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転職という体験を通じて、自分なりに明確になった達成感と使命感の違い

日経新聞との共同企画のテーマで記事を書いてみました。
お題は「転職にまつわるエピソード」。私もちょうど転職をしたことがあり、それが人生において大きな転機になっているので、いつか文章として残しておきたいなと思っていたので、大変良いタイミングだなと思い、つらつらと、心の赴くままに書いてみました。


私は今から7年前に、石油探査サービスの外資系のエンジニアから大学の教員に転職をしました。今は機械系の学科で毎日楽器音響の研究をしながら学生の教育に明け暮れています。

先に結論を書くと、転職をしてとても良かったと感じています。自分なりのキーワードは、「達成感から使命感へ」です。(なんだか偉そうな言葉ですが…)

転職のきっかけ

転職をする直接的なきっかけは、石油業界が全体的に下向きになった時期があり、それで事業整理等があったことが一つの要因ではあるのですが、実はその数年前から仕事に対して大きな違和感を感じておりました。やっている仕事は楽しいし、目標に到達した時の気持ちのよい達成感は沢山味わえます。でも、それだけが続いていて、何となくそれには満足できなくなってきたのです。それは、自分が今味わっているものが達成感だけだと感じたからです。達成感は、簡単に言ってしまえば、仕事ではなくてもゲームでも遊びでも、何からでも得られます。そう考えると、自分はこのまま今の仕事を続けて、最終的に何が得られるのだろう。死ぬ直前に満足な人生だったと、心の底から言えるだろうか、という気持ちがとても強くなってきたのです。

実はもともと、大学院の博士課程に在籍していた頃から教育に興味があり、将来はそっちの方向で働きたいと、思っておりました。ただ、大学の中にいて、大学をずっと見ていたら、一度は社会に出たいという気持ちも強くなっていました。一度も社会を見ずに大学に残るのは、何となく不安でもありました。また、自分は英語が苦手で、でもこの分野で生きていくには世界中の人たちとの交流が欠かせないとも感じており、そういった理由から、外資系の企業に興味を持ち、まずはそこに行くことにしました。その会社では、毎日英語を使うし、上司だって外国の人にもなりますし、日々勉強になってとても充実しておりました。仕事内容も、石油を探査するためのセンサの開発で、自分の専門を生かせるところでもあり、やりがいも感じていました。でも、冒頭で書いたように、段々と、それだけが続く不安を感じていくようになりました。学生を卒業して社会人になって数年してくると、段々と自分の人生の方向性を意識するようになり、このままいくと自分の人生はどうなるのかな、という事を考えるようになるのですが、少なくとも自分はこの方向ではないなと明確に感じるようになりました。大学時代に抱いていた教育というキーワードが、会社に入って沢山の刺激を受けているうちに一旦忘れかけ、それから、無意識のうちに、段々とその気持ちが戻ってきたように感じたのです。

教育がやりたかった

そのときに感じたのが、人は達成感だけでは満足できないんだなということでした。自分の人生を掛けてでもやりたいという(大げさな表現かもしれませんが)使命感のようなものを持っていた方が、人生を豊かにしてくれるのだなぁと、何となくその時に思いました。僕の場合はそれが教育だったのです。そもそも、なぜ教育に興味を持ったかと言うと、大学の頃に研究をしていて徐々にそう思うようになったのですが、自分は、お世辞にも、世界トップクラスの頭脳は持っていなく、研究能力としては平凡な方だという自覚がありました。一方で、自分の性格的に、友達の成果を一緒になって心から喜べるタイプでもありました。それを俯瞰して見た時、それなら、自分が教育者になって、沢山の素晴らしい人材を育てた方が、自分ひとりで成果を出すより沢山の幸せを得る事が出来るし、何よりも人との交流が大好きな自分としては一緒に頑張れる仲間が増えることが嬉しいよな、と思い、教育という道に興味を持つようになったのです。
そして、研究を通してどんな成果を自分は出したいかと言うと…、もっと言うと、どんな世界を作っていきたいかと言うと、ものすごく単純かつ抽象的なのですが、この世が「どこにいても誰もが平和な世界」であって欲しいという想いが根本にあるのです。(なぜそんな目標かと言うと、単純に自分が幸せに生きたいからです。自分が幸せでいるには、友達や周りの人達も幸せでないと本当に幸せにならない。それを突き詰めると、皆で一緒に幸せ、じゃないと本当の幸せにはなれないのだと思ったのです)自分の中ではそれがゴールです。だから、極端に言えば、それを達成するのが自分の力じゃなかったとしても良いのです。そういう世界であって欲しいという願いなので、誰が叶えてくれても嬉しいのです。そういう気持ちもあったことから、より教育者としての道の方が合っているな、という想いを抱いてきました。そんな想いも、一旦会社に入って沢山の刺激を受けているうちに一旦は忘れかけてしまっていたのですけどね…。でも、刺激というものは段々と慣れていくものなのですね。そして、自分の中の強い想いというものは、一旦離れかけてしまっても、また必ず向こうから戻ってきてくれるものなのだなと、しみじみと思いました。

