです。
私ともう一人の友だちはご飯を食べることも忘れて彼女の話にききいっていました。
『私の時とおなじだ!
あのとき私が見たあの女の子にちがいないわ』
私はずっと忘れていたトモキくんと遊んでいたまぼろしの女の子のことを思い出したのです。
気がつくともうお晝休みは少ししか殘っていませんでした。
私の話をする時間はもうなかったので、また三人で会う約束をして、午後からの仕事にもどりました。
数日後、仕事帰りに三人で会って、わたしはトモキくんと女の子の話をしました。  
二人の友だちはじっと私の話を聞いていましたが、話が終わっても声も出せず、お互いの顔を見合わせるだけでした。
「よし、これはもっと調べる価値があるわね」
いつも活発で物おじしないよしみさんが言いました。
「いやよ。こわいじゃない。かかわらないほうがいいわよ」  これはこわがりのゆうこさんです。
「だいしょうぶよ。こわいことなんかないわよ。だって、悪さなんか何もしていないでしょう?」
最初はこわごわだったわたしたちもいつしか病院の中でおきた不思議なはなしを集めることに夢中になっていました。

第三話《完》

第一話

https://note.com/preview/n0354687f452e?prev_access_key=4cb0af560a91675f5b939730924cd8c0

第二話

https://note.com/preview/n078d6dcc9fe5?prev_access_key=f08346921945b1ada31036096b851016

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