見出し画像

病院わらし 第7話

 なんでも知っている椿さん
 
病院の仕事に戻って、またいそがしい毎日がはじまりました。

ゆうこさんやよしみさんとも会ってごはんを食べたり、遊びに行ったりできるようになりました。  
二人は私が病院をお休みしていたあいだも不思議なはなしをせっせと集めていたようで、いろいろきかせてくれました。  でも、どんな話を聞いても、私の中の『タエちゃん』と『山本様』の答えにはなりませんでした。  

こうなったらだれか知っていそうな人に聞くしかありません。  

先輩の看護師さんに、この病院のことを一番よく知っていそうな人はだれかと聞いてみました。
誰に聞いても『椿さん』と言う名前がでてきます。


 「椿さんなら昔のことを知っているんじゃないかしら」とだれもが言いいます。
椿さんは長くこの病院につとめていて誰よりも病院のことをよく知っているとうわさされているベテラン看護師さんです。

椿さんのお仕事の場所は『採血室』だということもわかりました。
 『採血室』というのは検査のために腕から血をほんの少し取るための部屋です。
初めて病院に来た人はほとんど『採血室』に行き血をとることになります。  
血を検査するとたくさんの大事なことがわかるので、とても大切な検査です。  
でも、いくら大切な検査でも、腕に針を刺されるのはだれでもいやでしょう。  
椿さんの採血は痛くないと評判になっていました。
大人でも採血がこわい人はたくさんいます。
採血をする看護師さんは何人もいて順番で呼ばれるので誰に当たるかはわからないのですが、椿さんが名人だと言うことを知っている人は
「どうか椿さんに当たりますように」とおいのりして待っているそうです。  
ある日、わたしがお昼ごはんを食べようと、職員食堂に行くと椿さんが一人で食事中でした。
空いている席はたくさんあったのに
今しかチャンスは無いと私は勇気をふりしぼってそばに行き
「おとなりよろしいですか?」と声をかけました。
「どうぞ」と言われたので私はとなりの席にすわりしばらく食事をしていましたが椿さんが食べ終わりそうになってしまったのであわてて
「あの、小児科病棟にいらっしゃったことがありますか?」とおそるおそるたずねました。
 椿さんは「はい、この病院には長いので、大抵のところは経験しました。もちろん小児科病棟もよ。」とやさしく答えてくれました。
そこでわたしは
「立派なおひな様がありますけど、寄贈してくださった山本様はご存知ですか?」と続けてききました。
「ああ、あのおひな様ね。立派でしょう。
あのおひな様は私が看護師のお仕事をするずっと前からあったみたいよ。
私も先輩の看護師さんから聞いただけなんだけど、この病院ができたばかりころに山本さんというかたのお嬢さんが入院なさったそうなの。
そして病院にたいへんお世話になったといってあんなに立派なおひな様を贈ってくださったのよ」
私はビックリして腰がぬけたかと思いました。
 『山本様』のなぞがが一瞬で解けたのです。
でもまだ『タエちゃん』の疑問は残ったままです。
それがあのおかっぱ頭の女の子の名前だったのでしょうか。
「そのお嬢さんのお名前はわかりますか?」
「それは無理ね。だって当時のことを知っている人は誰もいないもの」
椿さんはお茶を飲みながらしばらく何かを考えていましたが、私のほうを向いて 「おひなさまがどうかしたのかしら?」と反対にきいてきました。
私は何と言っていいかわからず、ただしどろもどろしていると、椿さんは
「あなた『ざしきわらし』って知っているかしら?」と今度はへんなことをきいてきました。
「知りません。それはなんですか」と答えると
「『ざしきわらし』は東北地方の妖怪みたいなものなの」と言ったではありませんか。
「妖怪!」  
私はおもわず大きな声で言ってしまったのでまわりでご飯を食べている人たちがびっくりしたのがわかりました。
「『ざしきわらし』は子どものかっこうをした妖怪で、昔からあるいなかの大きな家に住みついているの。そしてそこの家の子どもと仲よく遊んだり、家の人にちょっとしたいたずらをしたりするの。『ざしきわらし』は決して悪いことはしないと言われているわ。
それどころか、『ざしきわらし』が住んでいる家には良いことがおこるといわれているのよ」
私には椿さんがなぜこんな話をするのかわかりませんでした。


「病院はたくさんの人が来る場所でしょう。そういう場所では時々不思議なことが起きることがあるものよ」
椿さんはそう言うといたずらがバレた時のようにニヤリと笑いました。
私は何も言えずただうなづくことしかできませんでした。
椿さんはやはりおかっぱ頭の女の子のことを知っていたのでしょうか。
「そのお嬢さんはどうなったのですか」
 私は椿さんの話が終わると急いでききました。
「私が聞いた話では、お嬢さんの病気はとってもむずかしくて、めずらしい病気でね、結局なおらなくて亡くなってしまったのですって。あの立派なお雛様はお嬢さんのものだったらしいわね」
私はお昼ご飯を食べることも忘れて、椿さんの話を聞いていました。
椿さんはお茶も飲み終わると
「じゃ、お先にね」と言ってトレイを持ってサッサと行ってしまいました。
私の頭のなかはわからないことばかりでグルグルしていました。
さっき聞いたばかりの二つの話しはどうつながるのでしょう。

《不思議探偵団》の三人は私の家に集まって今まで集めた話を思い出したり、意見を言い合ったりしました。
不思議なことが起きた時期はバラバラです。
最近実際に体験したこともあれば、先輩のそのまた先輩から聞いたという途方もない昔の話もありました。
幻のおかっぱさんが『タエちゃん』なのでしょうか?
小さい子が自分のことを私と言わず、名前で言うことはよくあります。
でも、それとはちょっと違うような気がします。
自分の事を自分の名前で言うときは誰かと話をしている時です。
その子は私にはたしかに「タエちゃん」と呼びかけていたと感じたのです。
 
考えに考えて、私たちが出した結論は、 『むかし、遠いいなかの山奥からきて病気で入院したタエちゃんという女の子がいた。  
でも、病気は治らず、タエちゃんは亡くなってしまった。
その子の田舎の家にいた「ざしきわらし」がタエちゃんに会いたくておひな様と一緒に病院に来て、今でも病院の中を探している』ということでした。  
自分たちで出した結論でもそんな不思議な話は信じられませんでした。

でもそれなら幻の女の子、おひな様、タエちゃんの三つがしっくり結びつくのです。
私の見た女の子が本当にざしきわらしなのかはわかりません。

そんな結論になってから私たちは不思議な話を集めることをやめてしまいました。
私たちが騒げばあのおかっぱ頭の少女が居なくなってしまう気がしたのです。
居なくなってしまった方がいいのかもしれませんが私にはそれすらよくわかりませんでした。

第七話 《完》

https://note.com/preview/n0354687f452e?prev_access_key=bd41ffc080bca415f062ad930310b490

#創作大賞2024  
#漫画原作部門

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?