達成感と使命感

では、使命感とはそもそもどういうものなのか、達成感とはどう違うのか、ということを会社で悶々としている時に自問していました。それで辿りついた自分なりの使命感とは、「自分が死ぬときに誰かに託せる想い」のことなんだなと、気づきました。人は、何かを持って死ぬことは出来ません。でも、何かを遺して死ぬことは出来ます。達成感だけを繰り返した人生の最後を想像した時、自分はちょっと悲しい気持ちになりました。自分の中だけで完結する達成感だけを沢山味わったとしても、死ぬときにそれは何の役にも立ちません。勿論、「楽しかったぁ」と喜んで死ねる人もいるかと思いますが、自分としては何となく寂しい想いがあります。でも、自分が人生を掛けて作り出してきた想いや生き方を、誰かに遺して死ぬことが出来たなら、「ああ、あとは任せられる」と、悔いなく死んでいけるような気がするのです。私の場合、少しでも「どこにいても誰もが平和な世界」に近づける努力をして、少しでもそれが達成でき、そしてその想いを継いでくれる人が出来たら、きっとさらなる未来でよりその場所に近づいてってくれるだろうと、信じることが出来るのです。そうすれば、未来の世代の人たちがその平和な世界を味わうことが出来る。それを想像するだけでも何となく幸せになれます。その想いを持っていれば、死ぬときに気持ち良く旅立てる気がするのです。よくよく考えれば、言葉のまんまですよね。使命とは、命を使うこと。自分の人生できちんと命を使えれば、それが使命感となって自分に充実感を与えてくれるのでしょうね。老化や衰えというものも、しっかりと命を使っている証拠だと考えると、日々体力が無くなっていく自分にも満足していけるし、老いていく我が身にも段々と愛着が持てるように、最近徐々にですが、なってきました。何もしないままただ衰えるより、自分の目標にたどり着く為に支払った努力と引き換えに”手に入れた”衰えは、ちょっと可愛いものでもあり、そして、それがその人の味や個性を作り出す源にも、なっているのだなぁと、思います。

それと、使命感について別の見方をすると、自分の中で完結する目標は達成感となり、他者を巻き込む目標はそれが自然と使命感となる。・・・のではないかな、とも、最近思うようになりました。他者を巻き込むということは、他者と一緒に何かを成し遂げる必要があったり、他者の為に一生懸命になる。そういう行為を通して人との一体感が生まれ、そしてまた、その想いを他者に引き継ぐことが出来る。そういう想いが持てたら、それは使命感と言って良い、のかもしれませんね。人は一人では生きられませんし。

あ、もちろん、自分が企業で働いていた時の仕事が他者を巻き込まないと言っているわけではないのですが…。自分の場合は、その仕事で得られる成果や社会への貢献の内容が、自分には合っていなかったというだけです。石油を沢山手に入れることは、大事なことではあります。地球温暖化等の要因で再生可能エネルギーが増えて来て、石油の出番は徐々に細くなってはいるけれど、それでも現状ではやはり大量の石油が必要な部分もあるし、役に立つものではあるのだけれど、自分自身はそういう方向の社会貢献がしたいのではないんだよな、という想いでした。やはり自分は人の心に寄り添って、そこを幸せにするための直接的な貢献がしたい、ということで、その時の企業での仕事に使命感は持てず、得られたものは純粋な「やるべき仕事」としての達成感だけだった、という事なのです。なので、どの仕事も別に否定するものではなく、結局は、自分がどうしたいのか、何をしたら満足なのか、という問題なだけだと思うのです。人の考えは多様で、世の中にある全ての仕事にそれぞれ使命感を持って働いている方が沢山いらっしゃいます。だから大事なことは、いかに自分の仕事に使命感を持てるか、という事なのだと思うのです。それが、自分の幸せに直結するものだと思います。

多様な使命感

ところで・・・。
せっかくの日経新聞様との共同企画で、さらに自分も日経新聞は日々愛読しているので、ちょっと紹介させて頂きたい記事があります。私が感じている使命感というか、生きがいを持って生きている素晴らしい人達です。これらの記事を読んだ時、個人的にとても励みになりました、また、とても参考にもなり、自分ももっと頑張ろうという気持ちになれました。多様な使命感が見られますので、良ければぜひ読んでみて欲しいと思います。


茶道裏千家の前家元、千玄室さん。100歳です。凄いです。そしてこの記事にある、「一盌(わん)からピースフルネスを」がとても感銘を受けます。ご自身で戦争を経験されている千玄室さんだからこその想いを持って、茶道を日本のみならず世界に広げる取り組みをこの歳でされている。本当に強い使命感があるのだなと、心打たれます。「茶道を通して平和づくりに貢献するのも、亡くなった戦友たちへの供養になると思うのです」という言葉に、言葉以上の深みを感じました。

