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病院わらし 第4話

病院の中は不思議がいっぱい

ゆうこさんと私がそれぞれ病棟内で不思議な経験をしてから私たちは不思議な話を探すことに夢中になっていきました。
ある看護師さんが話してくれたことです。
ガンになって手術をうけることになった五十代の女性の患者さんがいました。
その人は癌になったことがショックで手術もこわくてたまらず夜寝られなかったそうです。  
お医者様が何を言っても
「もう、自分は助からない。
死んでしまうのだ」と思い込んで一人でメソメソないているばかりだったそうです。
その人は若いころ結婚したばかりのご主人を癌で亡くされていたのです。
癌は今では二人に一人が罹る病気と言われていますし、手術や薬で治療できることも十分にある病気でもあります。
怖がりすぎていては気持ちの上からも体に良くありません。
家族のかたも安心して手術を受けるように話をするのですが、話せば話すほど頑なに自分は死ぬとますます思いこんで不幸を嘆くのだそうです。
いよいよ手術の日がやってきてしまいました。
朝、担当の看護師は検温のために病室に向かいました。
『あぁ、今日はいよいよ手術の日だからどんなに落ち込んでいらっしゃるかしら』
『泣いていらっしゃるのじゃないかしら?』
とこちらも重い気持ちで引き戸を開けると、彼女はどこかスッキリした顔でベッドの上に座ってしらっしゃったそうです。そしてこう言ったのです。
「今までお世話をかけてごめんなさいね」
担当の看護師はすっかり諦めきってしまったのかな?と思ったそうです。
すると患者さんは昨夜の事を話し出したのです。
こんな内容でした。
《昨日の夜、夢に昔亡くなった主人が出てきて、私の手を取って、手術は怖くないよ。君は絶対に治るから安心おし。まだまだ僕に会いに来るのは早いから治って僕の代わりにたくさん楽しみなさいと言った》というのです。
その時今までなんてバカなことをしていたのだろうとはっと気が付かれたそうです。
勝手に治らないと決めてしまって、自分を可哀想がって、不幸にどっぷり浸かって出られなくなっていたのだと。
ご主人の言葉を信じてみようと思ったそうです。

夢の中のご主人は小さな女の子に手をひかれてニコニコ笑って歩いてきたそうです。
見覚えのないその子はおかっぱ頭でちょっと古めかしい洋服を着ていたそうです。

こんな不思議なこともありました。

大きな病院なので一階には広いホールがあります。会計を待つ人、受付を待つ人、たくさんの人でごった返している時間があります。
そんな中、若いお母さんが青い顔をして男の子の名前を呼んで探していました。
迷子です。
お母さんがちょっと目を離したすきに子どもが一人でどこかに行ってしまったようです。
お母さんは受付の人のところに行って一緒に探してくれるよう頼みました。受付からは館内アナウンスで子供の服装などを放送しています。
お母さんはお腹に赤ちゃんがいるようです。

どれだけ探したでしょう。
お母さんはますます心配してもう泣き出しそうです。
あんまり心配するとお腹の赤ちゃんにも障るでしょうからとにかく座ってもらいました。
あとはもう外に出て行ったかもしれないので外を探しましょうということになりました。
と、そのとき病院の玄関から小さな男の子がトコトコ歩いて入ってきたのです。
探していた人達や心配そうに見ていた周りの人たちは一斉に歓声を上げました。
男の子は何が起こったのかわからずにキョトンとしていましたが、お母さんの姿を見るとニコニコして駆け寄ってきました。
安心したお母さんは男の子のそばに行き抱きしめると涙ぐみながら
「一人で出て行ってはダメでしょう」と言いました。
「でも、一人で戻って来てえらかったね」
すると男の子は今入ってきた入口の方を指さして、「ネーネ」「ネーネ」と言ってバイバイをしたのです。
でも、そこには誰もいませんでした。
お母さんは誰か親切な人が外を一人で歩いている男の子を連れてきてくれたと思ったようです。
そして、一生懸命探してくれたひとたちに丁寧にお辞儀をして男の子と一緒に産科に向かって歩いて行きました。
今度はしっかりと男の子と手を繋いでいました。

ちょっとしたことですがよく考えると不思議だなあということもありました。

ナースステーションには時々お菓子が置いてあります。
お医者様や看護師さんが旅行に行ってきた時にお土産にその土地のお菓子を買ってくるのです.
お菓子作りが趣味の看護師さんが自分で作ったクッキーを持ってきてくれることもあります。
その日、内科病棟には北海道の有名なお菓子がちゃんと看護師の人数分置いてありました。
そう、オリンピックの中継の中で選手が食べていたことで有名になったあの『赤い○○』と言う名前なのに黄色い箱のお菓子です。

看護師さん達はもちろん入院患者さんから見えるところで食べたりしません。
家に持ち帰ったり、休憩時間にこっそり食べるのです。
ある若い看護師さんはそのお菓子をとても楽しみにしていました。
なんと一つのお菓子の包み紙にマジックで自分の名前まで書いてしまいました。
彼女は食いしん坊なのです。

お休み時間が来たのでお菓子が置いてあるテーブルのところに行った彼女は
「あれー、私の赤い○○が無いわ」と大きな声をあげました。
「誰か食べた?」
とまわりにいた仲間に声をかけました。
近くにいた看護師さんが
「その辺に落ちてないの?」と探してくれましたが、やはりありませんでした。
「私は知らないわよ」
「私も食べたりしないわよ」
ナースステーションはちょっとした騒ぎが起きました。
彼女は半分怒ったような、もう半分は泣き出しそうですな顔です。

「ほらほら、患者さんが見ていますよ」
内科の看護師さんの中で一番偉い人がそばまでやってくると、「はい」と一つとって彼女に渡しました。
「私はお菓子は食べないから、私の分をあげますよ」この一言でもうそれ以上は誰もお菓子のことについて言うことはありませんでした。みんな、それ以上騒いではいけないとわかったの

無くしたと思って諦めていた物が翌日カウンターの上に置いてあったこともありました。

ひとつひとつは小さなことですが、よく考えたら不思議なことです。

食堂などで知り合いに会うと
「最近何か不思議なことなかった?」とすぐ聞く私たち三人のことは“不思議探偵団”と呼ばれるようになってしまいました。
第四話 《完》

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