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病院わらし 第5話


   おかっぱ頭の女の子

新しい年になって、二月の半ばになると小児科病棟の前には大人の背丈くらいの立派なおひな様の段飾りがかざられました。
一番上の段のひときわ大きいお内裏さまはやさしいお顔立ちです。
三人官女や五人囃子、おともの家来。黒漆塗りにきれいな金の絵が付いたおままごとのようなお道具もたくさんあります。
プレイルームに来た子どもたちはおひな様を見て、看護師さんたちとひな祭りの歌を歌ったりしていました。

その日、私は夜勤でした。
見回りのためにろうかを歩いていると、うす暗いなかおひな様の前に小さな人かげを見たのです。
私はとっさにトモキくんと遊んでいたそして遠藤さんの無い足をさすっていた、そしてあのおかっぱ頭の女の子だと確信しました。
私はそっと足音をしのばせながら近づいて行きました。
なんで近づいて行けたのか今考えるとふしぎなのですが、その時はちっともこわいという気持ちがありませんでした。
女の子はおひな様を見上げながら小さな声で
「タエちゃん」と言ったように聞こえました。
そのとき、近づいてきた私に気がついたのか、女の子はふっと消えてしまいました。
「タエちゃん」
たしかにそう言ったのです。
その日から私の頭の中は「タエちゃん」でいっぱいになりました。
「タエちゃん」はだれなのかしら。
あのおかっぱ頭の女の子はなんなのかしら。  
でも、何も手がかりはありません。
何かわかるかもしれないと思い、私もあの子が立っていた場所に行っておひな様を見上げました。
すると、一番上の段のはしに『山本様よりご寄贈』という木のふだがあることに気がつきました。
山本さんという人がこのおひな様を病院に贈ってくれたという意味です。
その日からわたしの頭の中には『タエちゃん』だけでなく『山本様』も気になりだしたのです。

第五話 《完》

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