絵本作家、夢ら丘実果さん。もとは英会話の講師だったそうですが、娘さんに絵本の読み聞かせをするうちに絵本作家に転身。さらにその後事故で大怪我をして絵筆も持てなくなり・・・。しかし、娘さんの一言で前を向き(とても心打たれる言葉です)、リハビリを頑張り再び作家に。さらに、悩みを持つ子達に読み聞かせをする活動も加えられました。強い想いがあってこその復活と新たな活動の場の展開に、読んでいてとても力を貰えました。


好きなことに没頭し、それを継続し続けることができたのなら、それが自然と使命感に代わることもあるんだな、と思いました。写真のお顔、本当に楽しそうで輝いていますよね。異国のものに本気で挑戦し、全てを捧げる姿勢がとても素晴らしいなと思いました。自分が上で書いた内容と矛盾するかもしれませんが、最初は達成感を得る為のものだったとしても、全身全霊で打ち込んでいるうちにそこに使命感を見いだせることもあるのだな、と、感じました。


役者をやりながらの芸妓と、二足の草鞋。東京と奈良の往復だそうです。最初は面白そうだから、という理由で芸妓も途中から始められたそうですが、どちらも中途半端にしない姿勢が素晴らしいです。軽い気持ちで芸妓をやっているのではという空気もあるそうですが、それにも言葉で反論するのではなく態度で示そうという姿勢が小気味良いです。「芸妓ってすてきだなと思って後に続く人が出てきてほしい」という想いを持たれているようで、それもやはり大きな使命感となっているのだろうなと感じました。

自分が音楽の研究をしているので音楽ネタが多いですが…。大阪桐蔭高吹奏楽部監督・梅田隆司さん。とても熱い方です。同じ教員という立場で見ても、とても魅力的な人です。ご自身の生い立ちから監督になって多くの部員を率いていく姿がとても素晴らしいです。「音楽は本来、人と人とをつなぐものだ。音楽家として、人と人とをつなぐようなメッセージを届けたい。」という使命を持たれており、とても共感しました。


お酒が大好きなので、この記事も・・・(笑)
居酒屋にある日本全国の高校の寄せ書きノート。現在は3400冊にもなっているらしいです。最初はお客さんの意向から始めたものだったらしいけど、段々とノートを作っていくことが楽しくなっていき、気が付けばノートが我が子のように可愛い存在になっていく、というのが読み進めながらひしひしと伝わってきます。心温まるお話しです。途中病気で倒れることもあったらしいですがお客さんの励ましで復活されたり、一生懸命生きている様子に胸が温かくなります。次の世代にどう引き継いでいくか、「子どものように育ててきた宝物を守り続けたい。」という想いが、心に響きました。


以上、完全に個人的な趣味で紹介してしまいましたが(本当はまだまだ紹介したい記事が沢山あるのですが、終わらなくなってしまうのでこれくらいで…)、これらの記事にある皆さまは、本当に強くて明確な意思をもっておられます。全てが転職というキーワードに重なるものではありませんが、それでも、自分が今まで生きてきた生活の中に新たに活動を加えたりするのは、転職と同じ心境でしょう。また、転職が全てでもないので、自分の中に大きな使命感を持てたなら、その場で、そのまま生き続けるという選択も出来ると思います。
今回のキーワードの「転職」も、それありきで考えるとななか上手くいかないのかもしれません。自分の中にしっかりとした使命感があるかどうか。それがあれば、きっと良い転職先にも巡り合えるし、あるいは、転職をしないという選択もすることが出来るのだと思います。とはいえ、使命感を見つけるために何度も転職を繰り返す、という選択もあるとは思います。結局は、自分の意志でしっかりと決めたことであれば、どんなやり方であっても上手くいくのかもしれませんね(ここまで書いておいて、本末転倒ですかね(笑))
ただ、世界を変えたり周りに大きな影響を与える仕事をする人は、大抵その人なりの強い使命感を持っている。とは、言えるのではないでしょうか?

まぁ何はともあれ、私の場合は、転職して良かったのは事実です。そして、自分なりの使命感というものを持つことが出来て、日々、満足しております。


そして最後に、これだけは紹介したいという記事があります。

日経新聞の中で若松英輔「言葉のちから」というシリーズがあるのですが、この若松さんの文章が本当に凄い。心の奥深くからやってきた言葉を繊細に掬い取り、そっと文章として具現化する。一言一言に深みと味わいが広がっています。毎回とても楽しみにしております。その中で、使命と意思についても書かれています。
おもいがないところでは意味ある失敗すら経験できない。」とても深い洞察力だと思います。ぜひ、一読して欲しいです。



気が付けばかなりの長文になってしまいました…。ここまで読んでくださった方がいらっしゃっいましたら、本当に、、ありがとうございます。心から感謝申し上げます。




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