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宇宙の極限現象を再現:ブラックホールのジェットメカニズム解明へ

宇宙物理学のなかで、一般向けに人気の天体といえば、やはり「ブラックホール」でしょう。

まだ謎の多い暗黒の天体ですが、意味合いとしては「ある程度近づくと光でさえも抜け出ることのできなくなる」ものです。

このブラックホールにもまだ謎が多く、代表的なのは「ジェットのメカニズム」です。以前にも、それをクラウドファンディングで日本の国立研究所が資金を募った話をしましたので貼っておきます。

上記タイトル画像にもあるとおり、なんでも飲み込むはずのブラックホールから逆に何かを放出しています。これが「ジェット」です。

今の仮説は、ブラックホールの回転で磁場が発生し、それがプラズマ化された周囲のガスを吹き飛ばしているのだろう、というものでした。過去の紹介記事を載せておきます。

これはあくまで観測からの推測ですが、これを実験室で疑似的に再現することに成功した成果が発表されています。

簡単に実験のイメージを書いておきます。

プラスチックでできた標的に、パルスレーザービームを照射することで、高エネルギー密度のプラズマを生成します。ちなみにプラズマとは電気を帯びた気体みたいなイメージです。(固体・液体・機体に次ぐ第4の状態ともいわれます)

もう少し詳しく書くと、高出力レーザーを使用して、重水素(中性子の数が通常より多い水素)とヘリウム3(中性子の数が通常より少ないヘリウム)で満たされた燃料カプセル内で核融合を誘発し、陽子とX線を発生させました。

そのプラズマを濾過器のようなものでふるい分けし、それに(仮説であった)磁場をかけたらどのような挙動を示すのかを探りました。

すると、時間変化でプラズマ(電気を帯びて動いているため電磁誘導が働く)から磁場が押し出されて、その反作用的な力でプラズマ自体も磁力とぶつかって揺れる現象を確認しました。

このプラズマの揺れる様子は、「磁気レイリー・テイラー不安定性」として知られているようです。

そしてこの綱引きに似た状態が続くことで、プラズマのエネルギーが失われ、磁力は元に戻ってきます。

まさにこの過程で見られる現象が、宇宙で観測されたジェットに酷似していることが今回わかりました。つまり実験室である程度検証されたことになります。

宇宙の極限現象を、コンピューターシミュレーションでなく、実験室で再現できたのは意外にレアかもしれません。

それだけ理論だけでなく実験の水準も上がっているのでしょう。いずれにせよ、近づくものは何でも覆い隠してしまうブラックホールのベールが1つはがされました。

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